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只今、監禁中です  作者: やと
第八章 メメメ
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「う……」


 振り向いて部屋の中を見ると、モニターから俺に据わった目で視線を送るミコリーヌと目が合う。


「本間龍斎と何を話したのですか?」

 パソコンの前に座るとミコリーヌがそう訊いてきた。


「よく分かったな。巫女の父親って」

「遠目からでも貴方の反応を見れば分かりますよ。それで、一体何を話したのですか?」


「この写真の事を話したらさ、自分が話をつけに行くって部屋を出てったよ。この写真を撮った奴が今下にいるんだ」


 指先で摘んだ写真をヒラヒラと揺らして見せた。


「勝手なことを……どうなっても私は知りませんからね」

「分かってるよ。で、鰻子は?」


 先程から分かっていたことだが、キッチンで洗い物をしていたはずの鰻子が見当たらない。


「さあ、何せ私の視界は狭いですからね。自分の部屋に戻ったのでは?」


 ミコリーヌが首を傾げたので、俺は立ち上がって鰻子を探すことにした。まあ探すとは言ってもトイレと洗面所くらいだが。


 トントン。トイレの扉をノックしてみたが反応は無かった。ならば洗面所にいるかと扉を開けてみたが……いない。


 鰻子の奴どこに行ったんだろ。


「ん?」


 視線を下に落とすと、洗面台の上にイヤホンの付いたカセットプレーヤーらしき物が置かれてあるのを発見した。


 白色で、かなり古い物だ。今の時代、実物を見る機会すらなく、年配の人ですら使ってないだろう。十代なんてカセットテープの存在すら分からないと思う。

 手に取ってみると思いのほか重みがある。ただこれも発売当時は画期的な音楽プレイヤーとして人気を博したのだろうな。


 しかし、なぜこんな物がこんなところにあるのだろうか?


 巫女の物であるとは思うのだけど、時代の最先端を作り出すようなアイツがカセットプレーヤーなんて物を持っているのは腑に落ちない。

 何か別の特殊な機能でもついているのかな──と、開いて中に入っているカセットテープを取り出してみたけど特に何も無さそうだ。


 あれ……でも巫女は音楽が嫌いだとか言っていたよな。

 そうだそうだ、思い出した。


 てことは今まで巫女がイヤホンをして何かを聴いていたのは、このカセットプレーヤーを使っていたってこか。


 ……何を、聴いてたんだろう?


 ……。


 いやいやいや、ダメだ。勝手に聴くのは止めておこう。


 封筒を勝手に開けたばかりの身としては、今罪を重ねるわけにはいかない。それに何となく聴いてはいけないような気がする。


「……」


 でも、ちょっとだけなら……。


「バルコフ!」

「オワァッ!?」


 好奇心に押されていた俺に理性を取り戻させたのは吠えるバルコフだった。俺はカセットプレーヤーを洗面台の上に戻し、尻尾を振るバルコフを持ち上げる。


「なんだ、部屋に戻ってたのか」

「そうだよ」


 廊下に鰻子が立っていた。どうやらバルコフを取りに行っていたようだ。


「じゃあオッサンとすれ違ったんじゃないのか?」


「オッサン?」

 首を傾げる。


「いや、知らないならいいんだ」

「ふーん。金也、鰻子と遊ぶんだよ」


 いつもの笑顔でそう言う鰻子にちょっと安心。もちろん断る理由はない。


「ああ、いいよ。何して遊ぶんだ?」

「これだよ」


 鰻子がパーカーのポケットから取り出して見せてきたのはテニスボールだった。


「テニスでもするのか?」

 単純に俺はそう予想した。


「違うんだよ。キャッチボールだよ」

「キャッチボール? 何でまたそんな事をしたいんだ」


「心のキャッチボールだよ」

「まるで意味は分からないけど、鰻子がしたいっていうなら俺はいいよ」


 部屋の広さを考えると余裕でキャッチボールは出来る。テニスボールなのはきっと他にボールが無かったからだろう。

 鰻子と部屋に戻り、キャッチボールが出来るほどの距離まで離れて立つ。俺はキッチン側、鰻子は巫女のベッド側にいる。


「ちょっと、二人で何をする気なんですか? まさか室内でキャッチボールとかするつもりなのでは?」


 ミコリーヌはじっとりとした重い視線を俺に突き刺してくる。


「そうだけど」

「馬鹿にも程がありますよ。パソコン壊れたり、窓が割れても知りませんからね」

「大丈夫だって。鰻子がそんな強い球を投げられるわけないだろ」


「ふん」

 ミコリーヌは鼻で笑うようにして視線を外し、モニターから姿を消した。


「金也ー、投げるんだよ!」

 ボールを持った手をあげて鰻子が言う。


「ああ、いつでもこ──」

 ビューン!!


「!?」


 鰻子が投げたボールは目にも留まらぬ速さで俺の顔を横切り──バシンッ!


 穴を空ける勢いで後ろの壁にぶつかり激しい音を立てる。その反動でボールはバウンドをしながら鰻子のもとへと戻っていった。


「あれ、金也とらないの?」


 さて、遠くで目を丸くして何かを言っている鰻子はひとまずシカトだ。俺は今起きた出来事を頭の中で整理しなければならない。

 一応確認しておきたいのは、今俺の顔を横切ったのは高速で空中を移動する未確認生物のスカイフィッシュではなくテニスボールでオーケー?


「金也ーもう一度いくんだよ!」

「まてぇぇぇぇぇぇい! まだ心の準備が出来てない!」


 鰻子がまたボールを投げようとしてきたので、俺は間髪入れずに声を上げた。

 これは想定外の展開だ。


 まさか鰻子がメジャーリーガー級の豪速球を投げてくるとはな。ロボットらしいと言えばそうなんだが、素手で受け止めてしまえば確実に指の骨が粉砕してしまう。

 キャッチどころじゃねえよ。


 ……しかし、心のキャッチボールか。


 何のこっちゃ不明だけど、このまま受け取らないわけにはいかないか。また鰻子を悲しませるような事はしたくないし。


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