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物語 一幕終了

外套をファーブに返し、毛布を外套の様に羽織る。

ファーブが誰かを起こして、袋を貰いに行っている間に、ミィタに抱きついて撫でまわす。


流石、ミィタ!大きくなっても毛艶は最高っす!


『今まで黙っていて済まなかったな…』

「いいの!私、ミィタと御話が出来るって知ってとても嬉しいの!

ねぇ?ミィタは大きくもなるし、話せるけれど、また抱きしめて、撫でてもいいかしら?」

『当たり前ではないか!私の一番の寝床は、いつでもエミリアの膝の上だ!』

「光栄ですわ!!」


そうして、ファーブが戻ってくるまで、私は再び子猫になったミィタを撫で倒したのだった。

戻ってきたファーブの持っていた袋がパンパンになる程、ラングの花を詰め込んで、私達は、帰途に付いた。

どうやら、ラングの花についても、私達は何も知らなかったらしい。

ミィタによるラングの花講義によると、ラングの花は根っこが一番良く香り、魔族を惹きつける。

茎は、魔物を滅し、花は魔物の毒を浄化する、らしい。


と言う訳で、私達は、花の部分のみを大量に採取して、再び大きくなったミィタの背で揺られている。


『しかし、小娘が、救世主になりたがっていたとはなぁ…』

「リリーのやつ、何考えてんだ?」

「ん~?」


三者三様の表情で、思い出すのは、さっき袋を借りた農家のおっちゃんの話。

この村は、3日に一度の物資の仕入れのみで成り立っているため、手紙や荷物などもその時、配達人が一緒に届けてくれる。

そうして、届いたのが、2日前のリリアーナからのラングの花を大量に送ってくれ、と言う手紙だったそうだ。


花は、ここにしか咲かない稀少なモノで、だからこそ、王家が厳重に管理している。

今回は、この領地の主である、イェローラング家の次期当主が直々に現れたからこそ、その場で刈ることができたが、本来ならば、3日に一度の手紙のやり取りで、王家や本家からの依頼状の確認や、値段交渉など様々なやり取りを経てやっと、入手することが出来るのだ。


つまり、1日後にこの村からリリアーナに宛てて出発するのは、値段交渉や手続きの為の書類であり、花ではない、という事になる。

おっちゃんに、「その書類どうしましょう?」と聞かれたファーブは頭を抱えて、深いため息をつき、しゃがみ込んでしまった。

その姿があまりにも哀れだったので、私はおっちゃんにソッと、「そのまま明日の定期便で送って下さいまし。」と、告げておいた。

人の良いおっちゃんは、深くは聞かずに、しっかりと頷いて、約束してくれた。


ありがとう。おっちゃん!定期的に旨いもん送るよ。

おばちゃんには、何か温め直すだけで食べられる調理済みの保存食みたいなもん送っとくよ。

こういう限界集落は、外食が無くて、おばちゃんが体調を崩したりとかしたら大変そうだから…

あ、これ、前世の知識ね。今世はまだ8年目だからさ。


そうして、朝日が薄らと顔を出す頃、私達はバイオレット家の御屋敷まで帰ってきた。


「お嬢様!髪が…」


小さくなったミィタを膝に乗せて、なぜ眠くないのかという疑問をミィタにぶつけていた私は、白髪にオイルを付け、櫛で丁寧に梳いてくれていたファーブの声に鏡を見る。

そこに映った髪は、腰までの長い白髪…と言うよりも、白銀の髪に二房だけ、紫と金に流れる髪が混じって、不思議な色合いになっている。


アレね…前世で、白髪に紫と金のメッシュを入れたお婆ちゃんみたいな…?感じ?かしら…


『美しいな…エミリア。雪を彷彿とさせる程の、無垢なる白銀の艶めく髪だ。』

「えぇ。二房、流れる紫と金の髪が、白い山脈から湧き出てくる清廉な川の流れの様です。」

「貴方達…お父様に似てきたわね…」

『やめてくれ。』

「冗談でございましょう!?」

「あら?」


即座に否定されてしまった。


「ありがとう、二人とも!

ねぇ?私思うのですけれど、このままラングの花弁を噴水に入れに行きません事?」

『まだ早朝だぞ?良いのか?あの小娘ではないが、人が見ている前で入れれば、聖女にだってなれるだろう?』

「いいのです。病気は苦しかったわ。一刻も早く皆を苦しみから救いたいわ?」

「分かりました。ラングの花の半分を煮出してまいります。少々お待ち下さい。」


ファーブは花を持って、音もなく消えてしまった。

屋敷を出る前に、お母様の枕元に行くと、お母様も荒い息を吐いて、苦しそうに唸っていた。


「お母様?大丈夫ですか?」

「あぁ、エミリア…ダメよ。移ってしまうわ…」

「大丈夫です。これをお飲み下さい。」

「…これは?」

「昨夜、ファーブとミィタと取ってまいりましたの。ラングの花の煮出し汁ですわ。」

「ラング…!?」

「えぇ。お母様は魔物の毒にやられたらしいのです。

 ラングの花は魔毒の解毒に、茎は魔物を滅し、根は魔族を魅了するらしいです。

お風呂のお水にもラングの花を浮かべました。

水が浄化されたら、綺麗に洗うように指示を出してくださいませ。」

「貴女は…?」

「私はこれから、街の方達にもお薬を渡してきます。原因の噴水の浄化も…」

「危ないわ!貴女はまだ、街へ行った事が無いでしょう?」

「ファーブもミィタもついて来てくれますわ!行ってきます、お母様。」

「エミリア!」

「お薬が効くまでゆっくりお休みください。」


言葉に魔力が少量流れ出た気がしたが、気が付くとお母様は穏やかな寝息を立てていたので、寝室から出て、廊下を慌てて部屋に戻る。

簡素なワンピースに身を包み、まだ、使用人も動き出して居ない程の早朝、私達は花を煮出した薬と花弁を持って、屋敷を出た。

再び大きくなった、ミィタの背にファーブと乗り、街に降りた。


街の手前でミィタから降り、ミィタは用心の為に大型犬位の大きさになって、私の腰もとに居てくれる。

不思議な三人組の完成だ。

背が高く、綺麗な顔立ちをした栗色の男と、白銀に二筋だけ紫と金の髪が流れている美少女と、ワインレッドの気高さを感じさせるネコ科の獣。

不思議だが、神々しささえ感じられる三人は街に入った時から注目の的だった。


「街の方達は流石に早起きなのですね。パンの良い匂いですわ。」

「後で買いますか?噴水はこちらです。」

『ワシは、肉じゃな!』

「ふふっ!病気を治したら、朝ごはんにいたしましょう?」


ファーブの案内で、3人…2人と1匹は、噴水の前に立った。


「さぁ、ファーブ。ラングの花を。」

「はい。こちらに。」


ファーブに恭しく差し出されたラングの花を、噴水にばら撒く。

噴水が、一瞬紫に輝く。


「さぁ、皆さま!病で苦しんでいる方の所へ案内して下さいまし。お薬をお持ちいたしましたの。」


クルッとターンして、私達を遠巻きに見ていた人垣に声をかけると、それが割れて、小さな子供が出てきた。


「お父さんとお母さんを助けてくれる?」


潤んだ目で心細そうに見上げてくる少年に胸がキュンとする。

最上級の優しい笑顔を心がけて、少年に答えた。


「えぇ。ご両親の所に案内してくださいませ。」


ご両親に薬を飲ませ、次の家へと繰り返す。

次の家から出た所で、ものすごい歓声に包まれた。

見ると、先程薬を飲ませたご両親が、泣きながら少年を抱きしめていた。

見ると、少年も大粒の涙を溢しながら、とてもいい笑顔で二人に抱きついている。


「良かったですわ。」

「お嬢様。どうぞ。」

「ありがとう。」

『撫でても良いぞ。』

「ふふっ。ありがとう。」


ファーブに涙を拭われ、すり寄ってきたミィタの頭を撫でる。


「聖女様!私の息子もお願いします!」

「聖女様!!」

「あら?私、聖女なんて恐れ多いですわ。」


熱の出た人、皆に薬を飲ませ、大歓声を受けて、居た堪れなくなって街を出た。


「お肉も、パンも買えませんでしたわ…」

「料理長のアントンに、リクエストしておきます。」

『うむ!よしなに頼むぞ!』


そうして、やっと動きだしていた屋敷に帰った。






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