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只今、監禁中です。  作者: やと
第九章 黄色い牛乳

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「馬鹿じゃないの? それを今から解消しに行こうとしているんでしょ?」

「……なんだってお前はそんなことを気にするんだよ? こればかりは本当にお前は関係ないだろ。俺の問題なんだ」


「そうね。馬鹿なアンタが問題なのよ。だから賢い私が善意を持って協力してあげようって言うんだから、むしろ感謝しなさいよね」

「いてててっ!」


 一向に車を降りようとしない俺の耳を巫女は指で摘まんで引っ張る。

 それは耳を引き千切らんばかりの力だった為、俺は引かれるがままに体を移動させ、その結果車から降ろされた。


「京香。用があるならもう帰っていいわよ」

「いえ、暇なので待たせていただきます。帰りも送らせてください」


「そう。ならそうなさい」


「なあ痛いって、もう離してくれよ」


 車を降りてなおも俺の耳を摘まんでいる巫女に、苦痛の表情を浮かべて訴える。


「軟弱な耳ね」とぼやきながら耳から指を離した。

「軟弱じゃない耳なんてねえだろ。見てみろ、耳真っ赤!」


 ピンポーン!

 赤くなった耳を向けると、巫女は見向きもせずに俺の実家のインターホンを鳴らした。おかげで一瞬にして顔面蒼白になる。

 車はちゃんと二台あるので、親父も母さんもいるに違いない。


「はーい」

 インターホンのスピーカーから母さんの声が出た。


 壊れてなければインターホンにカメラが付いているはずなので、俺の姿は見えてるはずだ。俯いて落ち着かない俺の姿がな。


「……金也」と、小さな声が聞こえたと思ったら、ガチャっと受話器を置いたような音が鳴った。


 そして、「おかえり」

 それが玄関扉を開けて出てきた母さんの第一声だった。


 体型が痩せ型で、肩ほどの髪は後ろに結っている。暗い緑色のニットにベーシュのタイトなパンツ。

 年齢はまだ四十代だったはずだけど、しわもちょっと増えたな。とは言っても母さんとはたまーに外で会ってはいたので、特別懐かしさを感じるわけはないんだけど。


「そちらの女の子は……ままままさか! 婚約者!?」


 などと巫女を見ながら狼狽してる。

 俺が家に女性を連れて来たことなんてないので勘違いするのは理解出来るが、一気に婚約者と解釈するのはどうかと思う。


「はじめまして。本間巫女と言います」


 巫女は婚約者ということを否定することはなく、丁寧に頭を下げて挨拶した。心無しか声も上品に聞こえる。


「本間さんね。私は金也の母です。はあー、こんな美人さんがどうしてまたうちの金也なんかと……何か騙されたりしていませんか?」


 息子と釣り合わない巫女の容姿を見て勝手な勘違いを勝手に訝る。


「おいおい息子を疑うんじゃねえよ……いや、というか別に婚約者じゃねえし」

「え、そうなの?」


 話がややこしくなりそうなので、早いうちに誤解を解こうとした。


 だが、

「もう、お母さんの前だからって照れなくていいじゃない。んふ」


 そう言って、巫女が淑女な笑みを見せながら俺と腕を組んだ。いや、組むというよりは強い力で絞められている。


「……」

 話を合わせろということだろうが、一体何のつもりなんだろうな。


 チョーこえーよ。


「ま、とにかく中に入って入って。ちょうど新しく出来たお店のケーキを買ってるの」

「え、すぐ帰るからいいよ別に……」


 母さんの言葉を煙たがるように、俺は顔を歪めて返事するが、


「お邪魔しまーす」


 巫女は頑固な俺の腕を強引に引っ張り、とうとう神田家へと足を踏み入れた。監禁された初日には、到底巫女と実家に帰るなんてことは想像も出来なかったな……出来るわけもないか。


「適当に中で待っててね。今ケーキ持ってくるから」と、母さんは足早に廊下を歩いていく。


「はい、お構いなく」


 巫女は礼儀正しいキャラを貫き通すようだが、横にいる俺はその違和感に耐えられる自信がない。何といっても、パーカーの中に銃が入ったままなのだから。


「ふう……」

 リビングのL字のソファーに巫女と一緒に座る。


 目の前にはテーブル、正面にはテレビ、左を向けば食卓とキッチンで作業をする母親の姿――車があったので覚悟はしていたのだけど、親父の姿は見当たらない。


「はいコーヒー。ミルクと角砂糖は自由に入れてね」


 母さんは二人分のコーヒーなどをテーブルに運んでくると一度キッチンに戻り、一人分にカットしたショートケーキも持ってきてくれた。


「なあ、親父はいないの?」

 ソファーに腰掛けた母さんに訊いた。


「ちょっと買い物にね。そのうち帰って来ると思うわよ」

「ちっ」


 休みは休みなんだな。


「ところで、急にどうしたの? もしかして本当に結婚するとか?」

「違うよ。今日はそのー、あれだ……」


 俺が望んで実家に帰ってきたわけではないので言葉に詰まってしまう。


「結婚とかじゃないんですけど、実はお父さんとちゃんと話がしたいらしくて、一人じゃ不安だからと私が一緒に付いて来たんです」と、出来る彼女的な雰囲気を醸す巫女が淡々と話す。


「あらそう。だったら一人でこそこそ墓参りに行かなくても、今朝みんなで一緒に行けば良かったじゃないの」


 妹の墓のことだ。たぶん新しく生けられた花を見てバレたのだろう。


「そんな簡単なことじゃあないんだよ」

 ソファーの背もたれに体を倒して視線を外した。


「ホントお父さんに似て頑固ね。というか、もっと連絡をしてくれないと心配じゃない。メール送ってもあまり返してくれないし。こんな可愛い彼女がいるなら無視をする気持ちも分からなくもないけど、お母さんだって寂しいんだから返事くらいちゃんとしてよ。それに働いてたってコンビニにこの前行ってみたけど辞めたらしいじゃない。あんた今何をしてるの? ちゃんと働いてるの?」


 ここぞと言わんばかりに母さんは溜まっていた愚痴を言い始めた。話せないことばかりなので穴があったら入りたい気分です。


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