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面倒くさがり令嬢の巻き込まれ譚

 一番初めに気が付いたのは、小さなえくぼの付いた真ん丸なちっちゃなお手手。

 プクプクとふくよかしくて、ウニウニと動いている。

 私はそれを見て、“えーお手手じゃん!何々!?すっごい!動いてる!食べちゃいたい!ってか、お口に入れちゃお~!”とか考えて、そして、実際に口に含んだような気がする。

 木で出来た檻のような、フワフワのベビーベッドで、ヨダレまみれになった手が面白くて、触ったり、咥えたり、握ったり…

 そうこうしているうちに、“待って!今、視界がビョンビョン動いてるのって…?あんよじゃん!!ムッチムチのツルッツルのスベッスベの…あんよじゃん!しかも、蹴ると体、動くじゃん!!何これ!最っ高!”とか、足の存在に気がついたりして。

で、なにこれ!?なにこれ!?って、キャッキャ年甲斐もなくハシャイでいたら、超弩級の美人さんに抱っこされたりして…


“あれ?抱っこ?”


“ってか、美人さん男じゃん。”とか、一瞬思ったけど、“何これ!超楽しい!ヒュッてする!ってか、高い!マジでぇ~!?”って、大興奮にすっかり違和感なんか吹っ飛んじゃって!


「おぉ!エミリアは、ご機嫌さんで、いい子でちゅね~!」

“え?マジで!?私、いい子?ん?エミリア?ん~?ま、いっか!”

「きゃぁ!あう~ぶふぅ~きゃっきゃ!」

「うーん!可愛い可愛い、僕のお姫様!

麗しい金髪は、大陸を潤す大河の生み出す希少な宝玉の如く照り輝き、紫の瞳は、魔の山に凛と咲き、魔物すらも愛するという奇跡の宝花のような麗しさ。

あぁ、僕の貧相な語彙力では、エミリアを賞賛するべき言葉が見当たらないよ。」

「旦那様、充分にございます。エミリア様はそろそろお昼寝の時間かと。」

「そうかい?セバスチャン。

昼寝…それは大変だ!あぁ、可愛い僕のお姫様の玉のような肌に、隈なんて似合わないからね!」


 重低音の、素敵な美声で先ほどから惜しみない賞賛の声をかけてくれるのが、どうやら、ここのご主人らしい。

金髪碧眼、長身でガチムチではないスマートな威丈夫。

金髪はキチンと撫でつけ額にひと筋残し、それが、形の良い眉、キリッと切れ長の目、バランスの良い鼻、整った口元が、見事に調和して配置され、黙っていれば、冷たささえ感じてしまいそうな程の美形だ。


“何だろう?こう、私に向ける顔は、なかなかに…こう…ダラシナイ…?

こういう時なんて言ったっけ…?んー?あ!残念だ!”


私が一人で納得していると、ドアからまた一人、今度は美しい紫の光沢のある楚々としたドレスを纏った、超美人がにっこり微笑んで入ってきた。


「旦那様?そろそろ、出立なさいませんと、また陛下にお仕事を増やされましてよ?」

「おぉ?もうそんな刻限か。今日も美しいね。私のローズ。」

「まぁ!ふふっ。」


柔らかく笑った、茶髪紫眼の中背だが出るところは出て、引っ込むところは引っ込む、うらやましい体型の美少女とも言えそうな年齢の美女が、私を旦那様から柔らかく受け取る。

瞳は眦が少し上がり気味のクリっと大きな二重で、鼻は低くもなく高くもないが素晴らしいバランスで、ふっくらと柔らかそうな唇は艶やかな紅色を発している。


「愛しているよ、ローズ。」

「はい。私も愛しております。旦那様。」

「名前では呼んでくれないのかい?」

「あら、はい。クリストファー様。」

「あぁ!仕事など、どうでもいい!」


頭上で繰り広げられる、めくるめくキャッキャウフフの世界から、早々に視線を外して、セバスチャンと呼ばれた壮年の、穏やかな雰囲気のある丸眼鏡のオジサンに“助けてくれよ…”という視線を送ってみる。

セバスチャンは、生温ーく、“もう少しです。こういうのは、タイミングが大事なんです。”と視線で、語り返してきた。

“やるなぁ…セバスチャン…”ならばと私は、この美女は奥様。ローズ様。ちなみに、旦那様はクリストファー様。と、インプット作業に勤しんだ。


やっと、セバスチャンが旦那様を羽交い締めるように奥様から引き剥がし、(ちなみに私は二人の腹の隙間に大人しく収まっていましたよ?)放り出…送り出すべく、引きずっている。

その様子を、茫然と美人の腕の中から見守っていると、どうやってあの羽交い締めから抜け出したのか、ケロッとした表情の旦那様が、今度は私に目線を合わせてきた。


「では、可愛いエミリア。お父様は、お仕事に行ってくるよ。

お母様と二人で、お家でゆっくり過ごしておいてね…お父様を…忘れ、無いでね…」

「だ~あっ!きゃぁぅ!」

「あぁぁ!お父様もさみしいよぉぉぉ!!」

「旦那様、高々、半日でございます。」


後半、滂沱の涙を流しながら、感極まるお父様だったのか…の頬に手を伸ばした所を、その大きな節張った男らしい手に取られ、握りしめられる。

再び長くなりそうになったタイミングで、すかさず今度こそ離すまいと、セバスチャンに確保されるお父様。

ってことは、この美人がお母様…へぇ!


「さぁ、お父様がお仕事をなさっている間、エミリアは私とのんびり過ごしましょうね~。」

「きゃぁ!にぇ~?」

「まぁ!聞きまして?オリビア!エミリアったら、天才かしら!?」

「きゃっきゃぁ!」

「奥様、エミリア様をそんなに興奮させては、お昼寝をして下さらなくなりますわ。」

「あら!大変!お寝んね出来ますか?エミリア?」

「あぃ~きゃぁ!っぷふぅ~。」

「天才…天才だわ。オリビア!」

「奥様、落ち着いて…」


両親ともに、似たような親バカだったらしい。

私を抱えたまま、フラァっと意識を失いそうになるお母様を、メイドさんの恰好をしたオリビアさんという恰幅のいいおばさんがしっかりと支えている。


“お疲れさんです!オリビアさん!”


大喜びする私に、今度はお母様が大賛辞を送ってくれ、私は大満足の中、眠りに就いた。





14時にもう一本上げます。

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