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兄はおもろい人だった

フゴフゴと抗議していたけれど、相手が聞く耳を持たなそうだったので、諦めて昼寝でもしようかと考えた。


あ~しっかし安定してるよね…

普通、こんなに雑に運ばれたら、揺れて舌でも噛むだろうに、まるで魔法の様に…


魔法???


そこまで思い至って、ようやっと、魔力の流れを見てみる事にした。

実は私、得意も不得意も無い、超バランス型の魔力がある。

普通の人は、大抵得意な…と言うか、特化型の傾向があるらしい。


炎タイプや、水タイプと言った感じかしら…?

あら?それはポケットに入ると噂のモンスター??


淑女教育ではそこまで魔法は必要無いからと、色々な諸々をすっ飛ばされた感は否めない。


まぁ、一応基本として魔力タイプを測定した時に、普通の人なら、レーダーグラフに表すと、どっかしらが突出して、どっかしらが凹んでる、歪な傘を上から見た図の様になるらしいが、私の測定結果は綺麗な、円形、アンブレラ型だったのだ。

つまり、器用貧乏?って事?

でもそれなりに役立つ器用貧乏。

バランスの良い傘もおっきければパラソルだからね!!

火、水、土、風、金、光、闇の分野全てを使えると、とても便利だった。

家では、夏は涼しく、冬暖かく、花粉の季節は風向きを操り、燃えないゴミは簡単分別。

最後関係無かったな。


一応、魔力最大値も全てMAXだったから、一通り全ての魔法が最大まで使える…ハズ。

使う機会が無くて、一通り教えてくれたのも淑女教育に特化したマリア先生だったので、何かフワッとしたイメージだけで何となく魔法を使っている。


あらあら?身体強化と…風が私を避けてる?あぁ!だから、このスピードでも息がしやすい!!


ポンっと手を打って納得した。

その様子を横目で見た、誘拐犯が盛大に溜息を吐いたのは解せんがな!

そんなこんなで走っている間に(走っているのは男だが…)結構な街外れまできた。


あれ?ここって…


前世の知識を総動員するに、どうやらここはスラムだ!


「ん~?スラムですわね…」

「あぁ、スラムだ。ってお前、何で轡を外した!」

「だって、手が自由なんですもの!」

「しまった!あまりにも大人しく捕まるから、拘束すんの忘れてた…」

「あらあら!うふふふ」

「ウフフじゃねぇよ…ったく。んで、聖女さんから見たらここはどう見える?」

「スラムですわ!!」

「んなこたぁわかってるよ!!」

「あらシンガイ。」

「使い慣れねぇから、片言じゃねぇか…」

「ん~?でも、初めて来たので、どうという感想もまだ持ち合わせてはおりませんわ。しいて言うなら、砂埃が凄いですわね…」

「お前のすっ呆けはホンっとあの二人を思い出すからやめてくれ!折角、逃げたんだ。」


まぁ、突っ込み属性には、家の両親は辛かろう。

頭を抱えて、しゃがみ込んだ誘拐犯さんに少し同情する。

一日中、突っ込みまくらねばならんからな…

セバスの様にとは言わないまでも、せめて、オリビア位は受け流せるようにならないと…


私?私は、完璧です!父にサバ折りされるまでは…

アレの対処法は未だに分からん。


「ん~寂しい街ですわね。ここに何か果物の木でもあったらいいのでは?」

「…何故そう思う?」

「ん~少々お待ち下さい。」


ん~?この辺かなぁ?

枯れない尽きない飽きない、何かの木がここにあれば良いなぁ~?って事を想像してみる。

皆喜ぶ、私も喜ぶ…


妄想だけで、ニヤけてきた頃、地面からボコボコと湯が沸くような音が聞こえてきた。


「~~っ!!おい!何をした!?」

「ん?いや、ほら、ここに木でもあれば景色が華やかになるかなぁ、と思いましたの。」


見ると、私の目の前に、巨大な一本の木があった。


その太い枝がしなる程、枝の先にはリンゴ…


「バナナ?」

「ミカンもレモンも、ポンカンやイチジク、栗にザクロにあれは、ビワか?おいおいまだまだあるじゃねぇか…」

「ん~?全部同じ木に生りましたっけ??」

「お~ま~え~がっ!!やったんだよ!!あ゛~くそ!ここまでするつもりじゃなかったんだがな!」


誘拐犯さんは、苦い顔をしつつガシガシと乱暴な手つきで自分の頭を掻いている。


こんなことって出来るもんなの?

首を傾げてマジマジと木を見上げていると、ヌゥっと視線の下から腕が伸びてきた。


「へ?」

「聖女様!ありがとう!」

「聖女様だぁ!!!」


しまった、遮る物は今私が生やした巨木しかないのに、今まで遠巻きにこちらを窺っていただけのスラム街の住人達が、我先にと、私に詰め寄ってくる。


おおぅふ!想像以上だった…


とりあえず、木を切り倒す者が出ないように、幹に私特製、因果応報の刺繍入りハンカチをとれないように願いながら、しっかりと括りつけておいた。


何と、この刺繍!

私の光魔法が乗っているらしく、文字なら文字に因んだ、絵柄なら絵柄に因んだ加護が与えられるらしい。


長雨が続いて、地滑りが起きた領地を視察、対策するために父が向かう時に、初めて作った交通安全お守りを持たせたら、災害後の領地でどうやってそうスムーズに進めたの?と不思議になる程、スイスイと移動する父の姿が各地で目撃されたらしい。

母も安産祈願のお守りのお陰で、前回までの出産(つまり私を産んだときね)では、二晩苦しんだそうだが、弟の時は2時間ほどでツルンと産んだ。

母大感動していた。


「ミィタ!ファーブ!」

『おう!』

「は!」


押し寄せてくる人並みに飲み込まれそうになり、誘拐犯さんが前に立って庇ってくれていたが、そろそろ押し切られそうだと判断し、助けを求めた。


二人は、とっとと、スラム住人の誰かの頭を踏んづけて、私の前に立ちふさがった。

ファーブに庇われ、ミィタがムクムクと大きくなる。


『静まらんか!!』


空気がびりびり震える程の、怒声が響き渡った。

辺りが静寂に包まれる。

時折吹く風が、砂塵を巻き上げて人々の間を抜けていく。


『この木はここに置いておく。

いいか、皆で、食うなり売るなり好きにするがいい。

ただし、一人占めしようとしたり、この木をめぐって殺し合いなどすれば、この木は枯れ、二度と生えては来ない。

枯れ無ければ、この木は永久にお前らに恵み続けるだろう。』


おぉぉぉぉぉおおおおお!!


シーンと静まり返った中でミィタの演説が終わると、今度は、地響きかと思う程の歓声が聞こえてきた。


「お前らは…そう言う事じゃねぇんだよ。王妃になるなら、魔力じゃなくて頭を使え!!」

「え゛~…王妃になる予定が今の所ございませんので…何とも…」

「はぁ?」


呆れたと全身で表したような態度で、こちらを見る誘拐犯さん。


「だって、面倒ではございませんか・・・私はのんびりと、一日中本でも読んで、美味しいものを食べて暮らせれば満足なのでございます!

ここの方たちにも、お裾分けのような物ですわ。」

「ふっ…はっははははは!我が妹は面白い奴だったみたいだな!気に入ったよ。」

「ありがとうございます。お兄様。私、エミリア・バイオレットですわ!」

「俺は、エルリック・バイオレットだ。学園で困った事があったら、俺ん所に来たらいい。」

「ありがとうございます。」


ニコニコして挨拶を交わす。

よく見ると、さっき、木の幹ほどはありそうだと思った腕なども、魔法で強化していただけだったのか、どちらかと言えばファーブのような細マッチョだった。


「何か、聞きたい事はあるか?」

「では、一つだけ。」

「いいぞ?」

「その顎の傷は…剃刀負けですわよね?」

「……ぁあ。」


ガクゥッと項垂れてしまった、兄を横目に、私は綺麗なガッツポーズを華麗に決めたのだった。





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