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只今、監禁中です  作者: やと
第八章 メメメ
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「皮を剥き終わったら食べやすい大きさに切ってくれ」

「うん。でもね金也、ニンジンはどこまでが皮なのか分からないんだよ」


 手に持ったニンジンを凝視をしながら訊いてきた。


「え。えーっと、同じ場所を二回剥かなきゃ大丈夫だよ」

「そうなの?」


「そうなの」


 ガタン!


「ん?」


 突然玄関の方から音が聞こえた。巫女はベッドで寝ているし……花村は仕事に行っているはずだ。


「鰻子。そのまま野菜を切っててくれ」

「うん」


 気になってしまい、俺はコンロを切って玄関の方に音の原因を確かめに行く。人が部屋に入ったわけでは無さそうだが、近付いてみると玄関に白い封筒が落ちていた。

 大きさからして手紙が入っていそうなその封筒を手に取ってみようとしてみたが、鎖の長さが足りずに立った状態では取れない。


 そこで俺は廊下に倒れ、腕を伸ばして取ろうと試みた。


「んーぐぐぐっと」


 どうにか封筒に指先が届き、徐々に引き寄せて手に取ることが出来た。


「なんだこれ……」


 封筒には何も書かれておらず、切手も貼られていない。そもそも郵便物は下のポストに入れるわけだから、ここに直接届くのも変だ。

 第一ここまで上がって来られる人間なんて限定されているのだから、巫女の知り合いが持ってきたとは思うのだけど……。


 いずれにしても勝手に開けるわけにもいかないし、後で巫女に渡すとしよう。

 封筒を持ったままキッチンに戻ると、鰻子はまな板の上でニンジンを切っていた。


「──って!? おいおい何をやってんだよ鰻子!」


 よく見たら鰻子はニンジンを微塵切りするように細かく切り刻んでいた。


「食べやすい大きさに切っているんだよ」


 自信満々にそう答えた。俺は自分の説明が駄目だったと反省をする。


「まあそれで作れなくなることはないけど、肉じゃがってのはもうちょっと大きく切った方がいいんだ」


「そうなの?」

「そうなの。ちょっと包丁貸してみな」


 持っていた封筒をジャージのポケットに入れ、鰻子から包丁を受け取る。

 まずは俎上そじょうの惨劇とも言える微塵切りにされたニンジンを肉を焼いていた鍋の中に入れ、生き残っていたニンジンを乱切りして見せた。


「うお、花村みたいだよ」

「花村には負けるだろうけど、こんなもん誰でも出来るよ。鰻子もやってみな」


「分かったんだよ」


 鰻子に包丁を渡すと、俺の見よう見まねでニンジンを乱切りし始めた。しかも完璧に切ってる。教え方一つでこうも変わるとはな。

 教え方って大事だ。


「じゃがいもはニンジンよりも少し大きく切ってくれよ。煮てたら小さくなるから、大きめに切っておいた方がいいんだ」


「金也は何でも知ってるんだよ」

「何でも知ってたらもっと賢い人生を歩んでるっての」


 こうして鰻子と肩を並べて料理を作っていると、昔のことを思い出してしまう。妹の麻里は料理を作るのが好きで、たまに俺も手伝っていた。そのおかげで料理が多少できるわけだから、妹には感謝しないといけないな。


「切ったんだよ」

「よし。じゃあ炒めよう」


 切った野菜を全部鍋の中に入れてしばらく炒める。その後水と調味料を入れ、あとは煮詰めるまで待てば良し。


「あとはもう煮込むだけだから、たまにかき混ぜながら見守ってればオーケーだ」

「どれくらいだよ?」


「そうだなー、煮汁が半分くらい無くなるまでかな」

「分かったんだよ」


 鰻子はおたまを持ったまま、鍋をじっと見つめる。自分の頭を突っ込みそうで多少不安ではあるが、あとは鰻子に任せておけばいいだろう。

 米は昨日花村が炊いたっぽいのがまだ残ってるし、とりあえずは終了。


「んー!」

 俺は腕を上げて背筋を伸ばし、自分の布団に戻る。


「さてと……」


 特にやることもないし、暇潰しにパソコンで投稿動画を見るかな。

 ヘイユーチューブで見るか、それともニタニタ動画で見るか……ヘイユーチューブにしよう。動画サイトは携帯電話からでも見れていたので慣れたもんだ。


 ところで、俺は思う。最近の曲ってのはよく分かんねーや。全く興味も湧かないし。似たようなアイドルに、似たような音楽に、似たような歌詞ばかりな気がしてならない。

 俺もそう思う年齢になったのかな──というか、仕事を始めてからだな。仕事を始め出してから色んな事に興味が無くなった気がする。

 もしくは、学生時代に聴いた音楽が俺の記憶に強く残り過ぎているだけなのかもしれない。

 昔は時代遅れな大人に苛立ちさえも覚えていたが、俺はもうそんな大人になり始めてる感じがするよ。


 ……。


 振り返ってみればあっという間だったけど、前を見たらまだまだ先は長いし、拒絶せずに色々と聴いてみるかな。


「なあ、鰻子って何か音楽を聴いたりするのか?」


 流行りの音楽を知っているかもしれないという淡い期待を込めて鰻子に訊ねる。


「聴くんだよ。クラシック」

「レベル高えな!?」


 何のレベルなのか俺自身も明確に説明は出来ないのだが、クラシック音楽を聴く人間=なんか凄そうな人という潜在的に抱いていたイメージをそう表現してしまった。


「クラシックなんて聴くんだな鰻子は」

「うん、たまに音楽の勉強の時に聴くんだよ」


「ああなるほど、そういう意味か」


 鰻子は学校に行っていないから巫女に勉強を教わっているが、音楽とかもちゃんと教えていたんだな。いずれにしても鰻子から流行りの音楽を知ることは無理そうだ。


 となれば……。

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