12
「そうですねぇ。その八島京香です。ていうか、握手をしてもらえませんかぁ?」
「え、ああごめん」
色々な理由で動揺しながら、八島京香と握手を交わした。
俺が想像していたよりも幼くて可愛らしい女の子だ。初対面のインパクトだけを言えば、巫女よりも遥かに上だな。
「いやあ、お兄さんと会えて嬉しいっすよぉ。金也さんって呼んでいいですかぁ?」
「別にそれは構わないけど……」
「ふむふむ」
八島京香は俺をジッと観察したり、匂いを嗅いだりながら、俺の体を一周する。俺は何となく息を止めて緊張し、その姿を眼球で追った。
「ふーん。やっぱり想像通りの、これといって特徴の無い人ですねぇ」
「……はぁ?」
「ところで、今はゲームをしている最中なんすよね? この腕輪が爆発を阻止するために頑張ってるとかぁ」
俺の右手をソッと両手で持ち上げて言う。
「え、知ってるの?」
「ええ。巫女さんに関わる情報は逐一私の耳に入るようになっていますから。それに、この腕輪の起爆を解除する方法を教える役目を担っているのは、私の可愛い家族ですからねぇ」
「家族……って、ちょっと待って! 頭が混乱してきた!」
急に色んな情報が入ってきたせいで頭の中はごちゃごちゃだ。
待てよ待てよ。
つまり、この子は今俺がクレイジーなかくれんぼをしていることを知っていて、この腕輪の起爆を解除する人物と家族──ということは、どこにその人物がいるかということも知って……いる?
「え、じゃあもしかして、起爆の解除をしてくれる人がどこにいるのか知ってるの?」
「まあ、知ってますよね」
「本当!?」
これは思わぬ大チャンスが転がってきた。時間的にも数打ちゃ当たる作戦は厳しいと思っていたから、正解を教えてくれるとありがたい。
「じゃあ、その、良かったらその人がどこにいるのか教えてくれたりとか……?」
八島京香の顔色を窺いながら、都合の良い、主人公補正際立つ展開を希望した。
「別に、構わないですよぉ」
鰻子に匹敵する天使級の笑顔が咲いた。
「ママママジで!? マジ助かるよ!」
正直期待薄だったが、どうやら神様は俺を見捨てていなかったらしい。俺は八島京香の両手を握り、疲れと血だらけの男子学生を忘れて喜んだ。
「本当に君と出会えて良かった。一時はどうなることかと。ああ良かった」
「いえ、今回のことは私もやりすぎだと思っていたんです。それに、京香でかまいませんよぉ」
「はぁ……本当にありがとう」
この子は普通ではないが、思ったよりも悪い子ではなさそうだ。
きっとこの血だらけの男子学生は相当うっとしいナンパでもしていたに違いない。
「お嬢!」
「え? え?」
スタタタタタタ!
突然どこからともなく、黒いスーツで厳つい顔の男が俺たちのもとへ駆け寄ってきた。
「お嬢、巫女様からお電話です」
黒いスーツの男は京香の前に跪き、携帯電話を両手で差し出す。その姿はまるで忍のようだ。
「もしもしぃ? どうしたんですか巫女さん」
京香は携帯電話を受け取ると、巫女との会話を始める。もちろん、巫女の声は俺に聞こえちゃいない。
ただただ無言で佇んで、話しながら首肯する京香の姿を眺めていた。
「え、ああ。そうですかぁ……すみません。はい、はい。了解です。あはっ、もう大丈夫ですよぉ。心配しないで、そっちはそっちで楽しんでくださいね……え? わっかりましたぁ」
と、京香は俺に携帯電話を差し出してきた。
「巫女さんが話したいそうですよ」
「巫女が?」俺は携帯電話を受け取り、「もしもし?」
「アンタ本当にツイてないわね」
「は?」
第一声の意味がよく分からなかったが、その声は確かに巫女だ。
「死にたくなかったら、間違っても京香から答えなんて聞くんじゃないわよ。いいわねカス!」
プツ。プー……プー……。
「え、あ……」
俺に一言も喋らせる間を与えないまま、あっという間に巫女は電話を切ってしまった。
「何だよこいつ……」
眉をひそめながら携帯電話を京香に返し、京香は黒いスーツの男に手渡した。
「いやあ、まさかその腕輪に盗聴器が仕込まれているとは思わなかったですよぉ。私たちの会話は巫女さんに筒抜けのようですね」
「ああなるほど」
そういえばそうだったな。
「てことは、解除してくれる人がいる場所は教えてくれないってこと?」
「ええまあ。巫女さんに言ったら八島家を吹き飛ばすとまで言われたので、あまり気は進みませんよね。ただ、金也さんがどうしてもと言うのであれば、私は身を犠牲にしてまで答えましょう」
「そっか、じゃあ……いいや」
一瞬心は揺らいだが、この子に迷惑をかけるわけにはいくまい。それに巫女の言葉も気になるしな。
あと、「というか、その人は一体……?」
もちろん京香のそばで跪く黒いスーツの男のことを言っている。
巫女の部屋で度々現れた男たちにそっくりなので、何となく予想は出来ているが……。
「彼らは私の家族ですよ」
「家族? か、彼ら……?」
「まあ、執事みたいなものです。私を守るために、常に半径百メートル以内にいてくれるんです」
「そう、なんだ」
ビーナスン女学院だし、もしかするまでもなく、京香は本物のお嬢様っぽいなこりゃ。この黒いスーツの男もお嬢とか呼んでたし。




