表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
只今、監禁中です。  作者: やと
第十章 極道戦記

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

160/188


「えっ!? ちょっと急すぎ――おわあっ!」


 開始の合図と共に巨人スキンヘッドが俺に向かって突進してきた。完全に油断していた俺は体勢を整える間もなく、悲鳴を上げて横へ飛んだ。


 パーンッ!

 強烈な破裂音が耳に届き、俺は自分の身に付けた何かが壊れたのかと思った。

 が、俺の体に異変はない。


「……!?」


 咄嗟に飛んだのは正解で、どうにか巨人スキンヘッドと衝突事故をせず済んだ――のだが、目の前に見えたのはへし折れた竹刀を床に叩き付けた巨人スキンヘッドの姿だ。


「折れた」


 必要最低限だけのその言葉が鮮明に聞こえてきたのは、この光景に皆が愕然とし、道場内が静寂に包まれたからである。


「お嬢、折れた」


 面を外し、まるでコーンの部分を残してアイスを落とした子供のように悲しげな顔をして京香に歩み寄る。


「次!」


 京香は無情にもスルーして、次の対戦相手を俺の前に立たせた。


「よろしくお願いシマース」


 次の対戦相手はペペだ。

 見るからに身体能力が高そうな印象を見受けるペペなので、巨人スキンへッドとの対戦が無効になった事に安堵してる場合ではない。

 むしろ動きが速そうな分、こちらの方が厄介かもしれないしな。


「侍ボーイ、チャンバラごっこデスネー」


 結果的にこいつとやるハメになってしまったな。


「手加減してくれよ」

「日本語難しいデース」


 都合の良い耳だな。


「始め!」


 俺のタイミングなんてお構いなしで、再び体勢を整える前に試合が始まった。だが、ペペは突進してくることはなく、竹刀を前に構えてその場で動こうとはしない。俺の出方を見ているのだろう。

 しかし、俺も同様に様子を見ている為、しばらくこう着状態が続いた。


「きえーーーーーい!!」


 ペペが奇声を上げる。

 街中で突然叫んだなら確実に危ない人間だが、剣道ではごく普通の事だ。特に気にする事はなく、俺は集中して隙を狙っていた。


「ひょええーーーーーーーーーーーーーーい!!」


 ペペが奇声を上げる。

 今までに聞いたことの無い奇声だったので少し動揺したが、長く気に留める事なく試合に集中する。


「ペレレレレレレレレレレレレ!!」


 ペペが奇音を鳴らす。

 舌を高速で捲くりながら、電話の着信音のようなリズムで音を鳴らしている。一瞬呼吸が止まるほどに驚いたが、すぐさま集中を取り戻す事に成功した。


「アンベラガンボロアンベラガンボロ! ぺロ! ペロ! ペロ!」

「うるせえなお前!! 何なんだよさっきから!?」


 ペペが唱え出した謎の呪文だけはさすがに無視は出来なかった。


「私の故郷のおまじないデース。相手の手足を痺れさせマース」


 確かに色んな意味で痺れたわ。


「んなもん効くわけねえだろ。おい京香! やるならちゃんとさせてくれよな!」


 せっかく千歩譲って試合をしてやっているというのに、緊張感が保てないこの事態を苦情する。


「すみませんねー。私が冬休みに入ってから皆に剣道を学ばせようという予定だったので、実は今日初めて竹刀を握る奴もいるんですぅ」

「いるんですぅって、剣道を知らない人間と試合なんて出来ねえじゃん」


「適当に叩き合えばその内学んでいくから良いかと思っていたわけですよぉ。意外と細かい事を気にするんすね。仕方ありません、まずは私が見本を見せましょう」


 京香は息を吐き、面を被って立ち上がる。そしてペペを下がらせ、代わり俺の前へ立った。


「お手柔らかにお願いしますねー金也さん」

「いや待て」


 強制的に審判が試合を初めてしまう前に、俺はどうしても京香に問うべきことがあった。


「お前が持ってるのって、木刀だよな?」


 本来手持つべきなのは竹刀だが、京香は堂々と木刀持って構えていた。


「はい」

「はいじゃねえよ。お前俺を殺す気満々じゃねえか」


「やだなー、殺すつもりなら真剣を持ちますよぉ。半殺しですぅ」

「ふざけんな。いや、勘弁してください」


「仕方ありませんねー。金也さんは文句が多いですよぉ」


 ぶつぶつと愚痴を言いながら、渋々と京香は竹刀に持ち替えた。


「では、宜しくお願いします」


 腰を下ろし、戦闘態勢に入る京香の姿は、これまた前の二人と違う威圧感がある。やりにくさで言えば京香の方が圧倒的に上だ。人を血祭りにした姿を目の当たりにしてるし、純粋に剣道が強そうだ。


「始め!」


 試合が始まる。

 どうして俺が京香と剣道の試合をしているのかという疑問はひとまず保留にしておいて、どういう決着がこの場で最も望ましいのかを考える。


 本気でやって負けるのは良い気はするが、勝った場合はどういう反応を周りが示すのか、それが問題だ。

 おそらくわざと負けるような行動は分かるだろうし、そんな事は間違いなく俺にとってマイナスだ。

 じりじりと間合いを詰め、竹刀の先を当て合いながらも俺はまだ迷う。


「面!」

 と、京香は素早く俺の頭上目掛けて竹刀を振り下ろした。


 だが俺もド素人では無いため、瞬時に首を横に倒して避け、逆に京香に頭上目掛けて竹刀を振り下ろした。


「メーーーーーーーーーーーーーン!」


 バシン! と、竹刀は綺麗に京香の頭を打ち抜いて音を立てる。完全に一本を取ったと思った俺は審判を見た。


「……」


 だが審判は、鼻をほじって遠くの方を見つめていた。


「おいちょっとまべっ!?」

「面!」


 ふざけた面した審判に講義をしようとした隙を突かれ、京香に思いっきり面を食らう。


「十本!」

 すると審判は京香の勝利を示す赤旗を揚げた。


 頭を抱えた俺は様々な疑問を背負ってしまったわけだが、一つずつ解決する為にまず審判へ言う。


「お前剣道のルール知らねえだろ!? 何だ十本って」


「一本の十倍だぜ」

 真顔で答えた。ぶっ飛ばすぞ。


「おいおいふざけんのも大概にしてくれよ。ただでさえ俺はこの理解不能でクレイジーな事に付き合ってやってんだ。こっちの誠意がどうこうの前に、そっちが真面目にしてくれない限りはどうしようもねえだろ!」


 堪忍袋の緒は行方不明。開きっ放しの袋から俺の怒りが溢れ出てくる。


「……ぐす……ぐす……」

 面を外して床に座り込み、再び京香が泣き始めた。


「剣道のルールを知らないのは私の責任ですぅ……ぐす……なんなら私を気が済むまでぶって構いませんから許していただけませんかぁ?」


 涙を流すような演技をしながら京香は皆に聞こえるような大きめの声で言う。普通の人間ならば、あからさまな棒読みに白けてるところだが、忠誠心のある京香の家族は気が気でない。


「お嬢!」

「お嬢を泣かす奴は死刑だぁ!」

「おんどれボケカスハゲこらぁ!?」

「童貞の分際でお嬢を二度泣かすとは」

「童貞のくせにな」


「ああああああああああああああああああああああああああ!!」


 雑音をかき消すように、喉を裂くような叫び声を出す。もはや俺の理性は崩壊し、単にこいつら全員を叩きのめしたいという意思に支配された。


「もう切れた。もうどうなったっていい!! お前ら全員かかって来いやああああああああああああああああああああ!!」


 取り返しのつかない言葉を組員に向けて放つ。


「さすが金也さん。そうでなくては面白くありません」

 京香は何事も無かったかのように笑顔を見せて立ち上がった。


 そして、「骨が折れる程度は、勘弁してくださいねー」


 こうして、俺はこの後数時間もの長い時間、理不尽かつ無意味な剣道の試合をひたすら繰り返した。始めに京香が言っていたように勝敗は関係なく、終了の鐘を鳴らせるのはあくまでも八島組である。


 気付いた時には鰻子や京士郎や大地達が応援していて、また気付いた時には傷だらけの太華も混じっていた。

 防具をしているのでそこまでダメージを受ける事は無かったが、長時間も戦うというのは当然のごとく俺の体を痛めつける。

 ただでさえこの数日間の疲れが溜まっていた体には酷で、数時間もの時間を立っていた自分の精神力を称賛したい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ