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閑話 前世からの影響

唐突だが、私はボタンの服があまり好きではない。


幼い頃から、私のボタン嫌いは、侍女を悩ませる数少ない我がままのうちの一つだった。

別に形状が嫌いだとか、何か怖いとかではない。

幼い頃から、ただ漠然と嫌だったのだが、その理由が最近判明した!


前世だ…

ある朝私は起きぬけに、ボタンが苦手な理由を何となく思い出した。


そう、それは前世の高校時代まで遡る。

私が通っていた高校は、教師は特にスーツの指定も無く、自由に私服を着ていた。

その頃は特に何とも思っていなかったように思う。

濃紺のブレザーと、濃紺チェックの襞スカート、靴下の色の指定は無く、黒の子も白の子もいた。朱色をもっと暗くしたような色みのネクタイを締めていた私は、ある日職員室で見てしまった。


その頃、違う学年のおばさん先生で、教科は知らないが、恰幅が良く、女性の割に髪が薄くて、声が大きく、ちょっと生徒の好みで贔屓がひどい、あまり好かれていない人がいた。


奥の方にいたその人が、キチッと後頭部に詰めてあったお団子ヘアを揺らして、入り口まで聞こえる大声で大笑いしている後ろ姿が、職員室に入った途端に目に入った。

残念なことに、私が目的にしていた先生は、そのおばさん先生が話している相手のすぐ後ろにいた。


仕方なく、ちょこちょこと近寄っていき、目的の先生に声をかけようとした。

その、おばさん先生は、話に夢中になっていたのか、普段なら、「そんな短いスカートで職員室に入ってくるな!」とでも言われそうなところをスルーされたので、さっさと用事を済ませて逃げてしまおう!とばかりに慌てて用事を済ませた。


ふと、本当に何気なく、視線をそのおばさん先生に向けると、おばさん先生のブラウスの胸より少し下あたりのボタンが、弾けていたのか外れていたのか分からないが、パックリと開いていて、下に着ていたツルツルの生地の何?キャミではなく、タンクトップみたいな…そんな感じの服が、丁度、彼女の前で座っていた話し相手であるおじさん先生の目の前の位置で、彼女が動くたびにパクパクと動いて見えていた。


私は愕然とした。

あんなに一緒になって笑っているおじさん先生は何も言ってあげないばかりか、気が付いていませんよとばかりに、不自然に視線を避けている。

おばさん先生は残念かな、その体型のせいで、ブラウスが口を大きく開けている事に気が付いていないだろう。


おじさん先生とチロッと目があった。

おじさん先生は私に懇願するかのような視線を送ってきた。


俺の代わりに指摘して…

いやいや、無理ですって…


みたいな。

実際に話していれば、そんな会話になっただろう短いアイコンタクト。

その視線のやり取りの直後、「おい。出来たぞ!これで良いからクラス分刷って配っといてくれ。」と、目的が完了した事が分かったため、私は一目散に職員室を後にした。


残されたのは、この胸にしこる、罪悪感。


言ってあげれば良かったかな?

でも、言ったら、恥ずかしがったおばさん先生に罵倒で返される想像は簡単にできたし、その後も、おばさんが覚えている限り私は目をつけられるかもしれないし・・・

だからといって、おばさんに注意してあげなかったら、あの後いつまでパクパクしたブラウスを着続けていたんだろう・・・とか。


ぬぅあぁぁぁあああ!!


そう!

前世で死んで、魂が適度に常識しか覚えていないのに、こんなトラウマを消してくれなかったなんて!!

神様ってなんて残酷!!


ってなわけで、私はボタンが苦手だ。

という話を、誰にするでもなく、ボチボチと他人の話としてファーブに聞かせた。

自分だけで心に留めておくには、現世の私は幼すぎた。(5歳)


そうするとファーブから話が行ったのだろう、心配したお父様お母様が、デザイナーを呼んでくださった。

私のために。


そこから、なんとも贅沢な話であるが、私のドレスは、ワンピースタイプのものをリボンで縛ったり、複雑な編み方や縫い方で絞りのような、ゴムではないが布が伸び縮みするようなタイプの布が新たに開発されたりして、それなりに見れるドレスが揃えられた。


そうすると、あ~ら不思議。

自分でお着替えができちゃうんだなぁ~。


というわけで、そんなこと以外は、わがままをめったに言わない私の思い出に残る・・・というか、現在進行形で迷惑を掛けている、ドレス事情でした。




(ファーブから見た真実)


エミリアお嬢様から、夢で見た話といって聞かされた話は、私にも覚えがある。

自分よりも立場が上の方であれば、なおかつその方が気難しければ指摘できないのも仕方の無いことだし、それを気に病んでも仕方がないとは思う。


しかし、お嬢様はまだ幼く、そして、これほどまでに、心を痛めておられる。


奥様や、母も、お嬢様のボタン嫌いには頭を悩ませていたが、ボタンを可愛く飾るとかではない、根本的な問題だということが判明した、とすぐに報告した。


そこからの、母や奥様、旦那様の行動力たるや、目を見張るほどだった。


王都で一二を争うほどの人気デザイナーを無理やり領地に引き摺って来たかと思ったら、当時主流だったボタン式や飾りボタンなどの無いタイプのドレスを、お嬢様も考案されて大量に発注された。


中でも、デザイナーが唸ったのは、お嬢様が絵に描かれた、体の前で交差するように布地を巻きつけ、それをリボンで留めるタイプのドレス。

腰の辺りが大きく膨らみ広がるものが、主流であるため、そのドレスの図案をデザイナーが手直しすると、「浴衣ドレスみたい・・・こっちは、チャイナ服っぽい。」とかおっしゃったが、2~3注文をつけて、デザイナーと案を練り上げ、腰のリボンが緩んでも布地が肌蹴ないように、内側にもリボンを見えないようにつけるという案で了承されていた。


出来上がってみてみると、なんとも異国情緒溢れる雰囲気だが、不思議と金髪のお嬢様が来ても、違和感なく、むしろどこかの妖精が迷い出てきたかのような印象を受けた。

腰元の透け感のあるリボンが、それこそ妖精の羽のようにヒラヒラと動く様子に旦那様も奥様も、というか、公爵家全員で悶絶していた。


ある日、出入りの商人がたまたま庭でミィタと遊んでおられたお嬢様を見て、「妖精が!!」と言って、玄関先で腰を抜かし、その後王都で、ヴァイオレット家は妖精に守られた家だ、と実しやかに囁かれ、しょっちゅうどこかの物好きが覗きに来て捕まっていた騒動は記憶に新しい。


そんな中で、奥様も、お嬢様のドレスを気に入られて、お揃いでいくつか作ったものを舞踏会等に着ていかれ、時代を牽引するファッションだと大いに流行させた事もあった。


奥様はファッションリーダーとして、社交界に無くてはならない存在となり、あちこちの夜会に引っ張りだこだった。


今でこそ、普通になったリボンタイプのドレス。

それを考案なされたのがお嬢様であるという事実だけで私はお嬢様を誇らずにはいられないのだ。




ファーブの勘違い発生中

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