その王女、冷遇してもいいですか?②
おい、嘘だろ?
何で、精鋭の筈のお前が、挨拶代わりの僕の攻撃をかわせないんだよ!
僕は、それに衝撃を覚え、呆然としていた。
「お前!敵襲、敵襲!」
仲間が倒れたのを見て、僕を敵と即断し、他の衛兵がぞろぞろとこっちに向かってくる。
マズイな、今気付いたが、僕は王女の衛兵を気絶させてしまった。
下手すれば、というか、下手をしなくても極刑だ。
おいおい、旅の開始早々に死刑ですか?
どうする?何としてでも、死刑は免れねば。
そうこう、考えてるうちに衛兵が剣を抜き、攻撃してくる。
この衛兵を倒せば、罪を重ねる事になるが、攻撃を受けることは、捕まることと同義。なので負けるわけにもいかない。
「ウラッ」
剣が僕に迫ってくる。衛兵の斬りは先程の衛兵と同じく、酷いものだった。まさか、衛兵全員がこんな有り様なのか?
あまりにも拙い。精鋭と呼ぶことはお世辞でも言えない。
何故だ何故?王女を護るという大役をこんな弱者が務めている?
「チッ」
僕が拙い攻撃をよけると、衛兵は舌打ちする。
ここは、牽制でその場凌ぎするしかないな。どうにか、逃亡したい。だが、僕が今、大量の荷物を持っていることを忘れてはいけない。
「『展開:睡魔』」
僕は『展開:睡魔』を使う。青色の光が出現し、衛兵に襲いかかる。
今回は前回の失敗を生かし、十分によけられる速度だ。
だが衛兵は、青い光を視認した時、よけるのではなく、剣で斬ろうとしたのだ。
「馬鹿っ」
そんな、僕の言葉は虚しく届かず。
バタっ
衛兵の剣が青い光に触れることはなく、スカッという、効果音とともに敢えなく空振り。結果、光は衛兵に命中。
まさか、魔法を剣で斬ろうとするなんて、愚か過ぎて言葉が出ない。
魔法を斬るなど、不可能に近いことだ。もしかしたら、熟練の剣士なら可能かも知れない。だが、この衛兵がそんな業が出来るとはとても思えない。
つまり、お眠りになった衛兵は自分の力を弁えない愚者だ。
ますます、こんな人達が何故王女の衛兵をしているのかが疑問だ。
「クソッ。陣形を立て直せ!敵は魔術師だ、青い光に気を付けろ。」
この騒ぎのため、野次馬もどんどんと集まって来ている。
衛兵は僕を中心として、半円に広がる。典型的な陣形だ。
「何としてでも、王女様をお守りする。かかれーー!」
「止めなさい!」
衛兵の雄々しい言葉に続いた声は、麗しく女々しい声だった。その言葉は、衛兵達を止め、興奮状態も収めた。
声の主は直ぐに、分かった。馬車から姿を現した、王女だった。
王女は美しかった。
美しい以外の形容が思い浮かばない程に、彼女は美しかった。
整った顔立ちに、輝いて見える金髪に蒼い眼。スタイルも完璧なほどに洗練されていた。
「貴方達、何をしているのですか!その子は子供ではありませんか!」
「王女様、恐らくこいつは王女様を狙った暗殺」
「者ではありません!見てみなさい、こんなに大荷物を持った少年が暗殺者?なんとも滑稽な話ですね?」
その通り、よく分かってらっしゃる。こんな大荷物を持ちながら、戦闘する奴が暗殺者ではないことぐらい、きちんと見れば分かる話なのだ。
「ですが、この者が魔法を使って、二人も意識不明なのですよ!」
「それは歴とした正当防衛ですよ。最初から、何があったのかは聞いていましたから。よっと!」
王女は馬車から、降りながら言った。
「なら、さっさと助けてくれても良かったのに、」
僕が、王女の話を聞いて、言うと。
「お前、王女殿下の御前であるぞ!」
恐らく、僕が王女に敬語を使わなかったからだろう、衛兵がまたも剣を抜く。
「やめなさい!ごめんなさいね、少し様子を見ようと思って。」
フフッ、と笑った王女はこの状況を心から楽しんでいるようだった。
この人は案外、意地が悪いのかも知れない。
「それにしても坊や、その歳で魔法を使えるなんて凄いね。」
王女はニコッと笑って、僕に言う。
そういえば、このひと僕を子供だと思ってたな。まあ、この身長だし仕方ないんだけどね。
「別に、それよりもこの人達が弱すぎるんだよ。」
「そうね。この人達は弱いわ。」
その時、王女はどこか遠くを見つめた。
「質問なんだけど、何故こんな非力の人達があんたの護衛なんかをやっている?」
その時、彼女の目が一気に黒くなった。まるで、直ぐ目の前に絶望が見えているような、暗い目だ。
「色々、あるのよ。王女にもね!」
さっきまでの、暗い顔を一気に明るくして彼女はまたニコッと笑った。
ああ、そういうことか、胸くそ悪い。
「なんだ、あんたは死ぬためにこの街に来たのか。」
俺は、ボソッと呟いていた。
「え?な、なんで?」
図星か。
つまりは、王族のゴタゴタで左遷でもされたんだろ。そして、名義上の護衛が、この弱すぎる衛兵なのだろう。
そして、多分だがこの王女は、直に暗殺される。弱い衛兵を付けたのもこの為だろう。
まあ、そんなことはどうでもいい。最初から、こいつらに興味もないしな。
「じゃあ、せめていい死に方を。」
僕は、王女に背を向け。歩き始める。
「貴方……何者なんですか?」
王女は、細々とした泣きそうな声だった。
「うん?僕?僕はロキだよ。冒険者をやってるっちゃ、やってる。あと、僕は成人だ。」
僕は、後ろから届いた「えーーー」という女々しい声を無視して、帰りを急いだ。
次回:その訪問、居留守してもいいですか?