天敵現る!
出迎えてくれたのは、女の子…?
頭のてっぺんにピンクの大きなリボンをつけて、明るい茶色の長いフワフワした髪。
色白で細くて、背は私の目線程、ストーンとした裾の広がったAラインのドレスを着て、パタパタと走ってくる、クリっとした水色の目が可愛らしい女の子。
「妹様ですか?」
「………母です。」
『「「母!?」」』
ビックリしすぎて、お母様が玄関前の私達の所に辿りつく前に大声でハモってしまった。
「し…失礼いたしました。初めまして、エミリア・ヴァイオレットと申します。
ウィリシュ様には仲良くしていただいております。
これ、我が家の特産のウドンです。食欲が無い時にツルっと食べられて人気がありますので、もしよろしければ。」
「まぁまぁ、ありがとうございます!ウィリシュの母のリシュカと申します。
エミリア様には、お守りなどで良くしていただいて、我が家の救世主ですわ!!」
「そんな…」
照れ照れと、公爵夫人に褒められていい気になっていると、横から心配そうな声が掛った。
「お母様、産後すぐに、そのように走り回って、大丈夫なのですか?」
「そうなの!ウィリシュちゃん!
今回のお産はとても軽くて、体調もすこぶる良好なの!
お乳も良く出るし、乳母を雇わなくても、ウィーカもとても元気に育ってくれているのよ!
貴女には長い間苦労をかけたわね。ごめんなさいね。」
ウルウルと瞳を潤ませながら話す親子に、続々と出てきた使用人達も、瞼にハンカチを押しあてて喜んでいる。
「あまり体を冷やすのは良くありませんわ。」
「まぁ!そうね!どうぞ、こちらにいらして!
客間で主人がエミリア様にお礼を言いたいと心待ちにしておりますわ!」
「お礼というなら、どうして父は出てこなかったのですか?」
「…えぇ。お義父様がね…」
「ぐ…」
ゲホゴホと、息を飲んで噎せるウィリシュ様の背をソッと撫でる。
心配そうな使用人達を残して、公爵夫人、ウィリシュ様、私、大型犬サイズのミィタ、ファーブの順に客間に入る。
「お連れしましたわ、お義父様、旦那様。」
見ると、背の高いひょろっとした優しげな風貌の、水色がウィリシュ様とそっくりの当代ライトブルー公爵の横に、公爵の腰ほどの背丈しかない、真っ白な髭と眉毛はフッサフサなのに、つり上がった糸目でデカイ鼻、分厚い唇に浅黒い肌で、部屋の中なのに革の鎧を身につけている爺さんが立っていた。
ライトブルー公爵は以前会った時よりも、心もち血色がよく、私を見てフワッと優しい笑みを浮かべてくれた。
しかし、彼が口を開く前に、第一声を放ったのはお爺さんの方だった。
「御苦労。女は下がれ。よくぞ帰ったな、ウィリアム。久しいの。
そして、ウィリアムの婚約者として参ったのか?御客人。歓迎しよう。」
「いえ!父上!」
「御爺様!違います!彼女は友人です。」
「ふん!女が男の屋敷に招かれるというのは、そう言う事だ!
聞けば聖獣様を連れられた聖女だというではないか!
そこらの女より、我が孫の嫁に相応しいわ!!ガッハッハ!」
「違います!お義父様!」
「煩い!女がワシに意見するな!!
ウィーカの面倒を見させてやっているだけ有り難く思うがいい!」
バァンと重厚なドアを思い切り閉めて、噂以上だった御爺様は廊下へと出ていってしまった。
あまりの勢いに、ポカーンとしてしまった私と、怒りを腹の底で煮え滾らせている様子のミィタとファーブをソッと振り返って、ライトブルー家の面々は腹の底からため息をついていた。
その後、落ち着いてソファに座り、紅茶で喉を潤す。
「申し訳ありません。恩人であるエミリア様に対して、父が失礼なことを申しました。」
「…はっ!い、いえ。大丈夫ですわ。」
『放心しておったの…』
「大丈夫ですか?お嬢様。」
心配気に話しかけてくれるファーブに笑顔を返して、こちらも心配気なライトブルー家の面々を安心させるように言葉を継ぐ。
「馬車の旅で少し疲れが出ただけですわ。」
「あぁ、でしたら、部屋に案内させましょう!
我が領には温泉が湧いていてね。疲労回復、お肌艶々等の効能があるんですよ!
我が家では各部屋のバスルームに温泉を引いているので、是非エミリア様も楽しんで下さい!」
「まぁ!素敵ですわ!私、お風呂や温泉など、大好きですの!!」
「親睦旅行での温泉もじっくり楽しまれていましたものね?」
「えぇ!」
「でしたら、お部屋で夕飯までのんびりと温泉三昧を楽しんで下さい!
今夜はウィーカのお披露目と、エミリア様の歓迎会ですわ!」
「まぁ!楽しみです!ありがとうございます!」
そうして、団欒を和やかに辞して、私は夕飯までお薦めの温泉三昧を楽しんだのだった。
「ふぅ~気持ち良かった。」
「それは、ようございました。」
コポコポと軽い音を立てて、紅茶を淹れてくれるファーブに、上気した頬で笑顔を洩らすと、最上級の笑顔で返される。
『ワシも、エミリアと共に入りたかった。』
「それはダメです。」
「らしいのよ。ごめんなさいね?」
ウフフと笑いながら楽しい時を過ごす。
暫くのんびりした後、ファーブに整えてもらって、晩餐用にワインレッドの軽やかな生地の上品なドレスを着て、薄く化粧も施し、綺麗に髪を結い上げてもらう。
「お部屋に戻ったら、もう一度お風呂に入ってさっぱりしてから眠りますわ!」
「承知いたしました。」
そうして、迎えに来てくれた執事に付いて、皆で食堂まで降りた。
「おぉ、婚約者殿!さぁ!こちらに来て!おい!貴様!席を開けんか!ワシの横は聖獣様じゃ!」
ドアが開くと同時に、ジジイ節が炸裂する。
いつの間にか、お客人から婚約者に格上げされていた。
「フフッ。私はこちらでよろしいですわ。」
「ほぉ、奥ゆかしい。女とはこうあるべきじゃな!!」
『ワシの席はエミリアの横じゃ!ジジイに決められる筋合いは無いぞ!』
上機嫌な爺に、他の面々は皆苦笑しか漏れない。
ミィタは軽く爺を無視して、私の横の席に付いた。
ファーブは、ライトブルー家の給仕と共に動きまわっている。
さぁ、食事を始めようかといった時に、執事が爺の耳元に何かを囁いた。
「ん?今来たのか?子倅が?まぁいい。晩餐に招いてやれ。
今宵は、我が家の二人目の男孫の披露目じゃからな。」
先にワインをカパカパ開けていた爺は、割と上機嫌で、誰かを通すように指示する。
すぐに、食堂の扉が開いて、現れたのは、プレゼントを持って相変わらず胡散臭い笑顔を浮かべたリョーマ・ブルーラングだった。
私の顔には素直な感想が表れる。
「げ…」
「本日は、弟君の御誕生おめでとうございます。
これは、御爺様に。
我が領で取れた今年最良のブドウから作られた最高品質のワインです。」
「ほぉ!ブルーラングの子倅も、こんな粋な計らいが出来るようになったか!
なぁ!ウィリアムも、やっと嫁を連れて帰ってきおったし、ウィーカは元気に育っておるし!めでたい事だらけじゃな!」
「お父様!!」
「お義父様!?」
「御爺様!」
『ふむ。老害じゃな。』
「フフッ。ミィタったら。」
「お嬢様…」
爺は耳が遠いのか、酔いが回っているのか、ミィタの嫌味に何の反応も示さない。
場がカオスになりかけた所で、給仕たちがそそくさと、食事をサーブし始める。




