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只今、監禁中です  作者: やと
第十章 極道戦記
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「ったく、生意気な奴らだぜ。遊んでばかりいないで勉強でもしてろ!」


 そんな捨て台詞を叩きつけて太華は立ち去ったのだが、勉強をするのはお前もだろとツッコミを入れたいところだった。


「今さらなんだけどさ、あいつって何歳なんだ?」


 そういえば太華の年齢を知らなかったので、目の合った京士郎に訊いてみる。


「十六だったと思うけど」

「……」


 ま……そりゃ年下だよな。二十歳過ぎてあんな格好していたら天然記念物だ。だけどやっぱり年下と知ると、なんか複雑な気分だぜ。


「じゃーん!」

 去る太華の背中を眺めていると、家の中から鰻子が飛び出してきた。


「着替えたんだよ」


 と、本人が言っているように、黄色いパーカーと白いワンピースを着たいつもの格好――プラス、京香が気を遣ったのか、体操服のジャージのようなズボンをワンピースの下に穿いていた。


「京香は?」

「どこかに行ったんだよ」


 多分道場に戻ったんだろう。


「よし、じゃあ雪だるま作ろうか。お前らも手伝えよ」

 自然と視線が鰻子に向いている京士郎と大地に言った。


「仕方ねえな」

「ちょうど暇だしな」


 素直じゃねえな。

 何にせよ、京士郎と大地も加わり、ようやく俺と鰻子は本格的に雪だるまを作り始めた。


 最初は巨大な雪だるまでも作ってやろうと思ったのだけど、四人とはいえ大人は俺だけなので限界があり、結果的には鰻子と同じ背丈くらいの雪だるまが五体……「出来たぁぁぁあ!」完成した。

 木の棒を手と鼻、枯れ葉を目に見立て、バケツを帽子にするという絵本に出てきそうな雪だるまを作った。


 横一列に並んだ雪だるまを右から指を差して、「ウナンダム、ウナンガー、ウナンゲリオン、ズゴック」だよ。


 鰻子は命名した。

 なぜズゴックだけズゴックだったのか、それは神ですら知る事のない新たな謎だけど、鰻子の満足そうな笑顔を見て、俺は妙な達成感を得ていた。


「はあ……」

 しかし、重労働だった。


 俺は花壇の縁に腰をかけ、雪だるまのそばで和気あいあいとする鰻子と子供達を眺める。日曜日のお父さんの気持ちが今なら分かるぜ。


「おっ?」


 座って休んでいたところに一台の車がやってきた。玄関前に停車したその車から出てきたのは充電器を買いに行ってくれていた杉内さんだ。


「金也さん。お待たせしました」


 俺を見つけると一直線に歩み寄り、充電器の入った手のひらくらいの大きさの紙袋を渡してくれた。


「わざわざすいませんでした」

「いえ。では、私は車を入れて来ますので」


「はい」


 杉内さんは再度車に乗ると、家のそばに建てられたガレージへ向かった。さて、ミコリーヌの為にも早速充電しに行ってやるか。ダラダラしてたら杉内さんにも悪いしな。


「鰻子ー! ちょっと俺部屋に戻ってくるからな!」


 黙って行くと心配してしまうだろうから、俺は声を張って鰻子に伝える。


「うん。分かったんだよ!」

 両腕で頭上に円を作って答えた。


 鰻子の返事を聞き、俺は家の中に入る。靴を脱ぎ、スリッパを履き、正面の階段を上ろうとしたその時だった。


「――あ!? お、おはようございます」


 人の気配がしたので見上げると、階段を降りてきたのは京香の父親だ。両脇に厳つい組員を連れ、どこかに出かけるつもりのようだが……この鉢合わせはとても気まずく、何より怖い。


「おお! どうだ、うちは?」


 うわっ。濁声で話かけられた。


「は、はい。良い家です」

 悪いなどと言えるはずがない。


「ガハハハ! そうか。それで、お前は本気で京香と付き合っていく気はあるのか?」


「は?」

 俺は呆気に取られた。

 耳を疑うような質問に、俺は思考回路が一時停止する。


「隠さなくていい。巫女の友人で仕方なく預かるというていで泊まっているが、実は京香と付き合っているのだろう?」


 格闘ゲームのキャラクターみたいなゴツイ体格をして何を言っているんだこのおじさん。脳筋バカってのはこういう人間の事なのか?


「どうした黙り込んで、図星なんだろう!?」

「……いやいや! 付き合って無いですって!!」


 手と首を振って激しく否定した。

 すると、京香の親父は血相を変え、ゆっくりと一段ずつ階段を下りて俺に近付いて来る。反対に俺は一歩ずつ後退りする。


「なにぃ!? ならば京香を嫌っているというのか!? 貴様ごとき軟弱な小僧が!?」


 活火山のごとく怒り出し、唾を吐き散らしながら圧倒してくる。


「いやいやいやいやいや!! 嫌うなんて滅相もございません!」

「だったら好きだという事かぁ!! 貴様ごとき貧弱な小僧が!?」


 正解が無い!?

 もう何を言ったら正解なのか分からねえよ。俺泣きそー。


「一体どうなされたのですかな、鬼平殿」

「?」


 理不尽に俺が怒鳴られていたところ、二階から聞いた事のある男の声が聞こえてきた。その声に反応して視線を向けると、階段を下りてきたのはまさかの巫女パパだった。


「……え!? なんだここにあんたがいるんだよ!?」

「はっ!?」


 指を差して驚く俺、そんな俺を見て巫女パパはさらに驚いた表情をしていた。見られてはいけないものを見られたかのように、あたふたとして落ち着きが無い。


「ん? 本間さん、この男と知り合いなのか?」


 京香パパにそう訊かれた巫女パパは、遠くの方を見ながら「いやー、ミーは知りません」と虚言する。


「おいおい、なんだよそれ。ホント、何でここいるんだっての?」

「彼は我輩の雇った殺し屋で、昨晩は打ち合わせも兼ねてうちで飲んでいたのだ」


 俺の質問に答えてくれたのは京香パパだった。しかし、その答えよりも『我輩』という一人称の方が気になって仕方がない。

 どうやって育ったらそんな一人称になるんだ。


「ちょちょ、鬼平殿、それを言ってもらっては困るのだが」


 巫女パパは慌てるように京香パパに耳打ちした。俺には丸聞こえだが――と、なるほど。


 何となく理解したぞ。

 確か巫女パパは昨日巫女にお金を返す時、誰かに雇われたというような話をしていた気がする。


 で、それが京香の親父だったわけか。俺にバレてまずそうな顔をしているのは、自分のポンコツさがバレてしまうのが嫌だからというところかな。

 それにしても、京香はこの事を知っていたのか……もしそうなら、あいつも色々と複雑な心境だろうな。


「とにかく、ミーはユーを知らない。ユーはミーを知らない。オーケー?」

「オーケーじゃねえよ。ていうかさ、巫女は今倒れて入院してるんだぞ! こんなとこで何やってんだよ! あんた巫女の父親だろ?」


 いくら事情を知らないとは言え、なんか腹立ったので怒り気味に伝えた。


「ああ、それならば知っている。昨晩ちゃんと病院に侵入して見舞い行ったからな」


「なんだ、知ってたのかよ?」

「ミーは優秀な殺し屋だから何でも知っているのだ」


 なんだろう。イラッとするな。


「――なにっ!? 本間さんって巫女の父親だったのかっ!?」


 完全に間違ったタイミングで京香パパが突然驚いた。


「そうです。ミーは世界一賢くて可愛い巫女の父親です」

 巫女パパは自慢げに胸を張る。


 一方、俺は京香が病院で言っていた話を思い出していた。

 巫女パパが巫女の本当の父親かどうかという疑問だ。ただ、それを本人に直接訊く勇気は俺には無い。


「おお! 何という偶然。あの巫女の父親という事ならば、あなたが超一流の殺し屋という事に更なる確信を持てる! 今回の仕事を無事終わらせる事が出来たら、我輩専属の殺し屋として雇わさせていただきたい!」


 全く似ても似つかない二人だが、そんなツッコミはさておき、京香パパの持つ巫女への印象も相当ひどいって事だな。

 あいつ一体何をやらかしたんだろう。


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