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ドロップアウトにうってつけの日  作者: クサカゲロウ
4/8

昼休み

 昼休みだ。みんなが一斉に弁当を広げ、教室には吐き気がしそうな臭いが立ち込める。仕方ないから自分の弁当を開くけど、食欲が湧かない。弁当をあける前までは食欲があるんだけど、あけると無くなるんだ。

 炭水化物やたんぱく質は、午前中の間に雑菌が繁殖して異臭を放つ。肉は冷たくて生臭くて食べれたものじゃない。一口だけ食べるけど、すぐに弁当を閉じてしまう。僕は潔癖症じゃないけど、どうしても弁当はだめなんだ。後で親に何か言われないように対策をしなきゃいけない。

 そうすると他の人はまだ食べてるのに、僕だけは昼食が終わる。だからまた本を開くんだ。10分間でさえ騒げる低脳たちに30分も与えたらどうなるか分かるかい?三倍うるさくなるんだよ。そういったことから目をそらすのにも本は有効だ。

 個人的な主観だけど、無能ほど本を読まない。本というのは、歴史であって、かつての知の巨人たちが、後の世にも自身の思考を残しておくために作ったデータベースなんだ。この世のほとんどの疑問なんて、自分で考える前に本を開けば、自分で考えるよりよっぽど崇高な結論が書いてある。だから、それらを前提に自分自身の考えをつくることで、偉人たちよりも数段上の思考ができるんだ。当たり前のことだけど、それを本質的に分かっている人は少ない。本質を掴めなければ、何も変えることはできないし、先に進むことはできない。本を読まなければ、誰かの後についていくことしかできない奴隷に成り下がるんだよ。

 さて、三島由紀夫は少し飽きたから、シモーニュ・ヴェーユの『根をもつこと』でも読もう。この本の自由に関しての記述は秀逸だね。自由になり、選択の幅が広がりすぎた人は、その選択の責任に押しつぶされて自由は悪だと思うようになるそうだ。自由が善だと信じてやまない愚かな民衆に聞かせてあげたいけど、きっと聞く耳なんて持たないし、理解もできないんだろうなあ。自由を叫ぶ者は義務の撤廃を求めるけど、それがなくなったときに自らの存在価値を失うことを理解していないんだ。義務は権利であり、社会から求められる役割なんだ。といっても、僕は他人に支配されるのなんてクソ喰らえだと思うけどね。そっちの方が楽なのは確かなんだけど。

 そんなことを考えていると、剣道部が話しかけてきた。彼はおしい人なんだ。何がおしいって、考え方で言えば僕に近いんだけど、俗物的な感情が捨てられないんだ。そして未だ変化を恐れ、選択に対して戦々恐々としている。

 僕は最初の頃に、彼が理解者になってくれると思って話しかけたけど、だめだったね。僕の思考の方が数段上だったんだ。だからおしい人なんだよ。だけど、このクラスの中ではオカマに次いで頭がいいと思うね。もちろん学力の話じゃないよ。

 そんな彼が僕に言ったんだ。「また北半島がミサイルを発射したね」って。つい昨日のことだよ。そんな話題を持ち出すところが、なんとも僕好みだよ。だから僕は言ったんだ。「北にはもっと頑張ってほしいね」って。彼は不思議な顔をしたけど、もちろん考えなしにそういうことを言ってるわけじゃないんだ。この国の国民からしたら、その発言は非国民的だけど、正直なところ、僕は北を応援したい気持ちもあるんだよ。

 21世紀に入ってから、核の抑止力を背景にマルクス・レーニン主義が元の主体思想国家が成立する。これはむしろ希望だと思うね。二次大戦後、大東亜共栄圏によってアジアの各国が独立した。白人に対して日本を中心としてアジア諸国が反旗を翻したんだ。だけど肝心の日本はどうなったか。現在の日本は、自治権はあれど独立国家ではない。米帝の傀儡国家なんだ。僕は日本の独立を望んでいる。だから北半島は僕にとっては希望なんだよ。

 なんて、政治通を気取りながら一通り話すと彼は用事があるからと教室の外へと出て行ったよ。授業まであと15分。僕はコーヒーを買いに自販機へ向かった。コーヒーのある自販機は、教員用の体育館裏の自販機しか無いんだ。不便だね。ブラックなんてほとんどの高校生が飲まないっていうのも分かるけど。ちなみに剣道部もオカマもブラックコーヒーが好きなんだ。それを買って、教室に戻って飲んでいたら、昼休みが終わった。5時間目は物理だ。

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