拾い者の真実
「ひゃぁあぁ!!」
「んあ?」
『うるさいの…』
「お目覚めでございますか?皆様」
夕方の、柔らかなオレンジの光が、カーテンに遮られて、温かい色合いながらも薄暗い部屋の中。
魔法で調整された完璧な温度と湿度管理の元、気持ちの良い眠りから叩き起こされた一人と一匹。
ベッドに座りシーツを抱き込んだ少女と、少女の声で目が覚め、ぼんやりと腹の上のミィタを転がり落して座った私と、その転がったままの大?木?の字で文句を言うミィタ。
そして、ベッドの脇で、椅子に座り、ゆったりと読書をしていたらしいファーブに、目覚めの挨拶と共に、一杯の紅茶を提供され、ユルユルと意識が戻ってきた。
少女の顔を見ると案の定、昨夜は瞼に固く閉ざされ見えなかった瞳は、ピンクブラウンで、儚げな美少女であるにもかかわらず、その瞳に映る光の強さが、意志の強さを露わしているようだ。
「な、なな、あ、貴方達はどなたですの!?ここはどこですの!?」
「え~っと、私、エミリア・ヴァイオレットと申しますわ。
ここは、レッドハーツ領のルビーのハート亭の私が借りた部屋ですわ?
貴女は、昨夜、ジン村でギルドの依頼を遂行していた私達の前に、川上からどんぶらこっこと流れてきたのです。
私の方が、事情を聴かせていただきたい程ですの。」
「…っは!それは!!大変失礼いたしました!私、フェルシュ辺境伯が長女、ルーナと申します!
そうです!私、突然の婚約破棄に納得できなくて、一目フォード様にお会いして理由を聞こうと、こっそりお屋敷を抜けだしたのですが、馬車で30分程だからすぐに着くと思っていたら思いの外遠くて…橋の上まで来たところで、遠くの山にユラユラ揺れる青白い光が無数に見えて…怖くて…気を失ったような…?」
アホやーーー!!!ここに、アホがおるーーーー!!!
ルーナ嬢の発言に、顎が外れんばかりに驚いたが、声を出さなかった私偉い!!
なぜ!一人で!しかも、夜中に!夜着で!?
多分その青白い光は、ジンの村人総出で採っていた光茸だ!
魔物は怖くないのに、お化けは怖いの!?
似たようなもんってか、実害がある分、魔物の方が厄介だろうよ!
この子おもしろい!気に入った!!
「橋には衛兵はおりませんの?」
「ここの橋は、魔の森の中にありますので、滅多に行き来する者はおりませんの。
私は生まれた時から、この森は庭のような物でしたので、普段から護衛も無くウロウロしておりますの。
私、光の加護のお守りを持っておりますので、魔物も寄ってまいりませんし。」
「ジン村もフェルシュ辺境伯領なので、あの村と橋でつながった先がフェルシュ辺境伯の邸宅ですね。」
地図を見ながら、ファーブが補足してくれる。
「あら、なら…まぁ、確かにそれ程ここから遠くは無いですけれど…」
「突然の質問で失礼いたしますが、ルーナ様?朝まで待たれるという選択肢は…?」
ファーブが御尤もな質問をする。
流石ファーブ。いつも冷静。
「ありえませんわ!昨日、お父様から婚約破棄の話をお聞きしまして、もう居ても立ってもいられず…ですわ!」
イノシシか!!
「で、そのフォード様とは・・・?」
「はいっ!私の婚約者であらせられます、フォード・レッドハーツ様ですわ!
レッドハーツ領の次期領主様ですの!」
おぉっと!
意外や意外!
あの、やんちゃ坊主な印象の濃いレッドハーツ先輩の婚約者様がこんなに可憐な美女だとは…
しかし…レッドハーツ先輩は、今学園に居るんじゃないかな…?
こんな、週末二日の強行軍で、ギルドの依頼をこなす為だけに、こんな遠い所まで来ているもの好きなんて私位だろうし。
まぁ、まず普通の人には、移動手段が無いよね~って事を、うっすーいオブラートに包んでルーナ様にお話しする。
今度は、ルーナ様が顎を外さんばかりに驚愕の表情をしている。
「…では、どういう事ですの?私は、どなたの思惑で、婚約破棄をされるのでしょうか?」
「さ、さぁ?」
知るか~い!
どうしよう?でも彼女は引かなそうだし…
「お嬢様、これを…」
ファーブがソッと差し出してきたのは、今さっきまでファーブが読んでいた本。
ハードカバーの分厚いソレは、ファーブの事だから、恋愛小説等の類ではないとは思っていたが、まさかの魔法書だった。
ファーブ、魔法使えないんじゃないの?学園に通って無かったじゃん…?
とか思ったが、確かお兄様が、「コップ一杯水溜めるのに半日かかる奴は、学園に通う方が恥ずかしい」とか言ってたから、ファーブもその口なのかな?
一瞬、色々考えたが、気を取り直してファーブの指さす本のページを見る。
「空間魔法による、移動手段…?」
空間魔法?あぁ、確か光魔法の一種で、空間を4次元として捉えることで、まぁ要は、青い猫型ロボットの便利ポケットのような事が出来る…とな?
便利だなぁ~魔法。
あ、そう言えば、私のカバンにも空間魔法で拡張かけたっけ。
遠い眼をして、穏やかに本を眺めている私に、ファーブが声をかける。
「私には、理論そのものの意味が分かりませんが、お嬢様ならもしかして、と思いまして…」
「そうね。多分、出来るわ。」
そう。
私は、前世で、青い猫型ロボを見て育った口!
きっとイメージは出来る。
って事は、私は時間移動もできるんじゃないの!?
したいとも思わないけど!!
その時、背後から、私の読んでいたページを盗み見ていたルーナ様から、衝撃の一言が耳に入った。
「この魔法、この国でも、極一部の王都の超天才と呼ばれる方の中でも、一握りの人しか使えない魔法なのでは…?」
マジで!?え?何?何で、ファーブは私にできる?とか聞いた?
しかも、出来るって言っちゃったし。
まぁ、こ難しい事を考えていても仕方が無い!!
面倒くさい!
「いざ!行きますわよ!王都のラング学園へ!」
「『おぉーー!!』」
「その前に、皆様身支度をよろしくお願いいたしますね?」
すかさず、ファーブからの冷静な突っ込みが入ったので、私達は一旦落ち着いて、お着替えする事になった。
私は、一人で簡単なドレスなら着られる。
しかし、ルーナ嬢が夜着だったのは、お着替えが一人で出来ないから、という切実な理由があったらしい。
健気というか、豪胆というか…
部屋から、男性陣を追い出し、私のドレスからシンプルな色合いの物を貸し出す。
ルーナ様の着付けを手伝い、ファーブに髪を整えてもらって、準備は完了した。
「何もかもすみません。ありがとうございます。
いずれ、何かの形でお返しさせていただきたいです。」
「あら、お気になさらないで。これからも親しくして頂けたら嬉しいですわ。」
「それは勿論!こちらからお願いしたいです!」
素直な彼女とおしゃべりしながら、お支払いをしているファーブを待つ。
どうやら、彼女は16歳で、私より2歳年上だがフォード先輩とは4歳からの許嫁で、今まではとても仲良くしていたらしい。
なので、突然の婚約破棄に全く納得いかないのだとか。
「お待たせいたしました。」
「では、改めて、参りますわよ!」
「『おぉーー!!』」
「空間の穴、私のラング学園の寮の部屋の扉、繋がる…扉?」
宿屋の横の細い道に入り、壁に向かって両手を翳す。
両目を閉じて、妄想力。どんなイメージにしようか悩み、とりあえず、出たい場所を考える。
何となく、青いロボ猫がよく出す、ピンクの扉が思考を過った。
「あ…」
見ると、宿屋の壁に、今までなかった扉が一つ。
「この扉…見た事ありますわ…」
「お嬢様の寮の部屋の扉ですね…」
『開けてみるか…?』
ファーブが、流線型に綺麗なカーブを描く取っ手を、恐る恐る引く。
コレで、壁だったら大笑いね。ドアだけが空間を移動してきたって事ですものね~。
なんて、現実逃避をしながら、ファーブの背後からソッと中を覗く。




