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「お話って……何?」
「何だろう? でも巫女がしろって言ったから、お話をするんだよ」
困ったような表情で首を傾げたかと思えば、再びニコニコと微笑んだ。見た目以上の幼さを感じる言動に俺は少し戸惑う。
「何か鰻子にお話はないの? 鰻子はなんでも聞いてあげるんだよ」
さっきから語尾が『だよ』なのが気になるな。
だが、この流れは俺にとってはチャンスかもしれない。この子は何となく嘘を言えないような性格っぽいので、質問をすれば色々と聞き出せそうだ。
「じゃあさ、俺はこれからどうなるのか鰻子は知ってる?」
「さあ? 鰻子は知らないんだよ」
首を傾げて答えた。
「じゃあさ、巫女が何を企んでいるのか知ってる?」
「さあ? 鰻子は知らないんだよ」
首を逆に傾げて答えた。
「じゃあさ、どうして俺が手錠をされているのか知ってる?」
「さあ? 鰻子は知らないんだよ」
こいつ何にも知らねえな!!
「だったらさ、鰻子はどうしてここにいるんだ?」
「鰻子がここにいるのは、金也がいるからだよ」
初めてまともな答えが返ってきた。しかし、どういう意味だろう?
「俺がいるからって、どういう意味?」
「うーん……」
鰻子は握った拳をあごに当て、目を瞑って首を傾げた。
人によってはイラっとする仕草だったが、顔が可愛いせいかむしろ絵になる。
「鰻子は金也がいると嬉しいんだよ。金也が好きだし、金也と一緒にいると幸せなんだよ!」
この上ない無垢な笑みで急にそんなことを言われても、俺の心中は戸惑うだけだった。何せこの子と会ったのは今日が初めてだし、好かれるようなことをした覚えもない。
どう解釈をしてどう返事をすべきなのかも分からない。
「鰻子はね、巫女が金也を『監禁』するって話を聞いた時には本当に嬉しかったんだよ」
「へー」
そりゃ人に好かれることはありがたいけどさ、この状況では素直に喜ぶことは出来ない。
とはいえ、喜べるような状況であったとしても相手はまだ子供だ。将来は美女ルート確定の容姿ではあるものの、さすがに大人としての自制心が働いてしまう。
いやいや、何を真面目に悩んでいるのだ、俺は。
人から好きだなんて久々に言われたからって、今俺が頭を悩ませるのはそんなことじゃないだろ。
俺が今悩むべきなのは、どうして俺が『監禁』されているのかだ。
……。
監禁ですと!?
「ちょ、監禁って言ったよね!?」
耳に残っていた聞き捨てならない単語。危うくその重大な単語を聞き流すところだった俺はすぐさま鰻子に尋ねた。
「うん、そうだよ」
かっる。
さっきまで何も知らないと断言していた奴の言葉とは思えないほどに軽い返答だ。
悪そびれる様子もないし、口が滑ったわけでも無さそうだ。変わらずにニコニコと、こっちの気も知らないで楽しそうに笑ってるよ。
「監禁ってさ、どこかしらに人を縛り付けて自由な行動を奪う、あの監禁のことだよな?」
「うーん。鰻子は金也と一緒にいれるとしか聞いてないから、監禁の深い意味までは分からないんだよ」
「……そうなんだ」
視線を床に落として、俺は考える。
監禁というのは、さすがに鰻子の勘違いでは無いだろう。そんな嘘を付く意味がないしな。
何よりこの状況は一番その言葉がしっくりと当てはまる。むしろ今までその発想が無かったことがおかしいくらいだ。
よくよく考えてみろ。
柱に腕を回して手錠をかけられているこの絵面を客観的に見てみると、監禁されてる男か、もしくはただの変態野郎にしか見えないじゃないか。
しかしそうだとしても、俺なんかを監禁してあの女に一体なんのメリットがあるんだ?
「なあ、本当に俺がこれからどうなるのか知らないのか?」
寝ている巫女を警戒しつつ、改めて鰻子に訊いた。
「うん。知らないんだよ」
「厳つい男たちが来て俺をボコボコにしたりしない?」
「さあ? でも、金也をいじめる奴は鰻子が許さないんだよ」
鰻子は凛々しい眉でファイトポーズを取った。
「ああそう……心強いね」
もうこれ以上、鰻子に何かを期待するはやめておこう。
よく分からないけども、たぶん鰻子も俺ほどではないにしろ、この事態を把握していないと思われる。
やはり全てを知りたければ巫女に訊くしかないようだ。
でも、俺はどうしても慎重になってしまう。身動きが取れないし、相手は銃を所持しているのだから。
こちらは圧倒的に不利で、何かを強く問える立場ではない。
だからせめて今俺が挑戦出来ること――それは巫女が寝ている間に、この部屋から脱出することだ。
ガチャガチャガチャガチャ。
巫女がベッドで寝転んだあたりから、なるべく音を立てないように手錠から手を抜こうと試みてはいるのだけど……なかなか難しい。
遠目で見た感じでは、巫女は完全に眠りについているように見える。ゆったりとした呼吸間隔で腹を膨らませているし、口も少し開いてる。
よし、もうちょっと力を入れてやってみよう。
「ぬぐぐぐぐっ!」
歯を食いしばり、痛みを堪え、皮が剥けてもいい覚悟で手錠から手を引き抜こうと力を入れる。
が。