再会と疑問
そのまま、棚に並べられた、羊皮紙の巻物や、背表紙が金色で魔法石などがはめ込まれて、一冊の価値が計り知れないような古い本を眺める。
暫く色々と見て回っていると見覚えのある、我が家の禁書庫に合った鍵のかかった日記と同じ背表紙の本を見つけた。
興味を惹かれて、それを手に取る。
我が家の日記もそうだが、持ち歩いて旅をしていたためか、全体的に薄汚れて、何かの動物の皮でできた表紙には、細かな傷が沢山付いており、皮の塗装は剥げて、原色のミイラの様に、白い筋が皺の様に走っている姿になっている。
再び古い日記帳にかかっている、鍵の封印を解く。
今見ると、当時は気が付かなかったが、光の紐が何重にも日記帳に巻き付いている。
「あら、やっぱり端っこは蝶結びだったのね。
以前私がかけた封印も、機会があれば見直さないとね…」
『さっさと中身を見てみぃ。』
「えぇ。」
蝶結びを解き表紙を開ける。
パラパラと羊皮紙を捲ると、内容としては大きく二つ。
要約すると、“各王家の特化魔力の特徴”と、“魔族の定義”って事だろうか?
特化魔力??
魔族の定義… ??
上記はまるまま分からないが、定義ってなんだ?
そう言えば、この国では魔族を恐れてはいるが、実際に魔族に被害を受けたり、魔族討伐を行ったりといったことは無い。
確実にいる事は疑いようがないのに、誰もその存在を証明できない、靄か霞を掴むような、あやふやだが皆が居ると信じて疑わない存在だ。
今まで自然に流していたけど、よくよく考えたら不思議な存在ね…?
「お嬢様?そろそろ、体が冷えますので部屋に戻られませんか?」
「えぇ、そうね。んー?
この部屋ごと、私の部屋のクローゼット辺りに移動できればよろしいのに…」
少しの期待と、大半のまぁダメだろうけどという諦めの気持ちで呟いてみる。
すると、部屋がフルフルと微かに震えだす。
「お嬢様!?また、何をなさいました?!」
『部屋ごと移動しとるようじゃな…?』
「あら、このお部屋、とってもいい子ですわぁ!」
私の予想以上に、従順な禁書庫に嬉しくなって、思わず満面の笑みで中央のテーブルを撫でたのだった。
その日は一旦部屋に戻って、グッスリと休む。
もう、何の夢も見ることなく、起きたら早朝だった。
昨夜遅くに一度起き出したために疲れていて、朝起きられないかと思ったが、日記への興味が勝って、興奮気味にパチッとすっきり目が覚めた。
ちなみに、ミィタはまだベッドで木の字になって高いびきをかいている。
この禁書庫は、どうやら空間魔法の一種らしく、明らかにこのサイズの部屋がクローゼット内に建て増しされていれば廊下側に張り出すはずの壁は、しかし、外側から見ても違和感なくフラットな平面を保っている。
このアイデア良いわよねぇ…
私のお昼寝部屋とか作ってみようかしら…?
そんな事を考えつつ、読みづらい日記と格闘する。
相変わらず、日記帳だったり、研究結果の報告のようだったりとせわしないが、大方の内容は掴めてきた。
どうやら、私達公爵家が王家だった頃から、その特化魔力があったおかげで、脱した危機というものが多々あったらしい。
特化魔力とは、その家系の者が命と引き換えに使える最大魔法の事で、その特徴が6公爵1子爵家でそれぞれ異なっているらしい。
簡単に説明すると、
イエローラング家は、守護の光魔法
ライトブルー家は、氷壁の光魔法
グリーン家は、癒しの光魔法
オランジ家は、再生の光魔法
レッドハーツ家は、灼熱の闇魔法
ブルーラング家は、防護の闇魔法
そして、我がヴァイオレット家は、隔絶の闇魔法
イエローラング家の守護の魔法はそれ自体が良く知られたものだが、それ以外は聞いた事がない。
まぁ、当主になった者だけが読むことを許される、というのが禁書の定義らしいから、当主のみが使える魔法なのだろう。
注釈として、近親婚を繰り返していたかつてとは違い、現在では血が薄まったため、特化魔力は命を対価とする事になったが、かつてはみな普通に特化魔力を使用していた、とある。
リリーが守護を使えるのも、陸の孤島のイェローラング家の血がわりと濃いからだと推測できる。
それでも”久々に出た守護魔力持ち”って言ってたから、ここ最近はそうでもなかったんだろうけど。
気になったのは、命と引き換えに使用できる魔法が、それぞれ光魔法と闇魔法でバツンと別れている事。
でも、私は光魔法も闇魔法も最大魔法まで使用できるわよね?
ってか、光魔法と闇魔法ってそれぞれ個別の魔法ではないの?
氷魔法って、確か水魔法と風魔法の複合魔法よね?
灼熱も、火魔法と風魔法の複合魔法ではないの…?
それに、守護は光魔法で、防護は闇魔法って…どうちゃうねん!?
一つ分かったかと思ったら、また新たな謎が増えていく。
終わりのない泥沼に足を踏み入れてしまったような気分になる。
まぁ、それはそれで面白いが。
そこで、気分転換に禁書庫の中を見渡すと、抜けるような気持の良い青空をまぁるく切り取ったような綺麗な宝石が背表紙にはまった重厚な装丁の一冊の本が目に付いた。
その本を手に取り、中身を見る。
それは、私でも行った事がないのに北極や南極をイメージできて、ブルリと寒気を感じて震えてしまうような内容の寒い寒いどこかの国の物語だった。
早々に本を閉じ、背表紙の宝石に手を触れる。
「あら、これは…魔石だったのね?」
その淡い水色の宝石にも見える綺麗な石には、奥に魔法陣が浮いている。
「んー?この本の中に、問答無用で放り込む陣…ですわね。」
きっと、想像力がなければ使えない魔法を、旅に出ることなく無理やり習得するための修行本なのだろう。
その本を棚に戻し、再び日記の前に座り直す。
その時、禁書庫の扉がカチャと、微かな音を立てて開いた。
「お嬢様、早起きですね。」
「えぇ、日記の中身が気になったのよ。」
ウエスト部分を編上げの胴巻きのような帯で締めて女性らしい体のラインが分かりやすいタイプのワンピースドレス姿で、昨夜移動させたクローゼット内にある禁書庫の中で簡素な椅子に腰かけ、ランプの明かりで封印を解いた日記を読んでいた私に、声をかけたファーブ。
いつも通りキチッとした執事服に乱れも無く、昨夜遅かったのにもかかわらず、一仕事終えてきたようで、静かに流れるような動作で紅茶を入れて出してくれる。
「ありがとう。」
「何か分かりましたか?」
「うーん?6公爵家とファーブのお家が、どうして王家を名乗れていたのかという点では納得できたけれど、それが何を意味するのかまでは、まだ分かりませんわ。」
「そうですか、では、続きはまた後にして、今は朝食に向かいませんか?」
「あら、もうそんな時間?分かりましたわ。」
ベッドルームに戻ると、まだ眠そうなミィタがベッドに辛うじて座ってカクカクと舟を漕いでいる。
「フフッ。ミィタ、おはようございます。」
『あぁ、くぁぁあ!おはよう、禁書庫に居たのか?』
「えぇ。朝食にまいりませんか?」
『あぁ。ワシは今朝も魚が良い。』
「ミィタはここに来てから、常に魚ではありませんか。」
「フフッ、ここの料理長も分かっておられますわ。」
そうして、皆で食堂へ移動した。
次々とやってくる、ライトブルー家の面々に挨拶をしていく。
すると、遅れて一番最後に、眠そうな顔のウィリシュ様と、相変わらず考えの読めないブルーラング先輩が入ってきて、皆揃っての朝食タイムとなった。
「おはようございます、ウィリー様、ブルーラング先輩。」
「おはよう、エミリア様。」
「おはよう。モルちゃん。」
「今日はとても眠たそうですわね?」
心配げに顔を覗きこめば、ブルーラング先輩が代わりに答えてくれる。
「一晩中、ライアードチェスをウィルとしていてね。結局決着がつかなくて朝になっちゃったんだよ。」
「ライアードチェス…まぁ…お疲れ様ですわ。」
「モルちゃんは直感で生きていそうだから苦手そうだね。」
「そうですね。5ターンまで回ってきた事がございませんわ…」
「ハハっ。ぽいね!」
どうやら、ブルーラング先輩は今日も絶好調の様だ。
ライアードチェスとは、ほぼチェスのようなものなのだが、裏切り者をそれぞれ何体かずつ決めてゲームを行う事で、味方の駒すら思ったように動かせない恐ろしいゲームだ。
まぁ、魔法があり、使えて、裏切り者をマーキングする事が出来るというのが前提条件のようなゲームだから、広がっているのも上位貴族のみという、非常に範囲の狭いゲームだ。
「という訳で、悪いんだけど、僕たちこれから眠るから、モルちゃん、今日はこの屋敷でのんびりしてくれる?」
「まぁ、よろしいですわ!」
「あれ?嬉しそうだね。」
「えぇ。昨夜、少し眠れなくて、勝手して悪いとは思ったのですが、書物庫に入らせていただいたのです。
そこで、面白い本を見つけて、お借りさせていただいたので、私、今日はゆっくりと本を部屋で読ませていただきますわ!」
「へぇ。いいんじゃない?じゃ、おやすみ!」
「はい。おやすみなさいませ。」
朝食後におやすみって変な気もするが、まぁ、徹夜明けならそんな事もあるだろう。
部屋に戻り、ファーブに変化魔法をかけ、私の代わりに読書をさせるという仕事を残して、ミィタと共に禁書庫に籠る。
そうして、昼食までじっくりと日記解読に時間を費やした。
今度はノートを持ちこんで、先程考えた疑問点を一つ一つ記入していく。
先に疑問を全て書き出すために、日記を読み進める。




