学園に向かいます。
「エミリア…道中気をつけてね。」
「はい。お母様もお身体に気を付けてくださいまし。」
「エミリア…お父様…寂しぃよおぉぉッぉぉぉぉ!」
「お父様、私も寂しゅうございます。」
潰されんばかりに抱きしめられて、ファーブとセバスチャンに救出される。
「お姉さま?お出かけでしゅか?」
まだ少し舌足らずなこの子は、あの、魔毒大騒動の後で生まれた、我が家の次男、エルフォート。
紫の瞳に、紫闇色の髪を持つ、女の子と見紛うばかりに可愛らしい男の子で、お父様とお母様と私、ミィタを始め、家中の者に愛されて、すくすくと、ふくふくと育っている。
「お姉さまはこれから、学園へ行ってまいります。
お父様とお母様をよろしくお願いいたしますね?エル?」
「はい!僕が、お父様とお母様をお守りしましゅ!」
「まぁ!頼もしいですわ!!」
弟を撫で繰り回して、キャッキャッと赤ん坊のような笑い声を出して喜ぶ弟に癒される。
「セバスチャン、オリビア、皆…お父様とお母様をよろしくお願いいたします。
行ってまいります。」
「「「お嬢様、行ってらっしゃいませ。」」」
「行ってまいります、父上、母上。」
「うむ。しっかりとお嬢様をお守りしなさい。学園にはあの子も入っている。
再教育を施したとはいえ、あの子は我が家で稀にも見ぬ程の、愚かさだ。
入学辞退を申し出たのだが、魔力の大きさ故に認められなかった。
気をつけるように!」
「はい!」
『うむ。皆も息災でな!』
「お嬢様をよろしくお願いいたします。ミィタ様。」
こうして、皆に見送られて、馬車は一路王都のラング学園へと進みだした。
私は、14歳になった。ファーブは24歳。
ファーブは10代の時の可愛さを残しつつ、男の人らしい逞しさと、しなやかさ、美しさを兼ね備えるようになった。
ミィタは…外見はどうとでも変えられる彼の事。私の希望で常に子猫ですが何か?
そうそう。
アレから、リリアーナとファルは、イェローラング領での強制労働と言う名の罰を受けていたらしい。
8歳から14歳まで…
さぞ逞しくなられているでしょう。
あれから、定期的に花農家のおっちゃんとおばちゃんに美味しいもんを贈りつつ、二人の近況を報告してもらっていた。
最初は、しおらしく愛想よく粛々と、しかし悲しみを前面に出して健気にがんばってますよというのを、イェローラング家のつけた見張役に見せていたらしい。
領民にはなかなか近寄らなかったリリーは、暫くは、領民たちに遠巻きにされていた。
しかし、ある日、領内に魔イノシシが出て、あわや畑が!!って時に、リリーの守護の魔力が覚醒したらしい。
まぁ、ミィタ曰く、今までも魔力の大きさ故に、ダダ漏れだった守護の魔力のふたが飛んで行ってしまった状態とのことだが。
使用できる魔力量は私の方が多いが、どうやら、本人も気がつかない埋蔵魔力量としてはリリアーナに軍配が上がるらしい。
その後、花の守りもリリーのお陰で強化され、領内の小さな小屋で軟禁状態ながら、ファルとさながら夫婦の様に暮らしているらしい、というのは聞いていた。
領民も少しずつお裾分けをしたりと、交流を持とうと手を差し伸べていたらしいが、何故か頑なに距離を置きたがるその姿に領民たちも次第に、守護の力を持つ花農家のお手伝いさん的な扱いで落ち着いたらしい。
護衛も、その他の領民達も何があったかは知らないが、人と顔を合わせるのも申し訳ないと思っているのか…と、思っていたらしい。
まぁ、危害を加えられるでもなく、暴れるでもなく、淡々と仕事をして、守りは強化されるなら、農民たちも否やは無かったらしいので、まぁ良かったのかしら…?
でも、この国の法では魔力を持つ者は、14歳から強制的にラング学園に入れられる。
リリー程の強い魔力をもつ者は、もちろん強制的に。
ファルも、もともと強い氷の魔力を持っていたらしく、そちらもやはり入学するらしい。
最初から、母の風呂に関しては、「お遣いで頼まれた奥様の入浴剤ををお入れしただけ」と言い張って、私の紅茶に関しては「そのような事実はない」と口を閉ざし、ラング花に関しては「自家の特産品を私に見せたら喜ばれるかもと思い立って取り寄せようとした」と話して、オリビアを泣かせていたリリーだが、態度だけを見れば、反省しているのではないかと、見張からの報告にはあったらしい。…が。
また、何か思う所があって私に突っかかって来るんではなかろうか…?
『ワシが守ってやるぞ?』
「私も、誠心誠意お守りいたします。」
「ふふっ。ありがとうございます。頼りにしておりますわね。」
ガタン!
馬車が突然止まる。
まだバイオレット領内を出たばかりの所で、今夜泊まる宿までもまだ遠い。
バイオレット領から、王都まで単騎で急ぎで駆ければ、丸一日で着かない事もない。
だが、別に急ぐ旅でも無いし、うどん屋の成功もあって旅費にも余裕がある今回は、ゆっくり色々巡りながら、ちょっと遠回りをしつつ、3日かけてゆっくり旅路を楽しむ事になっていた。
「様子を見てまいります。」
『待て、どうやら、騎士の様だが?』
「騎士様ですか?」
「騎士…脳筋の愚兄か…?」
「あ!イェローラングのご長男様は、騎士団の副団長様でございましたね。」
そんな話をした直後、ダンダン!と馬車を凄い握力で、叩き壊さんばかりにノックされた。
「バイオレット公爵令嬢の馬車だとお見受けする。
私、王立騎士団副団長のファータジオ・イェローラングと申す。
お顔を拝見させて…ブフッ!!」
クリティカルヒットォ~!!
ガツンっとものすごい音を立てて、ドアを思い切り遠慮のえの字も無く開くファーブ。
無言で顔面を抑え下がって行く、イェローラング家の長男。
一瞬しか見えなかったが、色合いは似ていたように思う。
『良い音が鳴ったの…』
「愚兄がもうしわけありません。」
『なに、面白い兄ではないか!嫌いではないぞ?』
ニヤニヤと金の瞳を三日月にする、紫の美しい子猫。
何とも言えず茫然と、テンポのいい会話を聞いていると、イェローラングの長兄の後ろから、ガチッと高身長でオレンジの髪に厳つい体格のオレンジ色の瞳で目付きの鋭い男前が、騎士団の制服をキチッと着こなして出てきて綺麗な礼を取った。
騎士団で、オレンジ頭…
あー聞かなくても分かる~。誰にも聞かなくっても、だいたい分かったぁ~!
私だって、マリア先生の厳しい授業を無意味にこなしていた訳じゃない!
この王国の7大公爵家くらい学んでいる。
「オランジ王立騎士団長様でいらっしゃいますか?」
「はい。ジェームス・オランジと申します。
この度は、バイオレット公爵領の聖女様と、聖獣様をお守りするために、王都までの道程をご一緒させていただこうと思います。」
「え?っと…私には、信頼できる護衛兼従者のファーブと、聖獣であるミィタがおります。
頼れる半身である彼らが付いて下さっているので、御心配は無用ですわ。」
「いえ、これは、王と王太子直々の命でございます。
きっと、ここで私が聖女様と同行出来なかったら、私の首が飛ぶでしょう。」
脅しだぁ!!しかも、多分、物理的な事言ってるぅ!!
『良いのではないか?エミリア。あまりにも煩いようならば、ワシが巻いてやる。』
「まぁ、頼もしいですわ。」
「私も、不肖ながら手助けさせていただきますので。」
「分かりましたわ。でしたら、護衛よろしくお願いいたします。」
オランジ団長に、礼を取ると、苦笑して頭を撫でられる。
「素直なお嬢さんは好ましいですよ。」
「まぁ、ありがとうございます。」
そうしている間に、一日目の宿泊場に到着した。
「王都まで、あと3日もあるのねぇ。」
『だから、ワシの背に乗ってさっさと王都に行こうと言ったろう?』
「だってぇ…私旅行なんて初めてだから、最初くらい皆で思い出を作ろうと思って。」
『まぁなぁ。ワシも楽しいぞ?』
「えぇ、勿論です。」
「ありがとう、二人とも。」
部屋に通され、落ち着いた後、バイオレット領から辛うじて出た所の、王都の端の宿屋で荷物をファーブに任せ、ゆったりと落ち着いた。
「ねぇ?少し散歩に出ても良いかしら?」
「どちらへ?」
「領を出る前に、今回お泊まりする地域の特産品などを調べてきたのよ~」
『ほぅ?』
「でね?ここは、すぐ近くに金山があって、渡り鳥の夏の逗留地でもあるの!」
「でしたら、アクセサリーのお店と屋台でしょうか?」
「そうなの!さすが、ファーブ!あのね、二人に美味しい焼き鳥を食べてもらいたいの!」
『ほう。それは楽しみだな。』
「あのね、ファーブとミィタと私とで何かお揃いの物も欲しいのよ!」
「お嬢様!!」
『よし、見に行くか!』
そうして、宿から出て気が付いた。
目の前に、ニコニコした表情の軽装に着替えたオレンジ頭と茶色の大男。
焦げ茶色の瞳と髪を持つファータジオは、爽やかな笑顔に白い歯を見せて…
あー…前世でかめはめは出す人のような、スタンド出す人のような体形が二人、目の前に並ぶと、ちょっとビビる。
団長さんの方が少し細身だが、それでも太い首、私の太ももより太そうな腕、私のウエストより太そうな太もも…
もう、大木にしか見えない。
あーいったのは、マンガだから面白いのであって、実際に居るとちょっと怖いわぁ…
ってか、わっすれてたわ~…
「お出かけですか?エスコートさせていただきます。」
ニッコリと笑顔で私の両脇を確保する、団長さんと副団長さん。
「いえ、結構です…」
「そうおっしゃらずに、王都に着くまでは俺らにエスコートさせて下さいよ!」
「お嬢様から離れろ!こんの脳筋!!」
ガツン。
という衝撃音と共に、ファーブの拳が、副団長さんの脳点に突き刺さり、笑顔のまま副団長さんがしゃがんでいく。
少しでも、整合性がとれるようにしてみましたが、大丈夫でしょうか・・・?
足りない点は教えてくださいませ。