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只今、監禁中です  作者: やと
第八章 メメメ
134/188

17


「って、ああ!? また可愛い子発見! このマンション原石の宝庫じゃーん!」


 忙しい鬼蝮さんはバッグを投げ捨て、次にベランダの窓の前に立っていた京香に食い付いた。


「ねえ君何歳!? 君なら女優でもアイドルでも何でもいけるよ!どこかの事務所に所属してないのなら今すぐにうちの事務所に入っちゃおーぜ! 人生なんでも挑戦だ!」


 グーサインを決めて勧誘する。まるで暴走列車だ。


「えーどうしましょう?」

 意外にも京香はまんざらでも無さそうだ。


「ちょっとちょっと、いい加減スカウトなんてしてないでさ――京香、さっきの写真返してくれよ」


 話がなかなか進まないので俺は無理やり軌道修正する。京香からぐしゃぐしゃに握り潰された写真を受け取り、鬼蝮さんに見せた。


「ほら、これが例の写真です」


「あ、はいはい、ごめんさない」

 鬼蝮さんは写真を受け取る。


「実は――」


 ミコリーヌが説明をする気配がなかったので、俺が代わりに写真が撮られた経緯を鬼蝮さんに説明した。


「――なるほど」俺から話を聞いた後、床に投げたバッグの中に写真を収めた。「で、だから木村はそこでいじけてるんだ」


 いじけてるというか戦意喪失している。


「何をやってるの木村。今日は休みを返上して一日中社長と百足原むかでばらマネージャーから説教だからね! 大体花村とは同じ事務所の仲間なんだからどうして揚げ足を取ろうとするの? 草村さんの時だってわざと悪い噂を流したりとか――ガミガミ」


 鬼蝮さんはキムタキのそばまで行くと、片手は指を立て、片手は腰に当てて説教を始める。その内容を黙って聞いたところ、どうやらキムタキが人に嫌がらせをするのは今回が初めてではないようだ。

 そんな奴を置いておく事務所もどうかと思うが、花村が思っているようなえこひいきをしている感じでは無さそうだな。


「わーったよ! うるせえな。地道にコツコツ努力しろって言うんだろ!」


 キムタキは鬼蝮さんに背を向けたまま立ち上がり、目を合わさないまま部屋を出て行こうとする。


「待って待って! 君のせいで私は貴重な時間を割いてここに来てあげたんだから、バッグの中身くらい拾って拾って」

「……めんどくせえなあ」


 文句をたれながらもキムタキは鬼蝮さんの代わりに散らばったバッグの中身を拾い集める。


「本当にご迷惑をかけました。また後日花村と一緒に挨拶に来るので今日のところはこれで」

 俺や京香に向かって頭を下げる。


「俺達は別にそれでも構わないんですけど、もういいんですか?」

「具体的にどうするかは事務所で――何より私この人のマネージャーじゃないし、写真撮られた花村にも説明してやらないと」


「そうですか」


 個人的にはさっさとクビにすべきだとは思うが、そんな簡単な話ではないんだろうな。実際稼ぎ頭なわけだし。


「あ、そうそう。気が向いたら連絡してね。いつでもスターへの階段を磨いて私は待ってるよーん」


 鬼蝮さんはバッグから名刺を取り出し、京香と鰻子、最後に俺へ渡した。


「メメメ? 変な名前だよ」

 名刺の名前を見た鰻子が直球で皆が思っている事を言った。


「本当は、本名は鬼蝮メ子なんだけどねー。バツ三だから思い切ってメメメに改名したのさ! バツ四になったら『爽』にしようと思ってるんだよ」


 とんでもねえなこの人は。


「ではでは、また改めて伺うと巫女ちゃんに伝えてくださいまし!」


 キムタキがバッグの中身を拾い終わるのを確認して、鬼蝮さんは今一度頭を下げた。当人のキムタキはふてくされた顔のまま喋ることはなく、逃げるように鬼蝮さんのバッグを抱えたまま部屋を出て行く。


「あ! ちょっと待ってよ! では、ばいなら!」


 最後の最後に死語を吐き、キムタキを追うように鬼蝮さんも部屋を出て行った。


「……なんか凄いキャラクターの人だったな」

 玄関扉が閉まったのを見て俺は呟く。


「確かに。まあ無事に作戦は終了したので良しということで」と、ミコリーヌ。


「これで正しかったのかどうかは正直分かんねえけど。巫女にバレなかったという意味では大成功か」

「んー! 巫女さんに会えないという事なので、私はこれで失礼したいと思います」


 京香を腕を上げて背伸びした。


「でも、その前にちょっと洗面所で顔を洗ってもいいですかぁ? 喧嘩した後ってどうも顔の筋肉が硬くなっちゃうんですよぉ」

「俺は別に家主じゃねえんだから、いちいち訊かなくても勝手に使えばいいだろ」


「一応訊いてみただけですよ。いちいち反応しないでくださいね」


 そうニコリと微笑み、京香は洗面所に入って行った。


「はあ……」

 というか、おっさんまだトイレの中で頑張ってんのかな。


 うめき声も聞こえなくなったし、もしかして寝てるのかも……なんて考えながら視線を移動させていると、いつの間にかソファーの上で寝ている鰻子を発見した。

 バルコフもベッド上で寝てるし、何だか俺も眠たくなってきたぜ。


「神田金也」

「ん?」


 ミコリーヌに呼ばれて反応する。


「よく助けを求めなかったですね」

「……まだそんな事を言うのかよ。お前に言われなくても、俺が一番疑問に思ってるよ」


「そうですか。まあ、貴方が助けを求めない事など分かりきった事でしたけどね」

「性格悪いぞ。今に始まったことじゃねえけど」


 俺は布団の上に腰を下ろしてあぐらをかき、深い溜め息を吐いた。


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