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賭けと転移門と最後の日記帳

公爵達も、殿下も、ジョーイおじさんが禁書を読む事を許さない方に賭けるらしい。


「では、本人に聞いてみますか・・・」

「はぁ?」

「ミィタも、ここにいるとグリーン家に余計な心労をかけてしまいますし。

今、落ち着いている間に、王城にミィタごと移動してしまいましょう!」

「「「いやいやいや…」」」


ポンと手を打ってひらめいたアイデアを披露する。

と、即座に殿下とショーン様とファーブに否定された。


何故さ…?


「御主人様…失礼いたします。」


その時、グリーン家の家令が、深く礼を取りながら室内に入ってきて、グリーン公爵に耳打ちする。


「殿下、ブルーラング公爵、ショーン…陛下からの召還だ。

エミリア嬢と、負傷した聖獣殿を丁重に王家に移動していただくよう仰せだ。」

「あら。」

「しかし、我も連れてきた魔術師ぶかも聖女殿が張った剛健な結界の修復のために、転移に必要な魔力は殆ど残っておらんぞ?」

「ブルーラング公爵、もう少し休息が必要なのでは?」

「あら、では、私が転移門を開きますわ!」

「お嬢様?」

「門…?」

「えぇ。転移って、私あまり好きではないの。

頭の中がグルンって回る気がして、酔うんですもの…

傷ついたミィタにも良いとは思えませんし。」

「で、門ですか…?我も初めて聞きましたが、門とは…?」

「詳しい理論は良く知らないの。ファーブの持っていた魔道書に書いてあったから…

でも、その門を潜ると、転移が終了している様な門があるのですわ。」

「お嬢様、それでは分からないかと…

ブルーラング公爵、理論は後で説明いたしますので、今は転移を先に行いませんか?」

「あ…あぁ。」

「では、ファーブ。ミィタをお願いできますかしら?」

「はい。分かりました。」

「では、各々支度をして、半刻後に再びこの部屋に集合だ。」

「「「「はい。」」」」


殿下の号令を受けて、皆が部屋から出る。

私も、王城へ向かうのに、この簡素なドレスでは行けなかろうと、ファーブにワインレッドの艶やかなドレスを出してもらう。

これは、一人では着られないので、ファーブに着せてもらい髪を整えてもらう。

薄く化粧も施してもらい、ミィタの部屋に移動した。

ミィタはぐっすりと眠っている。

体の傷の治りが遅いのは、魔物に付けられた傷だからか…

ソッとミィタを抱き上げ、ファーブが広げている毛布に乗せて包む。

丁度、半刻経ったので、横の部屋に移動した。

他の方たちも各々王城へ向かえる程度に着替えている。


「エミリア嬢、よろしく頼む。」

「えぇ。」

「部下も居るのだが、大丈夫だろうか?」

「えぇ、転移ではないので、魔力が人数によって変わるという事は無いですわ。」

「お嬢様。」

「えぇ。始めましょうか。」


部屋のドアを閉め、密室にする。

王城へのドアをイメージし、目の前のグリーン家の廊下へ繋がるドアに手を翳す。


拙い…今思い出したが、私、王城行った事が無かった…

ん~…?あ!良い事思いついたっ!


目を閉じ、魔力を注ぐと、ドアが明るく光った。

殿下がドアを開くと、ソコは誰かの私室だった。


「あら?」

「私の部屋だ…」

「そうですの?私、王城へは行った事ございませんから、殿下の記憶を頼りにいたしましたの!」

「…本当に…着いた…」

「これは、画期的な…」

「…と、とりあえず!父上の召還令に応えなければ!

聖獣殿の居室を用意させているはずだ!女官長!!」


動揺しているのか、しなければならない事を並べ立て、順に口に出しながら廊下へ繋がるだろうドアへ歩み寄り、ソッと扉を開ける。

呼び鈴の音が響いてすぐに、白いものが混じる髪をキチッと結いあげ、ふっくらとした体形で、全体的に灰色の優しげなおばさんが軽いノックの音と共に入ってきた。


「父に謁見を申し込みたい。それと、聖獣殿に落ちつける部屋と医師を。」

「承知いたしました。」


余計な事は言わず、私達の存在に驚いたはずの彼女は、それでも表情一つ変えずに下がっていく。

すぐに動いてくれた女官長のお陰で、早急に場は整って行く。

最後の一人が王城に入った後で、扉を元に戻す。

再び開けるとそこは、クローゼットになっていた。

もう、驚愕しすぎて顎を外しそうなブルーラング公爵や、彼の部下の魔術師さん達を尻目に、私はとっととミィタを抱いたファーブに着いて部屋を移動した。


ミィタを綺麗な客間のベッドに寝かせ、陛下に謁見出来たのはそれから半刻後の事だった。

謁見の間に殿下の後に続いて入ると、そこには陛下をはじめ、各公爵家の当主達が揃っていた。


「エミリアっ!」

「あら?お父様。お久しぶりです。」

「あぁぁ!大丈夫かい?聖女として戦場に出されているとか…

可哀想に。僕か、エルリックがいたら反対出来たのに、僕は忙殺されていたから…」


そりゃそうだろう。

隣国との戦争がはじまるのだ。

宰相としては、何としても戦争を止めたい、もしくは被害は最小限に抑えたいだろう。


「そう言えば、お兄様もファルも見ませんわ…?」

「あぁ、エルリックとファルは、隣国にスパイとして潜入を任せている。

この非常事態では情報こそが重要だ。」

「まぁ…御無事だとよろしいのですが。」

「あの子達は大丈夫だ。

聖獣様も傷を負われたとか…?大丈夫なのかい?」

「はい。応急手当を施しましたので、落ち着いておりますが、魔獣による傷ですので治りも遅い様です。」

「そうか…湖の聖獣様も動けない御様子だから、ミィタ殿だけは!と思ったのだが・・・」

「湖の主様に何かございましたの!?」

「あぁ、湖面ギリギリに強力な結界が張られてしまっていた。水面ギリギリだったために、聖獣様も気付くのが遅れて、湖を包み込むように結界で囲まれてしまったらしい。

聖獣様や我々も力を貸して、何とか破ろうとしたが、お前の結界以上に強固なものでな・・・

会話もできず、破ることもできないため、今回は聖獣様の御力をお借りすることはできなさそうだ・・・」

「まぁ・・・それは心配ですわね・・・私が参りましょうか?」

「いや、あちらは、ヒルデ様が御自分に任せてくれと仰って下さったので、その意向に沿おうと思う。」

「そうでございますか。心配ですね。」

「あぁ!可愛いエミリアに心配を掛けさせてしまうなんて、不甲斐ない父をどうか許しておくれぇぇえぇ!!」


しまった!!

油断していた!


さば折でのけぞった姿勢で、勢い良くギブのタッチを繰り返すが、父にはハグのトントンに感じるらしく、放してもらえる気配がない。


やばい!戦に出る前に死ぬ!


意識が遠のきかけたとき、ベリィッと父の襟首をつかみ引き剥がしてくれたのはファーブだった。

ゴッホゴホと、噎せる私の背をそっと摩るファーブと、父を正座させて絶対零度の視線でお説教をしているセバス親子の登場に、私は救われた。


私の呼吸が落ち着いてくると、まだ叱られて涙目になっている父を横目に、私は早々に遠巻きにしていた殿下のもとへファーブに避難させられた。


「大丈夫か?エミリア嬢・・・?」


私は知っている。

この人達・・・・が多少強引にでも何がしかの命令を出してくれていたら、もっと早く父の暴走が止まっていたという事を。

そして、殿下は自分がそんな事を出来る立場であるという事を今の今まで忘れていて、動揺しているという事を・・・

そこに付け込まない私ではないわっ!


「ところで、ディーン様?私、あの時の貸し一を今返していただきたいのですが?」

「私に出来る事であれば!」

「でしたら、王家に伝わる日記を読ませて下さいませ。」

『ワシも混ぜろ。』

「あらミィタ?もう大丈夫なの?」


いつの間にか謁見室に入っていたミィタの声に一同がギョッとしている。

私の問いには答えず、若干疲れた様相のミィタは再び口を開く。


『ワシも見たいぞ?』

「わかりました。クリス!」

「分かっておりますよ。こちらに。」


陛下が声をかけると、それに応えた父の手に乗っていたのは、もう見慣れたアレだった。

父達は私達を残して、日記を謁見室に置いた後、他の公爵家当主の方々と共にどこかへ行ってしまった。


王家の最後の日記帳に記されていたのは、ラング花とこの国の歴史だった。


かつてこの地の国は、一つだった。

ヒュージ山を挟んで、今はヴィケルカール国になっている南側は、酪農や農業で栄え、イルッターナ国のある北側は、鉱山が多く地形が複雑な事から、香辛料や工業が盛んで、二つの地域は協力して、お互いに支え合っていた。


当時の北側の領主が、とある一人の女性に恋をするまでは…


彼女は当時、花の聖獣の愛し子で、心も容姿も輝かんばかりに美しかった。

領主は様々な方法で女性を振り向かせようと、長い間がんばってアプローチしていた。

しかし、とうとう自分の愛を受け入れてくれない女性に焦れて、北側の領主は南側の領主に助けを請うて、魔獣を討伐したいと兵を借り、彼女を悲しませ聖獣の怒りを買った。

北側の領主の、恨み、妬み、苦しみは、いつからか体を抜け出して、純粋な魔力の塊として人々の心の闇を吸いこみ大きくなって魔人となり、徐々に数を増やして魔族となった。


彼女は悲しんだ。

自分の存在が争いを産むのならば、自分は人を癒し、魔を退ける花になりたいと、聖獣に請うた。

花になれば、寿命などに裂かれる事なく、常に貴方と共に在れるから…と。

聖獣は、苦悶したが、最終的には彼女の願いを叶えて彼女を花にした。

それがラングの花だった。


争いは、火種が無くなった事で、うやむやになってしまった。

しかし、嘘をつかれ、聖獣討伐に力を貸す事になった南の領主は、北の領主を許せず、国が分かたれてしまった。


彼女は花になる直前、一人の息子を産んだ。

その子を拾ったのは皮肉なことに北側の領主だった。

彼は、今も彼の国の奥で、ひっそりと生きているらしい。


日記はそこで終っていた。




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