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只今、監禁中です  作者: やと
第九章 黄色い牛乳
145/188

10


「着きましたよ。私の家に」

「え、マジ?」


 うな垂れた頭を上げて外を見た。

 正面に見えるのはデカイ木戸門で、車はゆっくりとその門をくぐって中に進入する。実家に立派な門があるという時点で十分驚く理由にはなるが、その先にはもっと凄い景色が広がっていた。


「……もしかしてこの土地全部が京香の家?」

「はい」


 開いた口が塞がらない。

 サッカーグランドが二つ分ほど余裕で入るだろう広い日本庭園の中を車で進みながら息を呑む。

 先ほどまで俺達はコンクリートジャングルにいたはずだったのだが、今見えるのは錦鯉の遊泳する池や色んな種類の庭木が植えられた庭園であり、とてもここが街中にあるとは思えない。


「もう少し前に来ていただけたなら美しい庭を見せられたのですが、今は葉も落ちてしまって残念です」

「いやいや、それでも十分綺麗だよ。めっちゃすげえな! なんだこれ」


 都内でこれほどの土地を所有しているとか、八島家の総資産とはどれほどあるのだろうか?


 ていうか、ヤクザってそんなにお金持ってるんですか?

 俺自身、裕福な家庭に生まれていたと思っていたけど、金持ちの定義を再認識せざるを得ないようだ。

 と、あれやこれやと考えていると建物が見えてきた。


「なんだあれ? でかくね?」


 日本庭園の先には日本らしい木造の建物が建っているのかと思っていたけど、見えた建物は現代的なデザインだった。

 大きさは学校の体育館ほどあり、全体的に黒がメインで怪しさ満点の外観ではあるが、多分俺にそう思わせているのは道に立ち並んでいる彼らのせいでもあるだろう。

 車の進む道の両脇には黒スーツを着た男達がズラリと立ち並んでおり、皆が皆頭を下げて静止していた。


「なにこれ? この人達全部お前の家に住んでんの?」

「はい。家族です。全員ではないのですが、この家には八十五人だったか……まあ、それくらいは住んでいますね」


「マジかよ。ていうか、その言い方だとまだ他に家があんのか?」


「別荘ですか? ありますね。都内にもう一つ、他県にニつ、海外に二つ。それとマンションは全部で五つほど。ま、私は他の家には行った事はないのですけど」

 京香は指を一つ一つ折り曲げながら答えた。


 人類不平等万歳。善人が苦しんでいる中、悪人はウハウハだぜ。


「さてと、降りますよぉ金也さん」


 家の玄関の前に車は止まり、外にいた黒スーツの男が京香側のドアを開けた。京香は車を降り、俺もその後に続いて車を降りた。


「お嬢、お勤めご苦労様です」

 ドアを開けた黒スーツの男が言った。


「話は聞いているでしょう? 私の大切なお客様に失礼の無いように」

「もちろんです」


「金也さん。これは杉内と言いますぅ。もし何か困った事があれば杉内に訊いてくださいね」


 京香が紹介してくれた黒スーツの男、身長はおそらく180センチオーバーで、ガッチリとした体つきをしており、短髪の黒髪で爽やかな風貌だ。 肌は少し焼けていて、年齢は三十前半くらいに見える。

 道端ですれ違うだけなら何ら普通の人と変わりないのだが、ヤクザという色眼鏡で見た場合、その優しそうな雰囲気は逆の印象を受ける。


「ああ、うん。分かった。神田金也と言います。宜しくお願いします」

 頭を下げて、握手を求めるように手を差し出した。


「どうも、杉内守すぎうちまもるです。ここ最近はお嬢が世話になっているみたいで、ありがとうございます」


「いえいえ! とんでもない、世話になっているのはこちらですよ」

 立てた手を横に振って謙遜した。


「鰻子ちゃーん。家に着きましたよぉ」

 京香は助手席のドアを開けて鰻子を起こしていた。


「んー……あ、京香だ。鰻子だよ」

 目を開けた途端に天使の笑顔を見せる。


「おはようございます。私の家に着いたので、中に入りましょう」

「うん。分かったんだよ。あれ、金也は?」


「ここにいますよ」と、京香は目を俺に向ける。

「あ、金也だ。鰻子だよ」


 車から降りるとすぐさま俺の体に抱きついてきた。


「後でウナゴン作るんだよ」

 胸に顔をうずめたまま言う。多分ウナゴンってのは雪だるまのことだと思う。


「ああ、雪が降って積もったらな」

 そういえば今日はまた夜に雪が降る予報だったか。


「では中に入りましょうか──と、一応言っておきますが、逃げたら駄目ですよ」


「分かってるよ」

「なら、いいです」


 俺と鰻子は京香と杉内さんの後をついて歩き、「お邪魔しまーす」玄関扉を開けて中に入る。

 真っ先に目に飛び込んできたのは靴脱ぎ場を上がった先にある虎と龍が描かれた屏風びょうぶだ。

 黒い大理石に囲まれたこの空間では違和感抜群であり、より一層その迫力が増してるように感じる。


 俺達は靴を脱ぎ、杉内さんが用意してくれたスリッパを履き、屏風の後ろにある階段を上って二階へと向かう。


「どこに行くんだ?」前を歩く京香に訊いた。


「お父様の所です。面倒ですが、一応挨拶をしておいた方が良いので」

「お父様!?」


 京香のお父様。つまり組長。全く想定していなかったわけではないのだが、まさかこんなにも早い段階で面会する事になるだろうとは……。


「お父さんてどんな人?」


「人間のクズです」

 京香は即答する。


「クズなの!?」

「はい。日本一のクズです。極道ではなく外道です」


 自分の親に対する不満などは多少なりとは誰もが抱えているとは思うのだが、こうハッキリと自分の親をクズ呼ばわりするからには余程不満が溜まっているのだろう。


「あーっ!?」

 二階に上がると、正面と左右の三つに分かれた通路がある。


 その正面の通路からこちらを指差して叫ぶ男がいたのだが、よく見ればいつぞや俺を追いかけていたフランスパン頭のヤンキーだった。

 Tシャツに短パンを来てラフな格好をしており、京香にバットで殴られた時の傷がまだ癒えていないのか額に包帯を巻いていた。名前は太華だったっけかな。


「姐さん、なんでこいつがここにいるんだよ?」

 不満そうな顔をして、ガニ股で歩み寄ってきた。


「おい太華。お嬢の客の前でその態度は無いだろう。慎め」

 ガラの悪い太華を杉内さんが注意する。


 この言葉を聞いただけで、俺は京香と太華が本当の姉弟ではないのだと理解した。


「なんだ、頭を下げろってか? 真面目だなぁ、杉内さんはよ。別に客だっつっても、俺がそいつを敬う必要がどこにあるっていうんだよ。俺は俺よりも強い奴にしか頭は下げねえ主義なんだ」


「……お前は本当に学習をしないんだね太華ぁ。いいよ、別にお前らしくしていれば。ただしね、金也さんが少しでもお前の存在を不快に感じたなら、それは巫女さんに対する無礼とみなして私がお前にケジメをつけてやるからね」


 京香は優しい口調で死の宣告をする。


「金也の兄貴! よくぞ八島家にいっらしゃいましたぁぁぁぁぁぁ!」


 太華はその場で激しく床に頭を打ちつけて土下座した。

 そもそもこいつには嫌な奴という印象しかないのでその存在はすでに不快ではあるのだが、この事はいざという時まで口にしないでおこうと思う。

 またあんなエグいシーンを目の当たりしたくはないからな。


「すみませんね金也さん。こいつまだこの家に来て日が浅いもので」

「……そうなんだ。まあ俺は気にしてないから大丈夫」


「あれ? 鰻子ちゃんはどこに行ったんすか?」

「え? え!?」


 京香の言葉を聞いて後ろを振り向く。

 さっきまで俺の後ろを歩いていたはずの鰻子の姿が見えない。慌てて辺りを見回すと、左側の通路先にある扉を開けている鰻子を発見した。


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