爺様から見た真実
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
(爺さんの話)
ライトブルー家のエヴェローアとは、ブルーラング家のジョーと3人で幼馴染だった。
ジョーが従妹で許嫁だった嫁と結婚した時、エヴェローアは泣いとった。
ワシの中で、疑問の芽が少しずつ育って、嫉妬の花が咲いていたのは気がついとった。
その後、ワシとエヴェローアが結婚することになり、エヴェローアも喜んでくれた。
子どもが一人、二人と増えていくにつれて、その気持ちも薄れていって、徐々に日常の中の些末な出来事の一つとして、記憶に埋める事が出来るようになっていった。
幸せだった。
可愛い子供たちに、優しい妻。
領地は順調に運営されていて、些細な問題は多くあったが、皆で乗り越えていた。
その気持ちを再び思い出したのは、奇しくも、ジョーの嫁が亡くなった時だった。
肩を落として虚ろな目をし、何も見ずに涙を流すジョーの背を摩りながら、エヴェローアも大粒の涙を流して、悲しんでいた。
ワシは、その姿に再び嫉妬の花が咲くのを見た気がした。
そんな時だった。
ジョーから、話しがあると呼びだされたのは。
「久しぶりだな。」
「ジョー。大丈夫か?暫く引き篭もっとったと聞いたが。」
ジョーは、それまでも肉付きが良いとは言えん体格だったが、この時には骨と皮だけのようになっておった。
人が変わったような様相のジョーに言っては悪いが、ワシは少し恐怖を感じておった。
何を考えているのか分からん、光の灯らん瞳の奥をこちらに向けて、ニタリと不気味に笑うジョー。
「あぁ、それなんだがな…」
「どうした?」
「俺、考えたんだよ。愛しい者を失った悲しみは、新たな愛おしい者を得ればいいと。」
「……どういう事だ…?」
「お前に娘がいたよな?」
「!何が言いたいっ!?」
「ライトブルー家には、ブルーラングの結界が必要だろう?」
「ぐっ!」
「何、お前がエヴェローアに心底惚れている事は分かっている。」
「ならば!」
「だから、娘で良いと言っとるだろう?」
「娘にも好いた相手が居るわっ!」
「なら、俺は別にローアでも構わん。」
「…考え、させてくれ…」
そう言って退席する事が精いっぱいだった。
帰って、エヴェローアに相談する。
エヴェローアは驚き、パクパクと口を動かして黙り込んでしまう。
嫌ではないのか?
娘の心配をしている姿は母親そのものだが、自分の事は二の次にしてしまいがちなエヴェローアに言いようのない不安が押し寄せる。
「花を、結界を失ってはいけない原因を、王家に献上しようと思う。」
「…!あなた!」
「お前も、ウィリアーナも守る方法はそれしかないだろう…」
「あなた…」
「お前も、引っ越す覚悟をしておけ。
花を王家に返し、自力で魔物を討伐しても、森に近いこの家では何かと恐ろしいだろう。
グリーン公爵領近くの土地に家を建て直そう。
森の前には、要塞を立てて、魔物の侵入を防げばいい。
人件費を含め、少し費用はかかるが、皆の安全には代えられん。」
「えぇ。」
その時のエヴェローアの顔色は優れなかった。
すぐに、王家に手紙を書き、報告をついでとして面会を申し出る。
最近代替わりして、まだ年若い王に代が変わり、前王は退位なされた。
前王もまだワシらと同年代で退位には早いと思ったが、王妃の体調が気になるらしく、王妃が元気な間にあちこちへ療養の旅に出たいのだとか。
新しく王位に就いたジョーイはまだ年若いとはいえ、中々賢い男だ。
キチンと話せば分かってくれるだろう、そう思い、王に相談すべく、王都へ向かった。
その知らせをゾウスから受けたのは、王に報告するために面会室で王を待っている時だった。
回りの騎士たちがざわつくと同時に現れた、ゾウスからの連絡鳥。
その大きな羽がワシの鼻を擽って、やっと我に返った。
王が目の前に立っていたが、不敬だが先に手紙を開き、そして、ワシは言葉を失った。
結界が消えた?
魔物に襲われている…?
「ライトブルー公爵!兵と共に急いで帰還を!!」
「…!!はっ!」
出兵の準備が整うまでに約半刻、それから騎乗し、磯着に急いで領地に戻ったのは夕暮れ迫る頃だった。
兵が街に散らばり、あちらこちらで魔物を退治している中、ワシは一直線に屋敷に帰った。
途中、ゾウスの亡骸を見つけ、茫然としたが、今は全員の安否の確認よりもしなければならない事がある。
すまん!良く頑張った!
心の中で息子に手向けを送る。
後ろ髪を惹かれる思いで、息子をその場に残し、再び馬を走らせる。
頼む!誰でもいい!一人でも!生きていてくれ!!
祈るような気持ちで、屋敷に飛びこむとラング花の甘い匂いがしない。
見ると、書斎や書庫など数室を残して、屋敷は半壊していた。
愕然として庭に回ると、そこには、魔物か何かが溶けたのか、花壇の前に枯れ草や腐った匂いが蔓延し、地面に巨大な赤黒いシミがある。
花壇を見ると、氷のカバーに覆われたラング花が、紫のランプのように、光り輝いている姿があった。
ワシの少ない魔力では、何とも出来そうになかったから、とりあえず、凍った花壇の周りに石を積み上げそれを隠すと、森へと確認に向かう。
森に入ってすぐに、結界が復活している事に気がついた。
リョーガ・ブルーラングも駆けつけて、魔物退治を進めていく。
森に入ってしばらくする頃、兵とリョーガが、魔物が何かに集っているのを蹴散らした。
集まっていた魔物どもを、兵とリョーガがせん滅している間に、魔物が集っていた場所を見る。
そこには、ぼろきれの様になった、レニが転がっていた。
ワシには泣く事しか出来なかった。
魔物を屠した兵らが戻ってきたのは分かっていたが、エヴェローアの姿とウィリアーナを見つける事はついに叶わなかった。
今思えば、当時のワシは魔力が少なく、公爵家の特化魔法がどの程度の威力を持つものなのか、という事を知らなかった。
花壇を包む氷も、エヴェローアか誰かがかけた、氷の防御だと疑ってはいなかった。
だから、こんなにも見つけだすのに時間がかかってしもうた。
すまんかったな、ウィリアーナ。
こんなにすぐ側にいたのに、気づいてやる事が出来なかった。
もう、ウィケインに後を任せて、本当に引退しようと思う。
あいつが言っていた、私とリアーナの身に何かあったら、残った子にこの本を、と言われた宝石のはまった本と、あの本が置いてある禁書庫の鍵をウィケインに渡そう。
その後は、エヴェローアが行ってみたいと言っていた、各地をのんびりと旅しながら、絵でも描いてあいつの墓に供えてやろうかと思う。
聖女様にも迷惑をかけた。
彼女のお陰で、この地獄の様な20年を終わらせる事ができた。
討伐後の酒場で、久しぶりにウィリアーナに叱られる夢を見た。
彼女が、一瞬聖女様の様に見えて、目が覚めた後、慌てて屋敷に戻れば、聖女様は森へピクニックに行ったというではないか!
いくら討伐後とはいえ、森には良い思い出が無い。
慌てて後を追えば、ウィリシュと聖獣様が笑いながら走ってくる。
肝心の聖女様の姿が見えず、砦の方へ走れば、風の様に彼女の侍従が追い越して行きおった。
聖女様の肩を抱いた侍従と彼女の見る方を覗いてみると、地面にぽっかりと穴があいている。
その下に、見覚えのある白紫の明かり。
慌てて近寄れば、背丈よりも高くて、太い幹のラング花。
その中から出ている腕を頼りに、目の前の木を折って行く。
やっと出てきた愛おしいその姿に、私は涙を止める術を持たなかった。
ローアは、奴の手をとって一緒に行ってしまったんじゃなかった。
彼女は最後まで、ワシの妻で、子ども達の母親で、この領地を守っていた。
凝り固まって、しこりの様になったワシの胸の中の氷が、やっと融けて消えたのが分かった。
ウィリシュ、今まですまなかった。
リョーマと幸せになってくれ。
ただし、ココでな!




