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只今、監禁中です。  作者: やと
第十章 極道戦記

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「……はあ……はあ……」


 アドレナリンが尽き、俺は床へ仰向けに倒れた。俺ほど疲れてはいないけど、組員達も顔に疲労を見せている。我ながら良くやった。まるで意味の無い事を、アホみたいに俺は頑張った。


「いやー。十二分に金也さんの誠意が伝わったと思いますよぉ。皆も金也さんを男として認めたでしょう?」


 京香が周りの組員にそう訊ねると、「はい!」多少バラつきながらも皆が肯定的に返事した。

 しかし、疲れ切って意識もうろうな俺にとってもはやどうでもいい事だ。


「それにしても、よくこんなにも長い時間戦えましたねー。体は疲れていたわけじゃないっすかぁ? 人間ってのは凄いですねー」

「はあ……はあ……」


 まだ動かせるのは眼球くらいで、京香の言葉に相槌を打つ事もままならない。


「お疲れのところ申し訳ありませんが──実は……」


 京香は俺の頭のそばでしゃがみ、耳元に口を近づける。


「ここだけの話、巫女さんに頼まれていたんすよぉ。金也さんを動けなくなるくらいに運動させろって」

「?」


「どうしようか迷ったんですけど、ちょうど良く金也さんが宣戦布告をしたなんて報告を受けましたので利用させていただきましたぁ」


 何かしらの思惑があるとは分かったいたけど、巫女が原因だったとはな。


「……なんでまた、巫女はそんな事を?」


「私が何かした方が良いか? という問いの答えでしたから、深い意味はないかもしれません。でもおそらく、ストレス発散とか、余計な事を考えられないようにするのが目的だったのでは? だって金也さんこの家に来てからずっと、巫女さんの事が心配と顔に書いてありましたよぉ」


 エロい事を考えている時は鼻の下が伸びるてる自覚はあるけど、そこまで俺の感情はまる裸なのかよ。

 というか、巫女は人を運動させる事が好きだな。あいつと出会ってからアスリートの如く体を酷使してる気がする。


「金也、ここで寝ると風邪を引くんだよ」

 倒れている俺のそばに鰻子が寄ってきた。


「寝やしねーよ。ちょっと休んでんの」

「そうなの? 鰻子も寝るんだよ」


 鰻子も俺の隣に寝そべった――かと思えば、俺の腕を枕にして数秒後、「ぐー」眠った。


「嘘だろ、寝たのかよ鰻子?」


 あまりの早さに驚愕だ。ゲームの世界で泊まった宿屋のベッドを思い出したぜ。


「金也さんを応援して疲れたのでしょうねー。いいですよ、別にここで寝ていても」

「俺が良くねーよ。でも、しばらくはこのままだな」


 体も動かすのだるいし、鰻子を起こすのも悪い。


「お前すげーな。見直したぜ。まさか八島家名物『無限組手』をやり遂げるとはよ。ま、今回は剣道だから組手とは言わねーのかもしれねーがな」


 今度は顔面を腫らした太華が顔を見せた。狩りに行くなんて言っておいて、相当痛い目を見たようだ。


「色々訊きたい事はあるけど、何だその八島家名物ってのは?」

 眉をひそめて訊く。


「昔からの伝統でよ。この組へ信頼や忠誠心を示す方法としてひたすら組手をし続ける儀式みてえなもんだ」


 本当に信頼とかを得る為の事だったのか。どのみち理解不能だがな。


「そうだろ姐さん?」

「まあね。金也さんは剣道を習っていたようですし、ついでに皆も良い経験になりましたよぉ。まさかここまで金也さんが剣道が強いとは思いませんでしたけどねー」


 自慢じゃないが、確かに俺はセンスがあると他人から褒められた事が唯一剣道だけだった。

 だけど習っていた当時、剣道をやるのはただのストレス発散であり、極めようだなんて思うことはなく、試合に出るのも気分次第だった。


 さらに自慢すると、俺は試合で負けた事が無い。

 試合数が少ないというのもあるけど、しいて言うなら、俺の人生で自慢できる数少ないエピソードである。


「あーなるほど」と、何かを悟ったように京香が言った。

「どした?」


「金也さんにも取り柄があるとでも、言いたかったんですかねー」

「取り柄?」


「今思えば、うちで剣道をやるように薦めてくれていたのは巫女さんでしたし、私もまんまと利用されたという事でしょうか? まあいいですけど」


 俺の疑問に答えているというよりは、ずっと独り言を話しているようだ。ゆえに俺も多少イラつく。


「だから、ちゃんと説明してくれないと分からねーよ」


「昔巫女さんに言われた事があります。不必要な人間は確かに存在しているけども、何も出来ない人間なんてのはいないと。何か一つでも自信を持つ事が出来れば、見える世界が格段に広がる……と。つまり、極道と戦ったという経験が、少なくとも金也さんにとっては自信になったという事でしょう」


 京香の言っている意味は分かるけど、一体どんな自信がついたというのかイマイチ分からない。

 極道とも渡り合える強さがあるという事を言っているのならば、そんな過信をするほど俺は自惚れるつもりはない。かろうじて持ちこたえただけである。


「こういうのは過信でもいいんすよぉ。偽善でも、虚言でも、最終的に本物にすればいいだけですからねー。問題なのは、失敗や恥を畏れる恐怖心です。長くなりましたが、巫女さんは金也さんにこう言いたかったのですよぉ。お前は弱くないだろう、と。ま、憶測ですよ?」


 俺の心を読み取ったかのように補足してくれた。本当に京香の憶測なんだろうけど、妙に真実味のある話だ。

 これまで巫女が俺にしてきた事を考えると、素直にそうなのだろうと受け入れてしまう。


「……なあ、巫女って俺をどうしたいんだと思う?」


 ずっと答えが出なかった疑問を京香に訊ねてみる。


「逆ですねー。巫女さんがどうしたいわけではなく、金也さんがどうしたいかです。まだ気付いていないのですかぁ? 金也さんは今分岐点に立っているのですよぉ」


「分岐点?」

「何でもかんでも私に訊かないで下さいよぉ。自分で考えないと、脳が萎縮しちゃいますよ」


 考えても考えても分からないから訊いたんだっての。


「はあ……」


 鰻子の寝顔見てたら、俺も眠くなってきたぜ。ちょっと昼寝でも、しようかな。


 あの時ああすれば良かった。

 ああすべきだった。


 ああしていたなら違った結果になっていた──など、後悔の無い人間なんてほとんどいないだろう。


 俺も数え切れないほどの失敗がある。

 タイムマシンが手軽に買える時代になったなら、数えるのも面倒になるほど過去に戻るだろう。


 しかし、実際にそんな事が出来るはずもない。

 タイムマシンが出来る可能性うんぬんではなく、結局のところ、タイムマシンが出来ても過去へ戻れるのは権力のある、とある限られた人間のみだろう。

 必ず倫理的な問題が出て、一般人は乗る事さえも出来ないだろうな。


 そもそも、一般公開なんてされないかもしれない。

 だからそんな限りなくゼロに近い希望にすがり付いて途方に暮れるよりも、前を向いて歩いて行った方が良いと考えるのが普通である。

 それでも簡単に前を向けないのが厄介で、ずっとその場で地団太を踏んでいたのがこれまでの俺だった。

 だが、俺が何年もくすぶっていた問題の数々は、巫女に出会ってからあっという間に消えていった。


 巫女のおかげだと思うのはどこか胸につっかかるものがあるが、それを否定する事なんてのは出来やしない。


「はぁ……」

 溜め息ばかりだ。


 俺は道場で昼寝をした後、夕飯を食い、鰻子と子供達が京香に勉強を教わっている隙を見て外の空気を吸いに庭へと出ていた。花壇の縁に座り、日が落ちた空をジッと眺めている。


 体は不思議と痛みはなく、わずかな疲労感しかない。俺の体はこの数日間の激しい運動を体験した事により、回復スピードを急速に早めたようだ。

 もしくは、遅れて後日痛みに苛まれるかだな。


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