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物語は続く

はぁ…はぁ…

荒い息使いが凄く苦しそう。って、私か・・・?熱い…地面が揺れる…一体何が起こってるの?


体中が熱くて、かかっている布団が邪魔で、退けようと動かした手にフニッと柔らかな感触がある。


『エミリア…?大丈夫か…?苦しいのか?今、ファーブを呼んだからな…』

「ミィタ…ありがと…」


夢なのか…ミィタにお礼を擦れた声で呟いて、熱を持って燃えそうな手で、ミィタの頭を撫でる。

金の瞳が細められ、綺麗な三日月を描く。

ふと、私の長い髪が汗で首や顔に張り付くのが、気持ち悪く感じた。

ソッと、手で髪を払うと、違和感を感じる。


「ミィタ…私の…髪の毛…」

『大丈夫だ。この症状が出る病に心当たりがある。』


真っ白になっている髪を見て、潤んだ瞳でミィタを見ると、愛しいものを見るような、痛ましいものを見るような、複雑な表情でこちらを見ていた。


ミィタってホントに、表情豊かよね…


その時、フッと部屋の入口あたりに人の気配を感じる。

視線を向けると、ファーブがそこに息を切らして音も無く立っていた。


「ファーブ…会いたかった…」

『やっと来たか!遅いぞ!』

「ミィタ!お嬢様!おいたわしい…一体何が…?」

『話は走りながらする!ファーブ!エミリアを毛布で包んで抱き上げて、ワシの背に乗れ!』


言うが早いか、ベッドから降りたミィタの体は、馬ほどのサイズもある、大きなワインレッドの豹の様な姿になった。

言われた通り、無言で私を毛布でグルグルに包み、頭からファーブが着ていた外套を被せられ、ファーブは私を抱えたまま、軽やかにミィタの背中に飛び乗る。


『落ちるなよ!』

「はい!」


ミィタとファーブの、息の合った会話に感心しながらも、意識は熱の所為で朦朧としている。

テラスのある窓から、大きなミィタが私とファーブを背に乗せて、音も無く走り出した。

私の家から月に背を向けて前へ前へと進む。

私はしっかりとファーブに抱きかかえられている為不安もなく、ファーブの外套を頭からすっぽり被せられている為、顔に風も当たらず快適だった。


『ファーブ!あのリリーとか言うお前の妹は、何者だ?なぜあんなにエミリアへの敵意を剥き出しにしているのに、公爵家の結界に弾かれない!?

フェルだったか…?あいつもだ!!』

「ぐっ!申し訳ありません。

リリアーナは、あの子は先祖返りで、我が家で久々に出た強力な守護の魔力持ちなのです。

きっと公爵家の結界が、自分とファルを弾こうとするのを、無意識に守っているのでしょう。」

『守護か…ラング花の…』

「はい!もともと、何故、我ら一族が一国の王としてラング花を守るべく不便な土地での居住を強制されたかと言うと、我らの一族から持つ者が現れる、この守護の魔力位しか、ラングの花を魔物から隠す事が出来なかったからという事があるのです!

我らにはもともと、一国を治める程の器量はありません!

彼の王だけが、我らを独立国にさせようとする動きを反対してくれました。

力及ばず、済まなかったと頭を下げてくれました。

そして我らは、バイオレット王家に助けられて何とか永らえていたのです。

ですから、我らは元々バイオレット王家が居なければ生きてもいられなかった身。

その歴史、生まれてから言い聞かせてきたそれを、あの子は軽んじているようでした。

歴史を軽んじる事は、ご先祖様を軽んじる事だと…」

『もう良い。いつの世でも、浅はかな者は賢者を苦しめる。弟もか?』

「いえ、彼は、前王からの預かりものです…」

『あぁ、そう言えば、少し前に、王家が騒がしかったのぉ…』

「………はい。」

『人とは、面倒くさい生き物だの…』


少しばかり流れた気まずい空気を吹き飛ばすように、ファーブが口を開く。


「それで、今は一体どこへ向かわれているのですか?」

『あぁ、お前の領地だ!』

「え?いや、結構距離がありますよ!」

『しっかり摑まっておけ!朝までにはラングの花を持って帰るぞ!奥方も危ない!』

「奥様!?一体どうなさったのです!?」


お母様も!?


『この症状、突然起こる高温の発熱、白髪化!

この症状でワシが知っているものはただ一つ!魔獣の毒にやられたんじゃ!』

「魔獣の毒ですって!?」

『あぁ、最近、街で噴水の近くの家の者から徐々に高熱に侵されているらしいじゃないか!?

エミリアの父が嘆いていた!原因が分からんとな!』

「えぇ、確かに。そのような報告は暗部の方からも受けております。」

『発熱だけでは心当たりが多すぎて、どんな病やら分からんかったが、今日、あの小娘が、エミリアに淹れた紅茶が微妙に獣臭かったのじゃ!

ワシの鼻ではハッキリと嗅ぎ取れたが、エミリアにはワシの感覚を伝える事しか出来なんだ!

しかも、ワシが、あの坊の殺気に威嚇している間に、エミリアは二口も飲まされてしまいおった!

すぐに残りは溢したが、二口で十分白髪化してしまった。

ここまで症状が進むと一刻の猶予も無い!

夜明けまでに、ラングの花弁を食わせるのじゃ!』

「奥様は!?」

『奥方は、臭いを辿った所、風呂に魔毒の入った水を入れられて、直接飲んだ訳ではなさそうじゃし、まだ時間はある!

きっと今夜は、発熱くらいの症状は始まっとるじゃろうがな。』

「何て事を…あいつっ!」

『なに、別に魔獣の毒では死なんぞ?魔獣は生餌を好む。

発情期にオスがメスに多くの生餌を差し出して、交尾に及ぶ。

魔毒の中には、生命維持の魔力も宿っておるからの。

喰われるまで長くとも3か月ほど、痺れて動けなくなるし思考も鈍るし、生きる屍状態にはなるがな。

髪色が変わるほどなら、意識が落ちれば即じゃろうな。

だが、余程体の弱い個体でないとコレで死ぬことは無いじゃろうて。

大目に花を摘んで帰って、熱位なら、花を煎じて飲ませればすぐに効くはずじゃ!』

「魔毒の発生地を潰さなければ!」

『きっと噴水じゃろうて!魔毒は水に溶けやすく、水に触れなければそれ程脅威のあるものではない!

噴水にラングの花を沈めて水を浄化するが良い!』

「ありがとうございます!!あ!!あそこです!あの淡い光を放っている紫の花が、ラングの花畑です!」


ファーブの嬉しそうな声に、薄らと目を開けると、険しい山脈を飛ぶように駆けているミィタの速さが良く分かる。

山々が流れるように過ぎていき、少し遠くを見ると、切り立った崖に三方を囲まれ、残る一方の私達の進んでいる山脈も非常に険しい。

 

 マリア先生に教わった通りだ…

 

 フッと笑みが零れる。

 熱で苦しく、体中が痛み、意識も朦朧としているのに、こうやって教わった事を実際に目で見て、確かめるのはとても面白いと思った。

私の息遣いが変わった事に気が付いたのか、ファーブが気遣わしげに声をかけてきた。


「お嬢様?大丈夫ですか?もうすぐです。」

『起きたか?エミリア。降りるぞ。』


フワッと一瞬体が浮くような感覚がして、体重が体に戻る。

直後に漂う、清廉な甘い蜜の香りに、顔が自然と綻ぶ。

心なしか、熱も下がったような気持ちになる。

ミィタが大きなまま横になって、まぁるいクッションの様になってくれる。

その腹の上に私を大事そうに置いたファーブは、急いでラングの花を摘んでくる。


「はい。お嬢様。口を開けてください。」

『エミリア、花弁を食え?』


二人が優しく語りかけてくれて、私はソッと口を開く。

開いた口の舌の上に、一枚ファーブが甘い砂糖菓子のような花弁を置いてくれる。

それは、口を閉じる前に、私の熱を持った熱い舌で溶けて、甘い後味だけを残して消えてしまった。

ソッと口を閉じて、溶けた花弁の香りを喉に通す。

そうして、また口を開くと、舌の上に花弁が一枚乗せられる。


その工程を、何度繰り返しただろうか…

気が付くと、私の体は随分軽くなり、あれ程暑苦しくて、息苦しかったのが嘘の様に落ち着いた。


『もう大丈夫じゃな。』

「お嬢様の髪は…?」

『残念じゃが、これは治らんじゃろう。』

「そんな!!」

「ありがとう。ファーブ、ミィタ。良いのです。髪はこのままで。」

「しかし!」

「この髪は、ファーブとミィタが私を救ってくれた証です。

私はこの髪がある限り、貴方達への感謝を忘れる事は無いでしょう?

それがとても誇らしくて、嬉しいのです。」

『エミリア…』

「お嬢様…」

「さぁ!お母様の為にも、街の方達の為にも、沢山のラングの花を急いで持って帰りましょう!」

「はい!」

『あぁ。エミリア。』




あちらこちら変更しています。

不備があれば、教えて下さいませ。


すみませんねぇ~(^^;

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