卒業と入学と貸しイチ
そうこうしている間に、卒業式の日がやってきた。
レッドハーツ先輩は、騎士団からの誘いを受け、騎士団に入ることも念頭に悩んでいたようだが、やはり、一度領地に帰って、ルーナ様とゆっくり過ごす時間を持つことにしたらしい。
まぁ、騎士団は実力のある者には常に門戸を開いているため、入団したければそれを叩けば学園卒業生としてすぐに受け入れてもらえる枠が、常にあるらしいのだが。
そうして、レッドハーツ先輩は女生徒に惜しまれ、嘆き悲しまれつつ、レッドハーツ領に笑顔で戻って行った。
私には何故か、”ギルドで面白そうな魔物退治の依頼を見つけたら誘いをかける!”と、喜々としておっしゃっておられましたが…
公爵令嬢を狩りに誘うってどうよ?
ちょっと、やっぱりと思うけど、脳筋だよね…彼。
そうして、長い様な短い様な春休みを終えて、今日は後輩の入ってくる待ちに待った入学式!!
寮でファーブに見送られて、ミィタと二人でゆっくりと講堂に向かって歩き出す。
一年前に色々あった講堂に今度は在校生として足を踏み入れる。
「わぁ!目がチカチカ致しますわぁ~」
『王子が在学中はこんなもんだろうな…』
「ですわね。」
ちなみに私は今日もキチンと制服姿だ。
在校生の女生徒は、新入生に舐められまい!と、普段制服の方達も今日は、まるで入学式の時の再来のように、色とりどりのドレスに身を包んで、在校生用の一人掛けソファに腰を下ろしている。
見回すと、リリーは、今日は制服姿だった。
しかし何故か、胸元に真っ黒な薔薇を一輪差しており、こちらを見て勝ち誇ったような表情をされる。
『相変わらず、何を考えとるのかわからんな。』
「…えぇ。」
アリアネス侯爵令嬢の姿も見えた。
彼女は一種異様な、漆黒から光が当たると黒紫にも見えるようなドレスを身にまとい、黄色と青色のドレスを着た愉快な仲間達も何だか微妙な雰囲気で、3人並んで仲良く座っている。
彼女も私の姿を見ると、フフンっと鼻を鳴らして顎をツンと突き出して胸を反らせていたが、お葬式でもないのに一体何なんだ?というのが大方の見解だろうと思う。
「黒を流行らせようとなさっているのかしら?」
『二人揃ってか…?』
「うぅん…?」
『まぁ、考えても分からんわぃ。』
ミィタはほっとけとばかりに、彼女らから遠い席に誘導してくれる。
彼女達は比較的舞台に近いところに居たので、私は必然的に舞台から少し離れた位置につく事になった。
「去年は、何のかんので舞台のド真ん前に陣取ってしまいましたから、丁度良かったですわ。」
『じゃな。だが、寝るなよ?』
「フッ!大丈夫ですわ!昨日はきっちり15時間寝ましたもの!もう眠れませんわ!」
『…とか言っとったのになぁ…』
「すー」
式典が始まり、相変わらず逃げているストロウ先生捜索あたりで、どうやら私の意識は途切れている。
挨拶はキチンと聞こうとしたさ!
しかし、薄暗いのと、ちょっとした気の緩みで…
チョンチョンと、ミィタに頬を突かれ、目が覚める。
「寝てませんわ。」
「ブフゥッ!クックック!」
『ワシは起こしとらんぞ?』
「あら?」
「すまんな、俺だ。
あまりにも気持ちよさそうに寝ているので、ちょっと意地悪したくなった。」
「まぁ・・・寝ておりませんわよ?」
「フッ、そう来たか。」
面白そうに笑っているのは、深い艶やかなワインレッドの髪と、金色の瞳を持ち、力強い印象の鷹のような鋭い美貌を持ち合わせた、年上にも感じる青年の姿だった。
しかし、目を細め笑うと少年のような、幼いいたずらっ子のようにも感じる。
「あら?見慣れない方ですわね?
私、エミリア・ヴァイオレットと申します。」
「あぁ、俺は、ヘイアン・イルッターナ。
隣国から、姪のキャロルとともに留学してきた。一年よろしく頼むよ。」
「まぁ!貴方が留学生でしたのね。
こちらこそよろしくお願いいたしますわ。」
差し出された手を握り返したときだった。
ドキィッと、心臓の辺りに衝撃が走る。
ドクドクと全力疾走した後のような動悸を感じるが、慌てて平静を取り繕う。
「ん?どうかしたか?」
「え?あ、いいえ?」
「そうか、次は俺の挨拶だ。起きて見ていてくれよ?」
「えぇ、私、眠くありませんもの。」
壇上から名前を呼ばれ、横に座っていたキャロル様を伴って、舞台へと歩いていくその堂々とした佇まいに、どこか感涙してしまいそうな自分を不思議に思う。
『大丈夫か?』
「えぇ。魔法を掛けられたわけでもありませんのに…」
ミィタが神妙な顔で何か考え込んでしまった。
その後は穏やかに時間が過ぎた。
放課後散歩中に、キャロル様と話していた殿下に呼び止められた。
「エミリア嬢!」
「はい?」
時間もあったので、のんびりと二人に近寄って行く。
にこやかな表情の殿下とは対照的に、私を見て愕然と顎を外しそうになっているキャロル姫は、黒目黒髪で色白の、毒のリンゴを食べて眠ってしまうお姫様の様な可愛らしい方だった。
「エ…え?あの…ハインツ様…?」
「あぁ、キャロルは初めてだったな?彼女は私の友人で、エミリア・ヴァイオレット嬢。
エミリア嬢、彼女が私の婚約者の、キャロル・イルッターナ姫だ。」
「初めまして、キャロル様。私の事は、エミリアと呼んでくださいませ。
これから仲良くしてくださいましね。
私、イルッターナ国のカリーにとても興味がありますの!
宜しければ、美味しいお店など御教授下さいませ!」
「そ、そんな…私がエミリア様に教えられる事など…」
「まぁ!奥ゆかしい方ですのね。」
キャロル様がしどろもどろと返答するのを微笑ましく見守る。
そんな時、横から殿下が口を出してきた。
「そうなのだ!そこで、エミリア嬢に少し頼みがあるのだが…」
「私に頼みですか…?」
「あぁ、この通りキャロル姫はか弱いだろう?」
「ん?」
なんだ?私だってか弱い女子だぞ?
殿下の言い方には少し含みを感じるのは気のせいだろうか?
まぁ良いか…
「でだ、ほら、この学園には、二大困った女子がいるではないか…」
「あぁ…えぇ。おりますわね…」
遠い目になる。
あー、薄々言いたい事は分かったわ…
「彼女等から、キャロル姫を守ってやって欲しいのだ。」
「まぁそうだろうなとは、薄々思っておりましたわ…」
「ありがとう!エミリア嬢!
私が傍にいる時は守ってやれるのだが、私も生徒会長として今年から動かねばならないからな。
まぁ、エミリア嬢は存在が強いから、私が傍に居られない間、出来る限りキャロル姫についていてやってくれるだけで良いんだが。」
「存在が強いって……分かりましたわ。」
「ありがとう。」
「貸し1ですわね。」
「んなっ!」
「何か?」
「ぐぅ…分かった。」
そうして、私がキャロル姫を守る事になった。




