彼女
「逃げてはならないよ。」
普段はおちゃらけた脈絡もない会話をする彼女なのにどうしてこういう時は核心をついたことを言うのだろう。
「いや、だっ
「だってじゃない。だってなんて全部言い訳だ。綺麗に見繕ってすごく理由っぽく理屈を吐いたってそれは全部全部醜いものなの。そんなのに自分の道を奪われていいの!?中身を奪われていいの!?君の、君の素敵な部分を枯らせていいの!?」
僕の会話を遮り、彼女は真剣な目をして吠える。
その目は僕に何かを諭させるには十分だった。
ああ、そうか。僕は寂しいだけだったんだ。自分がしたことをなかったようにされて、実際なかったことにされて。それなら自分がいなくても同じかと思って姿を消そうとした。
それを誰かに止めて欲しかったんだ。誰かに存在を認めて欲しかっただけなんだ。
それに気付いたと同時に頰がすこしむず痒くなった。
そんな僕を見て彼女は涙を流した。
「なんで君が泣くのさ。」
しょうがないなとポケットから取り出したハンカチを彼女に渡す。
「君が泣くからじゃんか。」
彼女もカバンから取り出したハンカチを僕に渡す。そうか。僕は泣いていたのか。泣くなんていつぶりだろう。
この日僕と彼女はお互いのハンカチがぐしょぐしょに濡れるまで涙を流し続けた。
なにか思うことがあれば是非。