分からんことは聞くに限る!
カチャッと軽い音を立てて、ドアはあっさりと開かれた。
そこには見慣れた応接セットなどが揃っている。
「私の部屋だわ!」
「寮ですね!!」
『おぉ!成功じゃな!』
「凄いですわ!!」
皆に褒められて、鼻高々な私は、皆と共に中に入り、ドアが元に戻るように念じる。
フッと扉から光が消えた気がして、開けてみると見慣れた寮の廊下だった。
「成功ですわ!!」
「「『おぉ!!!』」」
「さっさと、レッドハーツ先輩を捜して、真相を聞き出しますわよ!!」
「「『おう!!』」」
手分けして、寮の部屋から出ていくミィタとファーブ。
私はともかく、普通のお嬢様であるルーナ様はきっと走れないし、知らない場所で彼女が迷えば更に面倒な事になるため、彼女は私とこの部屋でお留守番だ。
「あの、エミリア様?」
「はい?」
「図々しいと思われても仕方ないとは思うのですが・・・」
「いえ、大丈夫ですわ?何でもおっしゃって?」
「えぇ、連絡鳥を使われては…?と思ったのですが・・・」
「…は!!」
しまったぁ!!その手があったぁ!!
「ミィタ!ファーブ!集合!!」
「はっ!!」
『何じゃ!敵か!?』
思い立って、すぐに、二人を呼ぶために立ちあがって声を張り上げる。
すると、一瞬も間を置かずに、二人の声が室内から聞こえ、ドアの前にミィタが、窓辺にファーブが立っていた。
「連絡鳥を出せばいいのですわ!!」
「『あ!!』」
そうして、私達は、連絡鳥に、今すぐに連絡を取りたい旨を書いた手紙を括りつけ、放ったのだった。
連絡鳥が戻ってきたのは、そのすぐ後。
「こんなに簡単に連絡が取れましたのね…」
「『はぁ…』」
二人のため息を聞き流し、返事を読むとちょうどカフェテリアに居るとの事。
「行きますわよ!」
「はい!!」
そうして、私達はレッドハーツ先輩に会うために、カフェテリアに向かったのだった。
カフェテリアでは、レッドハーツ先輩ブルーラング先輩の生徒会メンバーを始め、王太子殿下とグリーン君、ファル、プラスで何故かリリアーナが同じ席について、お茶をしていた。
「ごきげんよう皆様。申し訳ありませんが、少しお邪魔してよろしいかしら?」
「おっ!お嬢様っ!?やった!やっとフラグ回収~!
ってあれ?今だとレッドハーツ先輩の・・・?でも、婚約者は川で溺死したはず・・・?
嘘!また!?って後ろの女って・・・イヤイヤ、まだわかんないわよね・・・?
よし!
何ですか!?私の何が気に入らないのですか!?」
ブツブツと独り言を呟いていたリリーに一瞬気を取られて、皆でキョトンと眺めてしまっていた。
リリーの横に座っていたグリーン君なんて青ざめて少し椅子を離している。
反対隣りのファルは慣れているのか、聞こえないかのようにお茶を飲んでいる。
「いえ。今日は、御用があるのは、こちらのルーナ様ですわ。」
「ルーナ!!?なぜここに!?」
「ぅうわぁぁぁぁあん!!」
ハッと自分を取り戻し、ルーナ様の存在に驚いた表情のレッドハーツ先輩が立ち上がるのと、彼の顔を見て、感極まったルーナ嬢が泣きだすのがほぼ同時だった。
オロオロしたレッドハーツ先輩が椅子を蹴倒して、ガッターンと大きな音が立ち、驚いた王太子殿下の護衛が、駆けつけてきて、現場は結構なカオス状態だ。
「まぁまぁ…皆様、落ち着きになって…?」
冷や汗を背に伝わせながら、ソッと涙を流すルーナ様の背を撫でる。
「お嬢様!何をなさったのですか!?」
「え゛?」
「ルーナ様に何をなさったのですか!と聞いているのです!!」
視線が私に集中する。
イヤイヤイヤイヤ!誤解!ちょっとお前もう黙ってろよ!
現世では、到底口に出せない怒りを飲み込んで、ホウッとため息をつき、リリーは無視して、ソッとルーナ様の背を押す。
ルーナ様は私を見て、うんっと一つ頷くと、キッとレッドハーツ先輩を見据えて、口を開いた。
「フォード様?私、昨夜、父から婚約破棄の申し出があったとお聞きしました。」
「…え?え゛!?破棄!?」
「いった…一体、な、何故!?とお聞きしてもぉぉぉぉ!!よろしぃですかぁぁぁ!!」
悪い事をしたおっさんの泣き叫ぶ記者会見は鳥肌が立ったが、可愛いお嬢さんの堪え切れない涙には一生懸命さが滲んで、ついもらい泣きでもしてしまいそうだ。
滂沱の涙を流しながら、叫ぶようにレッドハーツ先輩に声をかけるルーナ様はとても可愛らしい。
一緒になって、レッドハーツ先輩を見ると、オロオロとただうろたえている先輩が居た。
「そんな!婚約破棄だと…?俺は知らない!俺は…今でも、ルーナを愛している!」
「っは!そんな!」
真っ赤になって照れているルーナ様を見て、自分が大勢の面前で何を言ったのか気が付いたのか、レッドハーツ先輩も真っ赤になる。
約一名を除いて、私達もニヨニヨと良い笑顔に顔が緩んでいるだろう。
その約一名が、もう黙ってりゃいいのに、ホワッと温かい空気をぶち破って、発言する。
「それって、お嬢様が後釜に収まろうとなさったって事ですか!?」
「え!?私!?イヤイヤ。ナイですわ。」
思わず、ツルっと本音が出てしまい、慌てて、お嬢様言葉で言い直す。
「私も、ついさっき初めてルーナ様から聞いたのですわ。」
「お前は!いい加減にしろ!ファル!そいつに轡でも噛ませておけ!」
「…はい。」
激怒したファーブの言うことに、素直に従う呆れた表情のファル。
轡を噛ませても、フゴフゴと煩いリリアーナを置いておき、私達は話を続ける。
ファルは、丁寧に轡を噛ませた後に、両手両足も流れるような動作で縛っておいてくれた。
その間に落ち着いたのか、レッドハーツ先輩がいつもの口調を取り戻した。
「俺も、早速父に確認してみよう。」
そう言うと、とっとと連絡鳥を呼び出し、レッドハーツ公爵に手紙を送る。
返事を待つ間、大分落ち着いたルーナ様と私も交えて、お茶会の続きをする事になった。
リリーは、背後に立つ殿下の護衛の足元で、芋虫になってフゴフゴ何かを言っている。
「では皆様、特に必要もないのに、リリーに集められてお茶会を開いてらっしゃったと…?」
「えぇ。僕達も、特に用事は無いと言ってしまった手前、断る事も出来ずにズルズルと…
でも、何か、相談があると聞いていたのに、彼女は楽しそうに話すだけで、相談らしい事を受ける事も無くてね。
どうしたものかと考えていた時に、エミリア嬢からの手紙が来て、こうなった訳なんだけど…
ところで、普段レッドハーツ領に居るハズのフォードの婚約者殿と、モルちゃんは一体どこで出会ったんだい?」
ギックゥっと固まる。
相変わらず、柔らかな笑顔で鋭い突っ込みですね…ブルーラング先輩。
「まぁ…あー」
何にも考えてなくて、私の頭が真っ白になっている間に、親切にも手助けをするようにルーナ様が変わりに質問に答えてくださる。
しかし、私は忘れていた。
彼女はとっても素直で、私以上に腹芸が苦手であるという事を…。
「彼女は、私が思いつめて夜中に屋敷を抜けだして、お化けに驚き、気を失って川を流れている所を掬っていただいたのです!」
「あぁ~…」
「あら?エミリア様?どうかなさいまして・・・?」
「え?いいえ?なんでもございませんわ。」
クスクスとブルーラング先輩に笑われて、ルーナ様にはキラキラと、尊敬するような眼差しで眺められると、居た堪れない。
「どうして、長期の休みでも無いただの週末に、そんなに遠くにいたんですか?エミリア様?」
無邪気に尋ねるグリーン君の無垢な瞳に、ウグッと空気を飲み込む。
「彼女は、ギルドの依頼をこなされていたのですわ!
何と!彼女は、Dランクでスタートして、一晩でCランクに上がられたのですわ!!」
私の功績を、心底嬉しそうに話す、ルーナ様の口を心底塞ぎたい。
「へぇ?
公爵令嬢程の実力と実家の持ち主が、ギルドに登録するなんて、とても珍しいね!
あぁ、ヴァイオレット先生に教えてもらったのかな?」
「うっ…はぃ。そうですわ…」
面白いものを見つけた時の、ブルーラング先輩は苦手だ。
のらりくらりと返答をかわそうと試みる。




