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常識の範囲外のお嬢様

『・・・ア!エミリア!!』

「お嬢様!!お嬢様!!」

「…んあ?あら?もう朝かしら…?」

『目が覚めたか…?』

「おはようございます。ミィタ。ファーブ。…あら?」


おかしい。確かに私は自分にあてられた客室でグッスリと眠っていたはずだ。

今私の目の前にあるのは、重厚な扉。

しかも、廊下側。

見回すと、明かりがポツリポツリと燈る長い回廊の端の部屋。


私の家だと書物庫の辺りだけど…


「ライトブルー公爵家の、書物庫前です。お嬢様」

「書物庫…」

『何度も声をかけたのだがな?』

「夢遊病かしら…?」

「お嬢様が、寝ている間に移動された事はこれが初めてですよ?

寝ぼけておられたのですか?」

「ん~??そうなのかしら??」

『操られておった形跡は無いがなぁ…?』

「あら、私、寝相が悪かったのね・・・」


ファーブとミィタは難しい顔をしている。

まだ深夜なのか、窓の外は真っ暗で人の気配は私たち以外ない為、ヒソヒソと小さな声で話す。


「とりあえず、入ってみましょうか?」

「お嬢様!?」

『…入るのか?』

「えぇ。せっかくここまで来たんですもの。また許可をいただくのも面倒ですし。

ご自由にお過ごしくださいと言われておりますし?」

「めんどう…」

『本能で生きとるようじゃな。』

「ウフフっ」

「ウフフじゃありませんよ…」


古い木の扉をソッと押し開けると、古い書物の甘い香りが鼻に付いた。

中に入ってみると、明かりは点いていない為、目の前にかざした手さえ見えない程の闇に包まれる。

ファーブが最後に音もなくドアから滑りこんだ後で、ポンっと手を打つと、ホゥッとあちこちで温かなオレンジの明かりがともる。

見上げると、我が家の書物庫に引けを取らない程の蔵書が隙間なく本棚に詰まっている。


『しかし、見ると言っても、この量では…』

「あら、ここら辺の本なら、我が家の蔵書にもございますわ?」

「…そうですね。確かに。良く御存じですね。」

「ウフフっ」


この国の製本技術が確立したのは、割と最近で、禁書庫にあるような古い本以外はここ500年以内に印刷された新しいもので、前世で言う高級わら半紙のような紙でできており割とどこにでも売っている。

本棚を見上げ、一冊を手に取ってみているファーブに感心されて少し得意げになる。

ちらちらと彼方此方を見上げているミィタとファーブを率いて、私は迷いない足取りで、薄暗い本棚の奥のさらに暗い方へと歩みを進める。


『ほぉ?こちらにも本があったのだな。』

「私には指の先も見えませんが…」

「ここよ?私が探していた禁書庫。この本棚だけ後光が射しているでしょう?」

『普通の本棚だがの?』

「お嬢様の最上級の光魔法の目ですか?」


割と暗闇に目が効くミィタと、見えないところでも神経を張り巡らせてスイスイと不安なく歩いていくファーブの前で立ち止まる。

そこには天井まである高い本棚が二対。

両脇はこちらを向くように本棚が立っているため、一見すると袋小路になっているように見えるが、私の目には、背後から後光が射した天の岩戸の様に、後ろに何かを隠してある秘密の扉のように見える。

つまり、周りが暗ければ暗いほど、この本棚の異質さが際立って、逆に、何か隠してます!と主張している状態だったのだ。


「さて、後は、どうやってこの重そうな本棚を退けるかですわ?」

「お嬢様、ここは私にお任せください。」

「お願いね、ファーブ。」

『暗部の勘かの?』

「いえ、こういう仕掛けは作れる設計士が限られてくるので、物の年代が分かるとパターンが絞られてくるんです。……ほら。」


カツーン


本棚の本を引っ張ったり、枠を踏んだりしていたファーブが、赤い本が凭れ掛っていたのを真っすぐに立てた。

すると、軽い何かを落としたような音が鳴り、静かに本棚が左右に分かれた。

観音開きになった本棚の間を通ると、左右から光り輝くリボンと、漆黒のリボンが結ばれている重厚な扉に行きついた。

私達がリボンの辺りに到達したことを確認したかのように、観音開きの本棚が元の位置に戻った。


「まぁ、可愛らしい。」

「可愛いですか?」

『重厚な扉だが?』

「いえ。フフッ、結解がリボン結びになっているのですわ。」

『ワシにも見えんぞ…』


何故かショボンとしたミィタを撫でて、そのリボンを解く。

消えてしまえば厄介だったが、リボンは扉の両脇にだらりと垂れて消える気配は無い。

きっと、強い力の術者が、その時の当主の魔力量が少ない場合も考慮に入れて、術を施したのだろう。

結解の他に罠がないことを確認して、そっとドアの取っ手に手をかけて押す。


ガチン


「これは…鍵!!」

『ほぉ?想定外だの。』

「どうされますか?」

「フフッ、私も本気を出しますわ!」


大抵の面倒事は魔法でどうにでも出来てしまうこの世界、物理的な鍵とは、ある意味魔法を念頭に置いてあるため、強固な結界よりも時に厄介だ。

まず、鍵穴から探す必要が出てくる。

きっとそれも、当主から次期当主への一子相伝!

燃えますわぁ!

前世、敵を倒して王女様を救うRPGでは、妹に戦闘を任せて、だてに宝探しばかりしていたわけじゃない!


こういうシュチュエーションは大好物だ!


そして、私には、世界を股に掛けた大泥棒の孫と、早打ちガンマンと、五右衛門風呂で茹で殺しの刑に処された日本の歴史的大泥棒の孫が、ボンキュッボンの美女泥棒に騙されたり、笑いあり涙ありでインターポールのとっつぁんに追いかけられながら、ハートを奪っていく物語という強い味方がいる!!


鍵なんて私の前では意味がないと思いなさい!


意気揚々と扉の前に立ち、取っ手に手を伸ばす。

固唾を飲んで後ろで見守る二人を余所に、何故か、扉は開くと私には確信があった。

扉をじっくりと観察して、心を落ち着かせる。

ゆっくりと呼吸をして、意識的に優しい声音を心掛ける。


「さぁ、始めましょうか。

ねぇ、貴方。私の前に立ちふさがるなんて、い~い度胸ですわね?

いいです事?よぉ~くお聞きなさい?

私が優しく待ってあげている間に、貴方から、私に是非お通り下さいと平伏してお願いすれば、粉砕は免除してあげてもよろしくてよ?

私、気が長い方ではないから、お願いね・・・?」


息がかかるほどの距離から、扉でも聞き取れるよう・・・・・・・に優しく、ゆっくりと語りかける。

お母様譲りの美しい笑みで、お父様譲りの冷たい眼差しでじぃっと扉を見つめる。

オプションで、扉を、優しく指先で撫でてやれば、ほぉ~ら!


カチン


フルッと扉が震えた後、一拍の間も置かずに鍵が開く軽い音がする。


『もうちょっと、常識の範囲内を心掛けてくれんかの?ワシでも、たま~にびっくりするわ』

「常識の範囲外の聖獣様に、常識を請われるお嬢様…はぁ…」

「覚えていれば心掛けますわぁ!」


ガッツポーズを高々と掲げている私に、ミィタとファーブからソッと声が掛る。

私は知っている。


この城は半壊して、わずか20年程前に建てられたばかりだが、この部屋は梁も扉も木製で、年代を感じさせるような、歴史ある趣になっている。

きっとココは、それ程手を入れられた訳ではない。

ならば、この扉も500年以上の歴史あるもの。

前世日本には、100年使った道具は意志を持ち、神とも妖とも呼ばれる存在になるという伝承があったのよ。


唖然としたミィタと、カクッと項垂れているファーブを残して、スルッと開いた扉から内側に滑り込む。


「灯りは?」


フッと何もしていないのに灯る卓上のランプ。


「フフッ、いい子は好きですわ。」


笑顔で褒めたのに、また部屋全体がフルッと震えたような気がした。

周囲を見回すと、窓もない狭い小部屋の四方は、ドアの横すぐから本棚に囲まれており、天井と床にはそれぞれ、光魔法と闇魔法の魔法陣が書いてある。

ドアの蝶番の所から、魔法陣が続いている事を鑑みると、ドアの鍵に連動して魔法陣が作動し、結界の発動と解除も同時にできる仕組みだろう。


「結界のリボンはこれで発動してましたのね?」


ファーブとミィタが室内に居ることを確認して、その魔法陣に触れる。

私の魔力を得た陣が光り、開いたままのドアを確認すると、寸分違わぬ姿で結界のリボンが、また可愛らしく蝶結びになっていた




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