散歩コースが賑やかで何よりだ
ここの所、不気味な程に静かだったリリアーナと愉快な仲間たちがじょじょに動きだしたように見える。
この学園では、卒業式が終わり、一月ほどの休みに、寮の入れ替えなどがあってから、入学式を迎える。
もう卒業式が視界にチラチラと見え隠れしてくる頃、いつもの人払いしたかのような、閑散とした散歩コースでファーブとミィタとのんびり歩く。
「もうすぐここに来て一年経つなんて、感慨深いですわぁ~」
『ホントじゃな。あんまり成長しとらん者共もおるが、最近は静かで逆に不気味だの。』
「本当ですわね。ファーブなら何か知っているかしら?」
「残念ながら、来年留学してくる殿方が気になると言った話が漏れ聞こえてきた程度で…」
「あら?来年の留学生の話なんて、もう分かるんですの?」
「いえ。それが生徒には伝わらないハズの話なのですが。」
『ほぉ、また夢見る夢子ちゃんをしとるのかの?』
「それが、そうでもないのです。
裏の話によると、来年この学園に王太子殿下の思い人であるキャロル姫と、その親戚に在られるイルッターナの王族筋の方が転入されるらしいです。」
「気になる殿方って、まさか?」
「はい。その王族の方を指すのではないか…と思われます。」
『ほとほと、美形や権力に弱い女子じゃな。』
「…恥ずかしながら。」
「ふぅん…?まぁ、その方がどんな方かは存じませんが、様子を見てみましょうか?」
「はい。」
ふぅーと一息ついて、まだまだ寒い灰色の空を見上げる。
もうすぐにでも雪が降りそうで、降るなら降ってくれた方がまだ温かいのではないだろうかと思わせる冬の午後。
のんびりと過ぎゆく季節を想いながら、いつものコースを辿っていると、後ろから聞き慣れた声に呼ばれている気がする。
「エミリア嬢!」
「あら、ディーン様。どうなさいました?」
「うん。来年から、キャロル姫が同学年に留学してくるのだ!」
「まぁ、それは楽しみですわね。」
ニコニコと話している殿下を、弟を見るような微笑ましい目で見てしまう。
急にふと真顔になるから、何事かと身構えてしまった。
「だから、私は、生徒会に立候補する事にした!」
「おぉ~!素晴らしいですわ!」
「でだ、エミリア嬢も一緒にどうだ?」
「え゛!?」
「先の生徒会は、レッドハーツ先輩と、ブルーラング先輩、ライトブルー先輩が3人で回していただろう?」
「え…えぇ。まぁ、そうでしたわね。」
「私と!ショーンと!そして、エミリア嬢なら、よりよい学園にしていけると思うのだ!!」
「え…えぇ~…」
「どうだ!?」
「どうだ…と、申されましても…えーと、あ!
私、うどん屋さんのアドバイザーもしておりますし、経営や企画にも口を出しておりますので、少しばかり時間が足りないと思いますの!
ですので、残念ですが、今回は辞退させていただきますわ。」
「む、そうか。残念だが、それならば仕方ないな!」
「えぇ。」
「では、良い人材がいたらスカウトを頼めるだろうか?」
「えぇ、その程度でしたら、喜んでお手伝いさせていただきますわ!」
「そうか!頼んだ。」
「はい。」
「ではまたな!」
そんな事があり、学園の関心は、レッドハーツ先輩たちの抜けた後の生徒会メンバーの話題一色になっていった。
数日後。
「エミリア様。」
「あら、ウィリシュ様、リョーマ先輩。」
『千客万来じゃな。』
「実は、次期生徒会役員に立候補していただけないかと思いまして。」
「まぁ・・・残念ですが、うどん屋さんを経営している身ですので、どちらもおろそかになってしまうと申し訳ありませんので…遠慮させていただきますわ。」
残念そうに、去っていくウィリシュ様と、「ほらね?」と笑って言っているリョーマ先輩を見送りながら、話しかけてくるミィタに対応する。
『実際うどん屋の運営は、セバスとアントンで事足りとるではないか。本音は?』
「面倒くさい…」
「はぁぁ、お嬢様らしいですね。」
『まったくじゃな。』
なんのかんの言いつつ、口を出さないでいてくれるから、二人とも大好きだ。
そんなこんながあり、学園は選挙戦一色になる。
しかし、殿下の相手に立とうという対抗馬がいない為、これはもう、信任投票である。
「まぁ、私達は、選挙といっても、○か×を書いて、投票するだけですし~。
殿下なら、×を書く必要性もございませんものね。」
と、言う訳で、ほぼほぼ選挙についてスルーしてしまっていたため、定員三名の内、殿下とショーン様以外の、残り一枠に誰が入ったのか、私は知らぬまま、信任投票を終えた。
そうしてやってきた、新生徒会役員着任の挨拶式典で…
「あら…」
『ほぉ。』
「……。」
壇上に立っているのは、レッドハーツ先輩、ウィリシュ様、リョーマ先輩の旧生徒会役員と、殿下、ショーン様とファルだった。
「最後の一人は、ファルが立候補したんですのね…」
『意外じゃな。いつも小娘の世話をしつつ陰に隠れとった印象しかなかったが…』
そうして始まった式典は、穏やかに過ぎて行った。
数日経って。
「エミリア様!」
いつもの散歩道を歩いていた私を呼びとめたのは、ファルだった。
選挙も終わり、ファルもリリーから離れて、晴れて生徒会の一員となった。
リリーも最近は大人しくなり、ファルと共にいる時間も少なくなったのか、一人か、もしくはアリアネス侯爵令嬢たちと過ごしている所を良く見た。
「はい?あら、ファル様。この度の生徒会選挙、おめでとうございます。
副会長の任はどうですか?忙しくございません?」
「いえ、まだ、前任のウィリシュ様からの引き継ぎで…
じゃなかった。言いたい事があったんです。」
「まぁ。何でしょう?」
「8歳の頃の事です。申し訳ない事をしました。」
「まぁ、そんな。もうよろしいですわ。」
「いや、聞いてください。
あの頃俺は、自分は一人だと思っていました。
自分の出生の秘密を知って、誰もが腫れ物に触る様な、一歩下がった態度で、寂しかったんです。
リリーは常に俺の側にいて、エミリア様が怖いとか、睨んだとか、常に俺に吹き込んできて…いや、俺が浅はかなばかりに、エミリア様の事を誤解して、敵視してしまいました。」
「まぁ、そんな事がありましたの。」
「しかしこの頃、というか、よく考えると幼い頃からずっとだったのですが、ゲームだとか、フラグだとかで、リリーは俺を見ていたというよりも、この状況ならこの言い回しといった、遊び感覚だった気がするのです。
最近、リリーは何か面白い事に気がついたのか、俺には見向きもしなくなって…恥ずかしい話ですが、何だかやっと呪縛が解けた様な気がするんです。」
「というか、学園ではほぼ尻拭いをなさっていたではありませんか…。」
「まぁ、それも、俺を信頼して懐いているもんだと思っていて…」
「自己肯定感が低くて、良いように洗脳されていた人のように見えますわ…」
「恥ずかしながら、その通りです。」
「まぁ!ならば、ファル様も、ギルドに登録なさいません?」
「ギルドに…?」
「えぇ、私も、ギルドに登録して、以前エラい目に遭いましたの…」
「エラい目…」
「いえ!まぁ、それは置いておいて…私は、一晩でDランクからCランクに上がる事が出来ましたの!
私でも自信になったのですもの!
ファル様の魔力と剣技があれば、すぐに私など飛び越えられてしまわれますわ!!」
「それは素晴らしいです!」
「えぇ!素晴らしいと思いますわ!」
ファルと手を取り合って、輝かしい未来を夢見ていると、後ろから咳払いと共にファーブが現れた。
「ファル。」
「ファーブ兄様!」
「お嬢様に許していただけたのか?」
「はい!」
「そうか。お前が悩んでいる事には気がついていた。
しかし、私達は家族だと思っていたし、それはいずれお前にも伝わるだろうと、何もせずに傍観していた私らにも、責任はある。悪かった。」
「そんな!!」
「お前も強くなった。私も、ギルドでAランクを持っている。
お前も、自分の力を広い世間で試して来い。
それがいずれ、お前の本当の強さになるはずだ。」
「はいっ!!兄様!ありがとうございます!!」
ファーブに一番いい所を掻っ攫われてしまった。
まぁいい。
ファルは、今まで見た事もない様な晴れ晴れとした表情で、去っていった。
最近、散歩コースが賑やかで何よりだ、と思った。
エライ目とは、関西弁で、大変な目という意味です。
心底疲れ切った時の表現のような…
まぁ、一応、意味の分からない人用の方言集でした。




