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爺様の隠し事

この本には先程以上の、特化魔力についての記述は無かった。

載っている話は打って変わって、魔族の定義とその特性と銘打たれ、一気にメモの様相を呈した。


魔族 光のつい イルッターナ王家 まじない 赤い眼 人知を超えた力 ラング花を求む 


後は滲んだり、髪の毛の様な筋が書いてあるだけで、解読に至らない。


まただわ~ホンっとに読みにくい…


まぁ、要は魔族はいて、隣国王家にその秘密があるかもって事と、魔族はラング花を求めるのだという事…?位かしら?


分かった事をメモって行く。


カチャッとドアが開き、ファーブが顔を出す。


「お嬢様、昼餉だそうです。」

「あら、やっぱり時間が過ぎるのが早いですわぁ。」

『腹が減ったな。昼は魚か?』

「ミィタは毎食そうではありませんか。フフッ。」


こうして、食堂へ向かうとスッキリとした様子のウィリシュ様と、意外な事にまだ少し眠そうなブルーラング先輩がもう食卓に付いて待っていた。


「まだ眠たそうですわね…?」

「あぁ、リョーマは一度寝るととことん寝尽すタチだからね。なのに、散歩するとかって部屋を出入りして、なかなか寝ないから…」

「あら、意外ですわ。」

「だよね~。」


無口なブルーラング先輩は、それはそれで不気味だった。

ファーブに目配せると、静かに首肯を返されたためやはり、ブルーラング先輩のお散歩先は私の部屋だったらしい。

静かだが、おいしい食事に舌鼓を打つ。

ブルーラング先輩も食欲はあるらしく、ペロッと普段の量を平らげていた。


食事が終わり再び”おやすみなさい”で解散した後は、夜に備えて私もたっぷり昼寝をした。


そして、夕食後。

今日もブルーラング先輩は帰らないらしく、まだぼんやりとした様子のまま部屋へ引き返して行く。


「では、私も、おやすみなさいませ。」

「私も、午後からは起きていたとは言え、まだ少し眠いから寝る事にするよ。

おやすみ。」

「おやすみなさいませ。」


ぼんやりしたブルーラング先輩が食堂を出ていったあと、苦笑したウィリシュ様と挨拶する。

今日は朝から、挨拶が全ておやすみだった気がする。



さて、今日は歌姫という事で、デコルテの広い白いシャツをさらりと着て、赤い広がりのあるひざ下までのスカートを履き、ベルト代りに、ウエストを黒い革の、コルセット状の編上げ紐で縛る帯で巻く。

足元は高いヒールを履き、きつめに化粧を施して、異国風を意識して真っ赤な口紅を塗る。

最後に最も目立つ髪の毛。

染めるという意識が無いのか、今世生まれてからは染粉の様なものを見た事が無い。

仕方ないので、魔法で黒髪を意識すると、フワフワの癖が強い黒髪になった。

赤いリボンでカチューシャの様に、後ろから髪が前に流れてこないように留めると、完成。


『ほぉ、化けたの。』

「私とミィタは公爵家からのお手伝いに志願したので、給仕としております。」

「えぇ、分かってますわ。ちゃんとミィタを肩に乗せておいてくださいね?」

「承知いたしました。」


何も聞かずに指示を受けてくれる二人に感謝して、私もこっそりと公爵家を抜け出て、酒場で行われる討伐隊の宴会に紛れ込んだ。


もう、始まっているのか、そうでもないのか良く分からない様相を呈している。

大声で笑いながら、泡立った酒を大きなジョッキで飲み比べるゴツイ男達、はやし立てる大小様々な男や給仕の女。

真っ赤な口紅を塗って大きな口を開けて笑いながら、料理を運ぶ恰幅の良い女。

尻を触られた位で機嫌を損ねる様な初心うぶな女はこんな酒場には居ないだろう。


ウィリシュ様を置いてきて良かった。

さて、始めますか。


舞台に上がり、誰も見ていない事を確認して、周りを見渡す。

ライトブルー家の爺さんは、一人で静かにカウンターに座って、チビチビと酒を舐めていた。

壁に立てかけてあったギターを手にとる。


こんな時思う。

マリア先生、いつ役に立つの?とか思ってごめんなさい!

一通りの楽器演奏の腕、今からギター編を役に立たせます!


スゥっと息を吸い込む。

ごめん!

よくよく考えれば、私ギター一本で歌えそうな曲はあんまり知らん!

悪いが、今は盛り上がってもらいたいのでね!


私も半分ほどしか知らないが前世の知識を拝借し、この世では誰も知らないアップテンポなJ-POPをチョイスして、次々と歌って行く。

戦闘冒険アニメ主題歌とか、探検ものの歌は、時代も年代も乗り越えて盛り上がる!

うろ覚えだが、もうそこはノリ!


そして、こんなところでも、私ってば超ハイスペック!

音程も気持ちが良い程想像通りの声が出るし、音域も広い。

勿論声も綺麗だし、緩急つけて、力強く腹から声を張って歌う。

前世カラオケでもここまでは歌えなかった!気持ち良い。


盛り上がりは最高潮だった。

場の高揚感が最高潮に達した時、ソッと最上級の闇魔法を歌に乗せて酒場中に蔓延させる。

闇魔法の真価は、人の心を本人さえも気が付かない内に操れるところにある。

初めて聞いた異国の高揚する様な冒険歌。

興奮しすぎて人一人くらい居なくなってても気が付かないわよね…?


爺さんは眠っていた。

私はとっくに舞台から降りて、爺さんの横に移動していたのに、カラオケ大会の様になった会場でそれに気が付いたのは、ファーブとミィタしかいない。


『闇魔法にこんな使い方があったなんてな。』

「人を隠すには闇の中!ですわ。フフッ。」

「人の中です、お嬢様。」

「まぁ、どっちでもいいですわ。」

『良いのか?』


さて、本番はこれからですわ。


「お爺様?」

「うーんんぅ…」


ダメだ。

グッスリ眠ってしまっている。

何が聞けるかは分からないが、何かは聞きたかったのだが…

ふと考えて、ポンと手を打ち、自身に変化の光魔法をかける。

髪と瞳は水色に、白い肌、赤い唇、クリっと丸い大きな眼に淡い水色のワンピース。


「お嬢様?どなたですか?」

「フフッ、ウィリアーナさんですわ。」

『ふぅん?』


キョトンとしたミィタとファーブを置いて、お爺さんに話しかける。


「お父様!お父様ったら!もう!また酒場で寝て!

風邪をひいてまたお母様に怒られても知りませんわよっ!?」

「ん…んんぅ?ウィリアーナ…?」

「もう!お父様ったら寝ぼけてらっしゃるの?」


仁王立ちして、プンスコ怒ってみる。


「あ…あぁ、悪かった…ハハッ、変な夢を見てな…?」

「まぁ、どんな夢でしたの?」

「ん?うむ。…いや。悪夢だったからな。話さん方が良い。」

「大丈夫?お父様?」

「あぁ。お前がいてくれればもう大丈夫だ。」

「私が…?」

「あぁ。お前には話した事があったかな?ライトブルー家は女系公爵家なんだ。」

「女系?」

「あぁ、ワシも、エヴェローアの婿だった。ライトブルー家の女は、本能で特化魔法を使える。

お前が帰って来たのなら、エヴェローアも、もうすぐ…

いいか?ワシの部屋の地下にラングの花畑を隠した。もう、心配は…いらん…か、ら…?」


そう言って何かを思い出したのか、目を見張って周りを見渡そうとする爺さんを、いち早く魔法で眠らせる。


「お嬢様?」

「そう。エヴェローア様を捜されていたの…」


女系の公爵家が長女を隠す理由って・・・

やっぱり、嫁にとられたくないのかしら…?


魔物退治の本音は分かった。

当時の混乱で居なくなられたエヴェローア様を捜しているからこその一昼夜の討伐。

今回も見つからなかったんだろう。



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