危険と推理と地獄耳
ファーブのお小言を正座のまま粛々と聞き流していたが、そろそろ痺れが高じて、足の感覚が無くなってきた。
これはマズイ・・・と、私が冷や汗を流し始めた頃、ゆっくりとミィタが助け船を出してくれた。
・・・遅いよっ!!
『ところでファーブよ。次の討伐はいつじゃった?』
「はい。今夜でした。」
「今夜!?」
「えらく急ですわね・・・?」
「どうされますか?」
ファーブの確認は、参加するかどうか…ということだろう。
足を擦りながら、ん~?と悩んでいる私達に、優しげに聞こえるが有無を言わさぬ声が聞こえた。
「ダメに決まってるじゃない?何を言っているの?」
「げ!ブルーラング先輩!」
「やぁ?モルちゃん。今日はウィルとデート?」
「た・・・食べ放題ツアーですわ・・・」
デートと言われて、固まってしまったウィリシュ様に代わって、しっかりと訂正しておく。
だが、自分で言うと恥ずかしい。
私も乙女だからね!!
ファーブとミィタからのぬるい視線が煩いが、甘んじて受けよう!
親友の!恋の為に!!
深い海の色の瞳を、三日月にして、ジィっと真意を確かめるようにこちらを見るブルーラング先輩が怖い。
やっと、デート発言から立ち直ったウィリシュ様が後を引き継いでくれた。
「リョーマはここで何をしてるの?」
「あぁ、たまたま散歩をしていたら、魔物討伐の話が聞こえてね。
どうする?とか聞こえたから、まさか公爵家の者が行くのはいけないと思って、口を挟ませてもらったよ。」
ニッコリと語るブルーラング先輩に、普通に引く。
だって、私ら、そんなに大声出してないよね?
どんな地獄耳持ってらっしゃるのか…
はぁっ!
視線に殺意を感じる!!危険!超危険!!
「でも、御爺様は何かを隠しているらしいんだ。」
「ん~でもさ?ソレって討伐に参加しなくても聞ける事だよね?」
まぁ確かに。
どうやら、口では、ウィリシュ様よりもブルーラング先輩の方が上手らしい。
「じゃ、昨日はお泊り出来なかったけど、今夜はウィルん家泊まって、見張るからね?」
「え゛!?」
「当り前じゃない?ウィルは時々無茶するから、僕が見張って無いと、抜け出して討伐に合流するつもりだったでしょ?」
「えぇえっとぉ?そんなっもりはなぁかったかなぁ?」
裏返った声で否定するウィリシュ様は嘘がつけないらしい。
泳ぐ視線と、マゴマゴと止まらない手遊びが、動揺を如実に表している。
「もう少し、動揺を抑えられるようになっていただきたいものですわね…」
「お嬢様が落ち着き過ぎなのですよ。」
「ん~?」
『ま、いいわい。魔物討伐は朝までかの?』
「いえ。それが、次の日の夜までです。」
『一昼夜ってことか?』
「そのようですね。その後、酒場で慰労会を行って、ギルドにて報奨を貰うのが通例らしいです。」
一昼夜…ねぇ?
まぁ、強い魔物なら昼間も行動するだろうけれども、昼間に森に居るのはそれほど意味がないように思える。
魔物は、光に弱い。
闇に属するらしく、太陽光や弱い物なら、ランプの明かりにすらやられてしまうものもいる位だ。
森の中の光の当たりづらい場所なら、多少は残って活動している魔物もいるだろうけど…
昼の森にも居る理由として最も考えやすいのは、それ程奥に入っていくという事。
でも、森の奥にいったい何があるっての?
確か、この森は、ヴィケルカール国の国々の辺境地と、ディーン殿下の想い人であるキャロル姫のいる隣国イルッターナ国を隔てるように、境目に堂々と聳えるヒュージ山という標高五〇〇〇メートル級の山の裾野に広がった、さながら富士山の樹海のような森で、魔物が住みつき、磁場も狂いと中々皆に恐れられる、そんな森なのだ。
この森の広さは、ブルーラング領の横にあるレッドハーツ領まで及びその先は断崖絶壁から海に繋がり、反対側はグリーン領まで届き、大陸を真っ二つに分けている。
この森は国境としても利用されている。
森の浅い所ならば、光も入り、魔物もそれほど強くないため、薬草取りや狩猟などに一般人が入ることも可能だ。
だが、ひとたび奥へ入れば、狂った磁場に惑わされ、魔獣に襲われ、無事に向こう側に突っ切るのは至難の業であるため、天然の要塞となる。
イルッターナ国との交流は、王都からオランジ領を通り、森を一直線に抜けてイルッターナ国まで通じる国道があり、そこのみが最も安全な通路といえる。
以前話していたルーナ様が渡ったという橋も、この森の外れにある橋、という事になる。
「ふぅん?では、討伐は参加しませんが、その慰労会には参加しますわ。」
「お嬢様?でも、それは、逆に危険では?」
『そうじゃぞ?荒くれ者が多く参加するじゃろう討伐の慰労会など、羽目を外す奴が多く出るじゃろうて?』
「あら、ふふっ。ありがとう。でも、何だか良く分かりませんが、ミステリー好きの血が騒ぎますわ!」
「分かりました。酒場で、慰労会用の臨時の給仕を募集していたので、応募しておきます。」
「歌い子がありましたら、そちらで申し込みしてくださいませ。」
『エミリアは、歌えるのか?』
「ん~?多分?」
「分かりました。給仕よりは危険は少なそうですし、そちらの方を探します。」
ウィリシュ様が動揺してシドロモドロの言い訳をしている間に、私達はこそこそと内密に話を済ませ、決定したのだった。
その日の夜。
今日もしっかりと温泉で体を温め、おいしい食事に舌鼓を打ちつつ、ブルーラング先輩との鬼気迫る攻防に耐え、やっとの事で部屋に戻って、ミィタと布団に入る。
『のう、エミリア?』
「はぁい?なんでしょう?」
『浮かれとるが、何か分かったのか?』
「いえ。ん~確証はないのですが、以前、お父様の書物庫の禁書コーナーに、鍵のかかった禁書が一冊ありまして…で、お父様の日記だと思って意地でも開けてやろうと頑張った結果、読めたのです。」
「お嬢様、そんな事をしていらしたのですか…」
『確かに、エミリアは、文字を覚えた頃、書物庫内の全ての本を読み漁っていた頃があったな。』
「はい。その頃ですわ。」
その頃は、すわ神童かと大騒ぎになったが、単純に知識を吸収しただけで、一向にそれを利用して何かを成そうとしない私にしびれを切らして、お嬢様は単純に本が好きという称号を得たに止まったが。
んでまぁ、その頃取った杵柄が今やっと役に立とうとしている訳だ。
その禁書というのも、禁書庫コーナーと軽く言ってはいるが、風魔法と、金魔法、土魔法でガッチガチに封印された上に、鍵のついた禁書も、今思えばだが、最上級の光魔法で守られていたものだった。
だから、読み終わった後、鍵を掛け直すのに夕飯直前までかかってしまい、あわやオリビアに雷を落とされるかと思い、焦りまくった記憶がある。
結局何とかごまかせて、事なきを得たが…
『で?その禁書には何が書かれていた?』
「その禁書は、父ではないどなたかの日記?のような、研究ノートのような手書きのものだったのです。
内容は、私はもうダメかもしれないが、私が今まで魔物と戦って気がついた事と予測を書き記し、どうか、後世で誰か魔物に打ち勝ってくれといったものだったのです。」
『ほぉ、面白そうじゃな。』
「編纂しなおせば面白い書物になったでしょうが、そのままだと字は汚いし、突然メモ書きのように単語ばかりが散らばっているページになったりして、読みづらいことこの上なかったですわ。」
「お嬢様、書物の文句は良いですから、続きをお願いします。」
「あぁ!そうなの!あのね、その本の最後に、他の場所でラング花を育成できないか、各領に一鉢ずつ持ち込んで育てる実験を行った、とあったのですわ。」
『ふむ。そんなことならいろんな研究者が行っておるじゃろうて。』
「まぁ、そうなのですが、でもね、その禁書が書かれたのが500年以上前だった、としたら?」
『そうなのか?』
「多分。滲んでおりましたが読めた範囲ではあの本、ミレニアム級の代物ですわ。」
「国が統一されてからの、ラング花の移動は厳重に管理され記録されていますし、その記録でもイエローラング以外で、ラング花の育成に成功した土地はございませんが…」
「そう、だからそれ以前に移植されたものが、魔物の異常増殖か何かに影響しているのかもしれませんわ?
だって、その日記には、確かにラング花の移植には成功したが、この花を守れるだろうか・・・
青たちは・・・と謎めいたことが記されていましたもの!」
『一〇〇〇年も前に移植されたものが、二〇年前に突然開花して魔物を呼んだ…と?』
「それは分からないですわ。」
「お嬢様はご存じないかもしれませんが、ラング花は永久花です。
花だけなら摘んでも次の日には再び花弁を付け、根からとっても一週間で再生するのですよ?それが、千年は、考えづらいかと…」
「それを聞くと、そうねぇ?きっとまだ何か、情報が足りないのですわ…」
そんな話をして、私達は眠りに落ちた。




