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私、何かしましたか?

8歳…今までとても平和…だった。

ファーブが18歳になり、本格的に執事修行をするとかで、暫く、ファーブより10歳下の、三男と四女の双子が私に付く事になった。


最近知ったのだが、どうやら、バイオレット公爵家と並ぶ古い家なのが、ファーブの家であるイェローラング子爵家で、両家の歴史は、この国の成り立った時代まで遡る事が出来る。


ここで、ちょっと前にマリア先生に習った歴史をおさらいしてみよう。

この国、ヴィケルカール国は、約500年前にそれまでは8つの小国の寄せ集めだった国が一国に統一されて出来た。

その統一のされ方は、7国が話し合いで、無血統一されたという、今なお語り継がれる程の平和的な統一だった。


最後に残った1国も特に渋っていた訳ではない。

もともと、無血統一した内の1国のみに面しており、面している側も険しい山脈を跨ぎ、反対は半島の様に海に張り出した形で崖になっているその国は、内情も決して豊かとは言えず、海風の為に畑作も上手くいかず、高い崖に激しい潮流のため魚も中々安定して採れない。


何故そんな所に国があるのかと言えば、そこにしか咲かない貴重な花を栽培するため。

その花は魔族を惹きつけ、魅了する。

“魔族に出会ったらその花を渡して逃げればいい。”とまで言わしめる伝説の花、ラング花の唯一の栽培地。

その花以外の、生活の全てを支えていた隣の国。

その2国は最早別国と分ける意味は無かったそうだが、あくまでも花を中立に取引したいとの思惑から、一国として独立させられていたのが、イェローラング公国だった。

そして、その隣国を治めていたのがバイオレット王家。


つまり私の御先祖様が統一に賛成した時点で、“私の国はかの国と同一国とお考えください。”とファーブの御先祖様は、特に話し合いにも参加しなかった。

各々7国の王たちは、それぞれ公爵を名乗る事になり、忠義に篤かったイェローラングは、バイオレットと同様に公爵を名乗るのはおこがましいと、自らバイオレット家のみの盾を名乗れるように、子爵位に甘んじた。と言う経緯があるらしい。


つまり、私もファーブも、時代が異なれば王族だったのだと…

へぇ~…だね。


ぁ、聞いて分かる通り、私、どうやら前世の記憶持っている。

とは言っても、覚えているのは一般常識のみらしく、以前の私が何者だったのか、そして、いくつまで生きてどんな人生だったのか、等など、そんな事は一切覚えていない。

しかも、中世ヨーロッパと現代日本が入り混じったこの世界では、一般常識もほとんど意味のないものなので、私は単に成績優秀な変わり者令嬢らしい。


まぁいいや。

ファーブが居ないのは少し…いや、とっても寂しいが、仕方ない。

なんだか、新しくお付きになったリリアーナ8歳の、視線が居心地悪い。

そして、ファーブの弟、リリアーナと双子のファル8歳も、何だか敵視に近い視線を送ってくる。


何か私、しましたか…?

ってか、ファーブ…彼らに私の事、何か悪くふき込みましたか…?

ファーブが修行に出て、1か月…早くも私、ファーブシックです。


午前中のシッターマリアによる、淑女教育という名のお勉強を終え、お昼ご飯を食べた私は現在、部屋に戻り、雨に煙る庭を見ながら、食休みをしている。

ミィタを抱えて癒されつつ、その綺麗に艶めく紫の毛並みに指を通し、突き刺さる視線を只管ひたすら無視する技術に磨きをかける日々。


泣いても良いですか?

私何かしましたか…?

やっぱり、歴史をただせば、自分達も公爵家を名乗れるという事に、不満を覚える者も、一族の中には居るのでしょうか…?


「お嬢様。」

「ふぁい!」


ファーブと似た色合いの、栗色の柔らかなフワフワした髪をポニーテールにして、光の加減でピンクにも見える不思議な色合いの、大きな茶色の瞳が可愛らしいリリアーナに声を掛けられ、飛び上がって驚く。


「…? あの、お茶はいかがでしょう?」

「ありがとう。お願いするわ、リリー。」


静かな部屋に、コポコポと、リリーが紅茶を入れる音だけが静かな部屋に満ちる。


ん…?と微かな違和感を覚える。

何だろうか…

どうぞと差し出された紅茶の香りを嗅ぐ。

最近仕入れたという、南国の花のお茶は、微かな酸味と豊かな甘い香りが、嗅覚と味覚を惑わす、中々面白い趣向の紅茶で、蜜をたっぷり入れて飲むのが最近のお気に入りだ。


だが、今日に限っては飲むのを躊躇う。

私の様子を気遣ったのか、膝の上でミィタが金色の瞳をジッとこちらに向けて、物言いたげに見つめている。


「あの…お嬢様?何かお気に召しませんでしたでしょうか?」

「んなっ!?リリーの淹れたお茶が気に入らないだと…!?」


小さな声で、弱々しくこちらに尋ねて来るリリーを見て、扉の横で拳を握り締めこちらを睨みつけるように見ているファルの視線に、ブルリと悪寒が走る。

漆黒の髪が天使の輪の様に光を反射し、キリっと鋭い双眸は漆黒に艶めいている。

ファーブが優しげなアイドル系なら、ファルはお父様に近い、キリっとした男前系だ。

ミィタが毛を逆立てて、私の椅子の足もとに降り、ファルに向かって威嚇する。

その背を撫でて、宥めながらリリーに笑顔で応える。


「いいえ、誤解させてしまってごめんなさいね。紅茶の香りを楽しんでいたの。」

「そうでしたか。蜜はこちらにご用意しておりますので。」

「えぇ。ありがとう。」


リリーの目は、弱々しい問いかけに反して、凄く強い意志を秘めた色をしていて、実は怖いと思って固まってしまったとも言えずに、紅茶のせいにして誤魔化した。

覚悟を決めて、紅茶を一口飲む。

甘い香りに反して、蜜を入れていない紅茶は、それなりの酸味がある。

一口目で味を確認し、蜜を淹れて、混ぜる。

再び口にする紅茶は、甘くて食後のデザートの様だと思った。


「美味しいわ…ありがとう。リリー。」


再び紅茶を口に運ぶと、リリーの口角が上がる。

側から見ると優しげに見えるが、その笑みは私をゾッとさせた。


カチャン


「あ!」


見ると膝の上にミィタが戻ってきており、ミィタの頭がカップの底に当たって、紅茶が零れてしまった。


「あぁ、ごめんなさい。溢してしまったわ。」

「いえ、火傷は無いですか?すぐに片付けます。」


その後、ファルとリリーはバタバタと掃除などを行い、私は邪魔にならないように、お母様とお話をして午後の時間を過ごした。


その夜、私とお母様は熱に侵される事になってしまった






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