温泉女子会
こんなに綺麗な夜空なのに、女生徒達は、他の人と同じ湯船に浸かるなど信じられないとばかりに、こちらも豪勢な部屋風呂に入って過ごすらしい。
「ふぅ~~最高ですわぁ~!!」
今日は、湖で泥だらけになり、牧場では砂まみれになった。
今頃、ミィタもファーブに温泉に入れられて、艶々のピカピカになっているに違いない。
一人で広々した温泉に浸かり、湯気の隙間から見える星空をのんびりと眺める。
星が手に届きそうな程近くに感じる。
白銀と金と紫の髪を、丁寧に洗った後でオイルを塗って紐で纏め上げ、タオルでおでこから首元をグルッとまとめて落ちてくる雫を額で止める。
お湯の中で腕を伸ばし、指でツーっと触ると、スベスベツルツルの感触が嬉しい。
声を出さずに笑って、鼻の下までお湯に浸かる。
「ほぉー…誰もいない。」
ん?誰か入ってきた。
ソッと入口あたりを眺めるが、逆光で人の影しか見えない。
まぁ、この世では裸を見るのは親か結婚相手か侍女、または侍従のみだから…
あら?結構見られてるな…
まぁ、見られるのが嫌な人の裸を、わざわざ見に行く趣味は無い。
ただ、さっきの声。
どっかで聞いたことがあるような…?
ザバッとすぐ後ろから足音が聞こえた。
「あ!!」
「へ?」
見上げると、前をタオルで押さえたライトブルー先輩が愕然とした表情で私を見ていた。
あ~そうだ…
女性にしては低くて、男性にしては高い声…
茫然としていた為、不躾な視線で彼女を眺める。
細い首、窪んだ鎖骨、慎ましやかだが確かにある女性らしい胸、細いくびれに、なだらかなお尻。
凹凸は少ないが、繊細で女性らしいフォルムの体はどう見ても女性のソレだ。
「エミリア様…」
「ライトブルー先輩…?」
それ以上何も言えずに、黙って横にずれる。
私が座っていた所は、ちょうどいい感じに大きな岩があり、座りやすくなっている。
先輩も黙って、私の横に座った。
「えと…あ…と…」
「大丈夫ですわ、先輩。
私、ライトブルー公爵にお会いした時から薄々違和感は感じておりましたので。」
「父と会われた事が…?」
「はい。父が唯一私に会わせてくださった公爵家の方ですわ。」
「父は…何を、と聞いても…?」
「えぇ。私が領のお祭りなどで、売っているお守りの事は御存知でしょうか?」
「あぁ、はい。御利益というか、光魔法で素晴らしい効果を発揮すると噂の。
売りだされても、瞬時に無くなってしまう程のレア度だとか…?」
「えぇ、有り難い事です。
ライトブルー公爵は、時期は外れておりましたが、そのお守りを買いに来られたのです。」
「何の、お守りですか…?」
「子宝祈願でした。しかも男児の。
子宝、健康、安産、のお守りをご購入いただきました。
その時は不思議に思いましたの。
こんなに御立派な御子息様が居られるのに、今更弟様を望まれる理由を。
不躾で申し訳なかったのですが、理由をお聞きしましたの。
そうしたら…」
「そうしたら?」
「ライトブルー公爵は、上の子に想う方と添い遂げてもらえるように、とおっしゃいました。詳しくはお聞きしませんでしたが、私はてっきり、身分差がおありになるのか…と。」
「ハハッ。父も考えてくれていたんですか。昔話を聞いていただいても…?」
「えぇ。私が聞いてよろしいのであれば。」
「昔から、母は病弱な人でした。
私が生まれた時、母は4日苦しみ、一時は命の危険もあったといいます。
そして、生まれたのが私で。
母は、産後の肥立ちも悪く、私が物心つく位まで床に伏せっていました。
そんな事があったので、二人目を望む事もほぼ諦めておりました。
父は私を女公爵として育てようとしてくれたのですが、父の父、前ライトブルー公爵である祖父は、女が上に立つのを良しとしませんでした。
気の弱い父は、祖父に対抗する事が出来ませんでした。
そこで、私は、男として育てられる事になったのです。」
「まぁ…」
「えぇ。以前までは平気だったのですが…」
「あら?恋のお話ですか…?」
「そ…!」
火照りだけではない、ボッと火が出そうな程真っ赤になって、シオシオと沈んでいくライトブルー先輩を見て、当たりだと気が付いた。
「あらあら。どちら様ですの?」
「恥ずかしいです。」
「まぁ、良いではございませんか!初女子トークですわ!!」
「女子…!あの…」
女子という単語が何か彼女の琴線に触れたのか、途端に嬉しそうに話し出す先輩。
可愛らしいその姿に、ニコニコと話を聞く。
「実は…」
「実は…?」
「り…リョーマ…です。」
「…はっ!」
思わず息を飲む。
まさかの!
ここで出てきた、私の天敵!!
「何か繋がりが…?」
「えぇ。私とリョーマは幼馴染です…
領地が隣同士で、家同士も割と近い所にあり、大昔、まだ国だった頃から両国は割と仲が良かったみたいで、御爺様もリョーマとなら遊んでいても怒られなかったんです。
それがいつからか、逞しく成長した彼の姿にとてもときめく様になってしまって…」
「おぉ~素敵です!」
「ありがとうございます。
彼は魔法の才能を開花させてドンドン夢を叶えていくのに…
私は、いつまでも秘密を抱えて、動けなくて…苦しくて…もう…」
「あら?では、御存知ないのですか?」
「え?」
「最近領地に帰られたのは…?」
「最近は御爺様が領地に戻られたので、帰ると居場所が無くて、ここ2年程帰っていませんが…?私は何を知らないのでしょう?」
「ライトブルー公爵夫人が御懐妊されて、もうそろそろ産み月だったはずですわ?」
「えぇ!?」
「もしかすると、言葉は悪いですが、糠喜びになるかもしれないので、知らせ辛かったのかもしれませんわ?」
「でも…!」
「大丈夫ですわ。自画自賛ですが、私のお守りは効きますのよ?」
フフッと笑って見せて、安心させるようにウインクする。
私の顔を見て、ボボンっともっと赤くなったライトブルー先輩を見て、余計に面白くなる。
「わ…私はもう上がります。逆上せて、何にも考えられなくて…」
「えぇ。今夜はもう何も考えずに、ゆっくり眠ったほうがいいですわ。
あぁ!そうです!」
「?」
ジャバッと立ち上がったライトブルー先輩を見ると、彼女もこちらを振り向いて私の言葉を待ってくれる。
「本当のお名前を教えてくださいませんか?」
「…!!本当のっ…名前、は…ウィリシュと申します…」
「分かりましたわ、ウィリシュ様。また、私でよろしければ、女子トークしてくださいますか…?」
「…!!ええ!!勿論です!!」
涙をたっぷりと瞳に湛えた彼女は、ものすごく綺麗な笑顔を残して、脱衣場に入って行った。
私はまた、一人でのんびりと、よりクリアになった綺麗な星空を見上げたのだった。
こうして、私の親睦旅行は穏やかに過ぎていった。
彼女が、女性として学園に通うようになれるまで、まだもう少し…。
次回、次章始まります!




