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只今、監禁中です  作者: やと
第六章 鮮血の美少女
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「すみませんね金也さん。実はちょっとだけ意地悪をしようと思っただけなんすけど、うちの可愛い弟が余計なことをしちゃったみたいで。もう邪魔なんてしないように言っておくんで、勘弁してもらえませんかぁ?」


 新しい返り血が点々と付着した顔で京香は言う。俺はコクリと、静かに頷くことしか出来なかった。

 こいつ、あの巫女でも比にならないくらいに頭がおかしい。エグいなんてレベルじゃねえよ。狂ってる。


「寛大な方で良かったです。金也さんの好感度が上がりましたよぉ」

「……そうっすか」


 嫌われるよりは良いが、何だか嬉しいとは思えない。


「そうですよ。ていうか、金也さん時間は大丈夫なんですかぁ? 私なんか気にせずに行っちゃっても構わないんですよ」

「え、ああ……そう? じゃあ俺はこれで」


「はい。お役に立てなくてすみませんでしたぁ。さようならぁ」と、京香は微笑みながら手を振る。


「うん、さようなら」


 ちょうど今どうやってこの場から去ろうかを悩んでいたので、これはありがたい展開になった。


 残り時間も四時間程度しかないし、本当に急がないと──、


「な゛!?」


 早速公園から出ようとして足を動かすと、サッと素早く近付いてきた京香に体を手で押し倒された。


「ってて……なっ──?」


 地面に尻をついた俺の鼻先に、京香は人差し指を静かに乗せてきた。たぶん喋るなと言うことだろう。


「っ!?」


 と、次に京香は俺の腹の上に馬乗りになり、耳元に頭を近付けてきた。一気に俺の心拍数は急上昇する。


「巫女さんに聞こえちゃいけませんから、ちょっとだけ、こうやって話をしてもらえますかぁ?」


 脳神経を麻痺させるような甘い香りを漂わせ、耳元で囁くその声に俺は頷くこともなく、ひたすら正面の公衆トイレに視点を合わせたまま微動だに出来なくなってしまう。


「あのですね──もう何となく気付いているとは思いますけど、私の家は『八島組』っていうヤクザの本家でありまして、父親は四代目の組長なんですね」


 やっぱりか。話している途中から段々とそうなんじゃないのかと疑ってたよ。しかも八島組といえば、テレビでもたまに目にするような日本最大級の暴力団じゃなかったか?


「そんな家柄に生まれちゃった私なんですけど、こう見えて何でも出来ちゃうと言いますか、いわゆる天才なんて言われながら育ってきたわけです。そりゃあもう性格はねじ曲がって成長致しまして、自分以外の人間は全てゴミのように見下していました。親でさえもです」


 ねじ曲がった性格ってのは自覚はしているんだな。


「そんな私がこの世界で唯一尊敬しているのが巫女さんなんです。巫女さんは色んなことを厳しく、優しく教えてくれました。私にとって巫女さんとは、家族よりも、私自身よりも大切な存在なんですよね」


 京香は上体を起こし、自分の額を俺の額にくっつけてきた。


「だからいつも巫女さんを見守っています。金也さんが初めて巫女さんのマンションに訪れた日だって、組員たちが監視していました。けれど今は邪魔だと怒られたので、あからさまな監視はしていませんけどねぇ」


 もしかして、初めてマンションに来た時に駐車場に停まってた車がそうだったのか?


「まあ簡潔に言いますと、私は巫女さんの為なら何でもします。巫女さんの友達や家族も守ります。ただし、巫女さんを傷付けるようなことをした奴は……容赦なくぶち殺します」


 俺を見据える京香の目は、絶対に冗談を言っているような目ではない。これはおそらく、俺への警告なのだろう。


「きっとこのゲームも、金也さんの何かしらを試しているのでしょう。だから巫女さんの期待を裏切らないで下さいよ。期待を上回るようなことをして、喜ばしてあげてくださいね?」


 俺はゆっくりと、小さく頷いた。


「そうですかぁ。ありがとうございますぅ。だったら、今回は私の指示足らずでご迷惑をおかけしたので、ちょっとしたヒントを教えてあげますね」

「え?」


「巫女さんと約束したので詳しくは答えられませんが、私の家族は千億町にいますよぉ」


 千億町……。

 つーことは、またあっちまで戻らなきゃいけないってことか──でも、千億町のどこだ?


「では、私はこれで失礼しますね。月並ですが、頑張ってください」


 京香はスッと音を立てずに立ち上がり、未だに倒れている太華を放ったまま公園への出口に向かって歩き出す。


「うぉ!?」


 太華をどうすんのかなと眺めていたら、どこからともなく黒スーツの男が二人現れ、太華を担いで運び始める。

 そして公園の外には新たな黒色の高級車が二台停車し、京香と太華を乗せて走り去って行ってしまった。


 一体京香の周りには、常時何人の黒いスーツの男達が付いているんだろう──って、んな事はどうでもいいか。


「ハァ……」


 少しだけ、緊張感が和らいだ。


京香は笑顔で色々と話をしていたが、直感的に俺は察していた。あいつは多分、俺のことが大嫌いだ。

 ミコリーヌのような嫉妬などではなく、単純に俺という人間そのものが嫌いなんだと思う。弱い男が嫌いなんて言ったのは、きっと俺への当てつけだったんだろうな。


 ……日本の女、強くなりすぎ。


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