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スイーツと噂と推理

翌日も、ウィリシュ様の御髪や瞳の色のように綺麗に晴れ渡った空の下、今日は、領地のスイーツ巡りに勤しんでおります。


「まぁ!綺麗な色どり!

ん!こちらは!このトコトン甘いジュレをサッパリした皮で包んであって後味に嫌みがないですわぁ!!」

「さすがですね。エミリア様が幸せそうなお顔で食べてくださるので、スイーツ職人たちも嬉しそうです。」


前世今世合わせても、やった事のない食レポ・・・

だいたい、私は食す事は好きだが、知識レベルが追い付いていない。

私の知らないレベルで言えば、プリンとパンナコッタの違いが分からない程度だ。


つまり、食の評価なんて、旨いか美味くないか・・・という、超個人的な味覚のアレ・・でしか判断できないのだが、パティシエの皆さんは良い笑顔で、私の曖昧な評価を聞いてくれている。

評価はできないが、嘘は吐けない性格なので、味は表情に一目瞭然で表れるのだが・・・


何が流石なのかはさておいて、私の横でニコニコと微笑みながら、私と同量か、それ以上を食していたウィリシュ様が声をかけてくれる。


「さすが!スィーツ職人の登竜門だけあって、レベルが高いですわ!!

…ですが、さすがに、少ししょっぱい物が恋しくなってまいりましたわ…」

『やっとか…』

「お嬢様、パスタなどいかがですか?」

「どうですか?ウィリー様?」

「そうですね。私はもう少しスイーツでも大丈夫なので、パスタ屋に移動して、ガレットでも頂こうかな?」

「まぁ!では、私はしょっぱい物をいただいた後に、デザートとして頂きますわ!」

「それも良いですね!私もそうします!!」


キャッキャとはしゃぐ私たちの横で、どんよりとした空気が流れた。

見ると、グッタリとしたミィタと、少し青ざめたファーブがいて、「貴方達食べてなかったわよね?」と不思議に思う。


「匂いだけでお腹いっぱいです。お嬢様。」

『ワシは、もう胸やけしとるわい…』


ミィタとファーブはぐったりしながらも、「おいしいお店があるのです!」と張り切って先頭を歩くウィリシュ様に続く。

今日は、ライトブルー城下街の散策だ。

ウィリシュ様は生まれた直後こそ女として城下に広く周知されたが、すぐにお爺さんによって、男だったと訂正されたため、街人は皆、男としてウィリシュ様を見ている。

名前もウィリアムとして広がっているため、誤解を与えないように昨夜急遽、愛称として出来上がった、ウィリー様と呼ぶ事になっている。


一軒のパスタ屋に入り、私はトマト系のお勧めを、ファーブとミィタは魚を使ったサッパリ系を、ウィリシュ様はたっぷりとチーズやクリームを使った物をがっつりと頼んだ。


食事中は黙って食事に専念するタイプの私とウィリシュ様は、似た者同士ですね!と笑いながら、黙々とパスタを食していく。

黙って食事を進めていると、私達とはついたてを隔てた側にいる、厳つい声の冒険者らしいオジサンの声が聞こえてきた。


「前公爵がまた、魔の森の魔物討伐隊を組むんだとよ。」

「またぁ?そんなにすぐに魔物は増えねぇべ?」

「いやぁ、そんがな?どーやら、あんのジジなーんか隠してやがんだよ。」

「隠してるってぇ?何を?」

「ほれ!魔物討伐に森に入っても、あんのジジ、ひょっとどっかに消えやがって、俺らが戦って倒した魔物の顔は必ず確認させねぇと金くんねだろ?

だからありゃ、何か隠してやがるってんだよ!」

「だぁから、隠すって何をさ?」

「ほれ、20年前くれぇにこの街が大量の魔物に襲われただろ?

あん時ほれ、噂んなったべ?

ジジの息子はズタボロで死んでんの見っかったけど、娘と嫁さんは見っからんて。

あん時、ジジの娘の腹には確か父親の分からん子供がいたから、騒ぎに乗じて婚約者から逃げたらしいってよ?」

「んなの、噂だべ?

大体、あん時の直前に、おら達も娘さん見たじゃねぇか?

腹ペタンこだったべ。ありゃ、面白おかしく尾ひれがついたんだべ?」

「そだな。」

「んだよ?あっさりしてんじゃねぇか?」

「んあ?いや、折角面白いうわさ話仕入れたのに、お前が冷静だから、興醒めただけだ。」

「あぁ、スマネな。おら、真面目だけが取り柄だもんで。へへっ!」

「わかってるさ!お前だから、俺も信用して、こんなしょーもない話ができるんでねか。はは!」


なんだと?


おっちゃんらの話は森の魔物の弱点などに移っているが、今の話、何やら引っかかる。

食べ終わったパスタ皿にフォークを置いて、静かになったテーブルを見回す。

ミィタとファーブは、表面上変わりはないが、ウィリシュ様は明らかに青ざめている。

証拠にデザートとして楽しみにしていたガレットをほとんど食べずに下げてもらおうとしていたので、持ち帰り用に包んでもらった。


私はがっつり最後まで頂きましたが!

やはり、ガレットも最高に美味でした。


「ニオイますわね?ウィリー様。」

「えぇ。ですが…」

「その魔物討伐はいつですの?」

「ギルドに確認してまいります。」

「えぇ。お願い。」

『どうするつもりじゃ?』

「そうですわねぇ…そう言えば、前回の魔物討伐はいつだったかご存知ですか?」

「前回ですか…?確か、ウィーカが生まれてすぐ、か、生まれる直前…だったかと記憶しています。」


お会計を済ませた私たちは店を出て、人があまり多くない噴水のある広場のベンチに腰をおろして話している。


「授業で習いましたが、確か、魔物が育つのは周期があるのですわよね?

新月の夜に魔物は生まれるけれど、種類によって育つ速度が異なり、大群になったりして被害が街に出るのは大体30年から50年周期だとか…」

『ふむ。だとしたら、4・5ヶ月で討伐隊を組むのは異例の早さじゃな?』

「うちの領では割と普通なんです。

20年程前に父以外の公爵家の者たちが、魔物に襲われた件は、さっき聞こえましたよね?

あれは、事実です。

父はたまたま、母とオランジ領で商売の勉強をしていて難を逃れたそうです。

もともと父は三男で、武力に秀でていた訳でも無かったそうで、武力に秀でた兄達を金銭面でサポートできるようにと、結婚したばかりでしたが夫婦で商売の修行に出ていたらしいです。

魔物に襲われ、御爺様以外が全滅したと聞いて、次期公爵として後を継ぐために帰ってきたら、それまで優美だった公爵家が、まるで監獄のような重厚な趣になっていて、祖父も女性を軽視、蔑視するようになってしまわれた…と。

それ以降、年に数回は魔物討伐を行い、森との境にある検問所を厳重にしたり、兵を訓練したりと・・・。」

「あら?では、それ以前までは?」

「優しい普通の人だったと、以前父が話していました。

きっと、魔物に襲われた件で心が傷ついて、あんな態度を取ってしまうんだ、と。

いつかは元の優しい祖父に戻ってくれる、と。」


ふーん・・・・・・・ん?

しまった!いらん事に気が付いてしまったようだわ・・・

あ゛ぁ!めんどくさい・・・


考え込んでしまった私を挟んで、ミィタとウィリシュ様の会話は続く。


『そう言えば、ニ年程前に祖父が実家に戻ってからは帰省しとらんと言っとったな?

爺は二年前までどこに居おったんじゃ?』

「あぁ、えっと、私が生まれてから学園に入るまでは、公爵家でほぼ顔は合わせませんでしたが、一緒に住んでいました。

その後、私が学園に入るのと同時くらいに、魔の森の入口にある検問所の横に家を建て、憲兵と共に森を監視するように住まわれていた…と。」

「森・・・?」

『ふぅん?で?二年前に公爵家に帰ったのは?』

「さぁ?何が理由かは、私にはサッパリ・・・」

「それは予想が付きますわ。」

『「え?」』

「きっと、その頃から、ウィリー様は恋を患われましたのよね?」

「んな!?なんでそれを!!?」

『本当か?』

「・・・・・・・はい。」


ボボンと真っ赤になったウィリシュ様とミィタは、驚いた顔で私を見る。

分かってるって、なんで分かったか知りたいんでしょ?

多分、前世の私はミステリー小説大好きっ子だったんだよ。きっと…多分。

知らんけどさ!


「多分その頃から、公爵夫妻が妊活をされ始めたのですわ。」

「ニ・ン・カ・ツ・・・?」

『孕むために、調べとったってことか?』

「まぁ!ミィタったら。でも、まぁ、そう言う事ですわね。

私のお守りを求めて、公爵様が領の屋敷にいらっしゃったのが丁度その頃ですもの。」


真っ赤になったウィリシュ様の横で、顔色も変えずに話し続ける私たちの前に、ズイッと飲み物のカップが差しだされる。

見ると、呆れた表情のファーブが立っていて、あ、マズイ。説教モードだ…と気がついた。


「お・嬢・様?」

「は・・・はぃ・・・」

「は・し・た・な・い、と言う単語があるのはご存知ですか…?」

「はい、存じ上げております。申し訳ございませんでした。」


ベンチの上に正座して、うまく説教を逃れたミィタと、真っ赤な顔がやっと落ち着いたウィリシュ様に見守られ、私は深く深く土下座したのだった。



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