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只今、監禁中です  作者: やと
第六章 鮮血の美少女
108/188

18


「ほほ、ほんものか?」


 なぜここに巫女がいるのか訳が分からず、俺は動揺して目を泳がせる。


「あら大変ね。私が偽物に見えるとか、手術の必要があるわよ」


「ん……っと」体を反転させ、「これは、一体どう解釈したらいいんだ?」


 このゲームの終わりは腕輪の爆発を止められるかどうかにある。巫女が目の前に現れたからといってまだ安心は得られない。むしろ警戒する。


「起爆の解除は京香の部下に頼んでおいたはずなんだけど、どうやらいないみたいね」

「???」


 何言ってんだこいつ。


「困ったものよ、あの子には。ちゃんとお仕置きをしてあげないと」

「おい、どういう意味だ? ここがハズレってことか?」


「その逆よ」

「……逆……てことは?」


「正解ってことよ。ここが私の言ってた場所。厳密言うと鳥居の先だけど、ここで許してあげる」


 その巫女の言葉は最高の回復呪文だった。俺は体を起こし、両腕を見せながら巫女に訊く。


「じゃじゃ、じゃあこれ爆発しねえの!?」

「するわよ」


「すんの!?」


「だってまだ解除してないもの。それに、解除をする為に渡しておいた鍵は多分京香が持っているから、もう無理ね」


「マジで!?」

「冗談よ」


「冗談なんかい! 何だよそれ。結局どっちなんだよ!?」


「うるさいわね。ほれ」


 巫女は俺に傘を渡してきた。

 しかも閉じている方ではなく、自分が持っている方を渡してきた。俺はそれを不思議に思いながらも、反射的に受け取る。


「!!!!!!」


 また、巫女が謎の行動を取った。

 ずぶ濡れの俺にためらうことなく抱きついてきたのだ。おかげで俺は傘を持ったまま硬直する。


「あ、あの……これは一体……?」

「寒いかなと思って」


「そうっ……すか。でも濡れますよ」

「いいの」


 なんだかいつにも増して心臓が激しく鼓動する。腕輪より先に心臓が爆発しそうなんですけど。


「そ、そういえば花村や鰻子はどうしたんだ? もう遊園地には行ってきたのかよ?」


 変な間が空くことのないように、適当に話を繋げる。


「ええ。花村と鰻子は一緒に車で待ってるわ」

「そうか。なら、早く戻ってやんないとな。色々話とか聞きたいし」


「……そ。じゃあ腕輪を外してあげる」


 巫女は体を離し、もう一つの傘を広げる。そして三段ほど階段を上り、俺を見下ろして言う。


「気が変わったわ。ちょっと付いてきなさい」

「は?」


「心配しなくても腕輪は外してあげるわよ。いいから早く」


 俺の体力事情なんて知らない巫女は、手を貸す素振りすら見せずに階段をスタスタと軽い足取りで上っていく。

 ようやく腕輪から解放されると思ったってのに、まだ何か企んでやがるのか──と警戒しつつも、ついて行くしかない俺も階段を上る。


「──だはぁ! もう無理。もう勘弁してくれ」


 どうにか階段を上りきり、俺は鳥居に寄りかかる。体力の残りカスも消費してしまった。もう本当に動けそうにない。

 遠目で見たところ、札所や拝殿に人の気配はない。ま、こんな雨の中で参拝している方がおかしいよな。


「ねえ金也、知ってる?」


 傘を差したまま俺に背を向け、拝殿を見つめて佇む巫女が言う。


「……何がだよ」

「ここの神主、去年亡くなったらしいわ。脳梗塞だそうよ」


「えっ!? そうなのか……」


 この神社の神主は、俺が小学生だった時の同級生の父親だ。つまり、同級生の父親が亡くなった。


「でも、なんでお前がそんなこと知ってんだ?」

「神主の息子がホームページを運営しててね。そこに書いてあったわ」


「へぇ」


 正直顔は何となく覚えているんだけど、名前は忘れてしまった。特別仲が良かったわけではなかったしな。でも、何だか同級生の親が亡くなったというのはショックだ。


「その息子ってのは私たちと同い年なんだけど、切ないと思わない?」


 振り向き、巫女が訊いてくる。


「まあ、確かにな」

「私はね、天才すぎるが故に忘れるという怖さを知らなかったの。でもね、最近ようやくその怖さを少しずつだけど、分かるようになってきたわ」


「……」

 俺は黙って巫女の話を聞く。


「思い出が消えたら、振り返った時に何も無いの。自分が何故ここに立っているのか、自分が何なのか、すごく不安になる。失ったものを二度と取り戻せない怖さって、アンタには分かる?」


「……まあ、それなりに」

 誰よりも分かってるつもりだ。


「当たり前のように在ったものが、ある日突然無くなる。それは当然自分自身にも言えることよ。失ってしまったら、それで終わりなの」


「……」

 巫女は俺のそばに歩み寄り、その場にしゃがむ。


「どう、腕輪が爆発すると思いながら街中を走るのはどうだった?」

「どうって、最悪だよ」


「んふ。そ。少しでも危機感を持っていたのなら、それでいいわ」

「何だそれ?」


「昔の記憶を思い出そうとすると、痛い思いをした記憶や、辛い出来事の記憶はすぐに思い出せるでしょ? アンタきっと今日という日を忘れられないでしょうね」


 そういえば、京香が言ってたな。巫女は俺を試しているとか……。


「地獄のようだった今日の記憶が、俺に決断力をつけるとでも言いたいのか?」


 そもそもこのかくれんぼをやる意味は、俺に決断力をつけるためだったはずだ。


「それは結局のところアンタ自身の問題よ。今日という記憶は、そのきっかけになるだけ」


 巫女はコートのポケットに手を入れ、マネキンの腕を爆発させた時に持っていたリモコンを取り出した。

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