五人目のお客様は尾も白い馬
もののけ通りに面したキャバクラ『One Night Honey』は、毎日変わった客が訪れる。
牛頭の戦士であったり、緑の肌をした少年であったり、足しか見えない巨人であったりとそのバリエーションは様々で、さすがに最初は驚き続けていた麻紀も、その異様さに慣れようとしていた。
こんな風に今日も、変わった客が麻紀の隣に座っていても。
「お飲み物は何になさいますか?」
「あー……とりあえず水割りで。生はねーんだろ?」
「そうですね。生ビールですと、別料金になります」
「んじゃ水割りでいいや」
当たり前のように酒を注文し、腰掛けながらリラックスしている本日のお客様は。
――馬である。
馬頭をした人間だとか、馬の下半身に人間の上半身とかそんなレベルではなく、馬である。真っ白の体毛に、同じく白い尻尾。引き締まった肉体に長い首を経て、面長の顔立ち。強いて普通の馬と違う場所を述べるならば、その額に生えた一本の角だろうか。
白い馬に角が生えている、という妖怪に詳しくない麻紀でも知っている、超有名な存在。
ユニコーン、である。
「お名前は何というんですか?」
「ああ、俺オグリハット。気楽にオグリって呼んでくれていいぜ。嬢ちゃんは?」
「あ、あたしマキです。オグリハット、さんですか? 変わった名前ですね」
麻紀が『One Night Honey』で働き始めて驚いたことは、割と皆名前が普通であることだ。
一反木綿の布太郎。狼男のクリフ。吸血鬼のラッセル。でぇだらぼっちの大作。
それほど変わった名前や長い名前の妖怪はこれまで見たことがない。
そんな中、オグリハットというのは、随分耳慣れない名前である。
「まぁオグリってのは冠名だからな」
「……かんむりめい?」
耳慣れない言葉に、思わず首を傾げる。
名前、苗字、異名、二つ名など色々名前については聞いたことがあるけれど、冠名というのは初耳だ。
「あー……何つーのかな。目立たせる名前っつーか、ほかと区別する名前っつーか……つか、俺の名前聞いたことない?」
「へ?」
「いや、オグリハットって……知らない?」
オグリハット。
全く聞き覚えのないそれに、首を傾げる以外に何もできない。
そんな麻紀の様子に、オグリは長い首を大きく前に傾け、項垂れた。
「……まぁ、聞き覚えないよなぁ。そうだよなぁ」
「あ、あの……ごめんなさい。あたし、あまり妖怪のこと知らないから……」
「いや、いいんだよ……。そうだよなぁ、こんな条件戦以来未勝利の奴なんか、名前知られてなくて当たり前だよなぁ……」
はぁ……と大きく溜息を吐く。
どうやら麻紀が知らないだけで、実はかなり有名なのかもしれない。だとすると、失礼なことをしてしまった。
ユニコーンだということは分かるのだけれど。
「え、えっと、ごめんなさい。あたし、妖怪社会のことって分からなくて」
「ん? お前さん、もののけ通りに住んでるんじゃないのか?」
「いえ、違います。あたしは現世住みです」
店長曰く、もののけ通りとは歩いていけない隣にある世界、だとのことだ。そして麻紀たちが住んでいる世界を現世と呼ぶ。
そんな世界を極めて微量的に繋げる技術を持つのが、店長である。麻紀にその凄さはよく分からないけれど、他の客に聞いてみたところ、とんでもない技術だそうだ。
そんな麻紀の言葉に、やや嬉しそうにオグリは顔を上げる。
「そうか! 現世住みじゃ知らねぇよな!」
「ええと……もののけ通りでは、有名なんですか?」
「割とサイン求められたりするぜ! ほら、俺って白毛だから、デビュー当時から割と注目されてたんだよ」
「へぇー。凄いんですねぇ」
アイドルグループか何かに所属しているのだろうか。
様々な色の馬が五頭くらい、歌いながら踊っているグループとか――想像してみると、物凄くシュールだった。
と、そこで引っかかる、オグリの言葉。
条件戦以来未勝利――どういうことだろう?
「つっても、あんまり成績は残せてないんだよ。最初は連戦連勝だったんだけど、オープンクラスに上がってからは未勝利が続いてるからさ……」
「そうなんですか?」
「ああ。条件戦では一番人気に押されてたんだけど、最近は当て馬にしかならねぇわ」
更に溜息を吐くオグリ。
連戦連勝、ということは何か戦っているのだろう。つまり格闘技だとか。
蹄攻撃からの連携で角の一撃! その後後ろ足での蹴りが入った――! とか架空の実況が聞こえてくる。やっぱり物凄くシュールだった。
ただでさえ妖怪については全く知らないというのに、格闘技についても全く知らないのだから二重苦になってしまう。
「つか、俺さ……もう四歳になるんだわ」
「……はい?」
「いや、だから四歳だっての。もう男盛りだぜ?」
「……はぁ、そう、ですかぁ」
全く分からない言葉に、そう返すしかない。
麻紀からすれば四歳というのは、幼児である。堂々と「俺幼児なんだぜ」宣言をされても、困る以外に何もできない。
「去年なぁ、俺もやっぱクラシック挑みたいから、色々出たんだよ。四月の睦月賞に、五月のダービー、十月の橘花賞、年末の無馬記念……どれも、二着だったんだ」
「……ダービー?」
「ん? ダービーくらい知らねぇ?」
「ああっ!」
そこで、ようやく繋がる。
馬が争う。そこで何故、今まで思い浮かばなかったのか不思議にすら思うのだが。
――競馬だ。
馬と馬が競ってレースを行い、その着順を予想して賭ける、というギャンブルである。残念ながら今まで、ギャンブルについては全くの無縁だった麻紀には、やはり詳しいことは分からない。ギャンブルなんて金を失うだけの行為だと思っている。
命の次にお金が大事な麻紀からすれば、絶対に手を出さないものだ。
だけれどダービー、という言葉には聞き覚えがあった。確か競馬で、かなり高難度のレースだったはず。
ということは、つまり。
このオグリハットは、競走馬なのだ。
「なるほど!」
「……何を納得したんだ?」
「あ! い、いえ、何でもないです。すみません」
「……? ふぅん。まぁいいけど」
ぷはーっ、とオグリが空にしたグラスに、すぐにお代わりを作る。
一体蹄の前足で、どうやって飲んでいるのか不思議だ。かまいたちのように両手で抱えるわけではなく、普通に右前足だけで飲んでいる。何らかの接着剤でもついているのだろうか。
オグリは上機嫌に、さらに話を続ける。
「新馬戦はさ、八馬身差で勝ったんだよ。上がり三ハロンで三十四秒五を記録して、当時は怪物誕生とか言われてたもんだ。特に逃げ馬は最後キツくなってタイムが落ちるってのに、俺の場合は更に上がるんだぜ?」
「……はぁ」
よく分からない。
そもそも上がり三ハロンというのが何なのか全く分からないし、その数字が凄いのかどうかも判断できない。だけれどオグリの言い分からすれば、相当なタイムなのだろう。
「んで、二戦目の条件戦では、道悪で三十五秒二だ。これも七馬身差で圧勝。当然、二歳の冬に、GⅠ挑むだろ?」
「……そう、ですねぇ」
「旭杯二歳ステークスで、当然俺は一番人気。単勝一.一倍だぜ? そりゃもう、誰もが俺が勝つって思ってたさ」
ぐいっ、と一気にお代わりの水割りを煽るオグリ。
若干目を据わらせながら、だけれど真っ白な体毛でその肌は見えない。
空のグラスを麻紀に渡し、そのままお代わりを作るけれど。
「……二着、だったんだ」
「何か、あったんですか? あの、故障とか……」
麻紀も詳しくは知らないが、競走馬というと色々と故障が伴ったりする。
どうしても走ることを生業にしている以上、足元の不安は常につきまとってくるだろう。
だが、オグリは首を振る。
「俺は絶好調だった。完璧だった。馬体も理想体重だったし、直前の追い切りでも完璧だったんだ」
「……なら、どうして」
「化け物がいたんだよ。俺より、そいつの方が速かった……それだけだ」
麻紀が差し出すお代わりを、また一気に煽るオグリ。
そしておもむろに項垂れて、据わったままの目で麻紀を見やり。
小さな声で、言った。
「……ペガサスは、反則だろ」
「へ?」
「あいつ飛ぶんだぜ!? こっちが一生懸命走ってるってのに、あいつ背中の翼ばっさばっさ動かして飛ぶんだぜ!?」
「……はい?」
ペガサス。
それは麻紀でも知っている超有名な幻の生物だ。
確かその特徴は、馬の体の背中に生やした翼。それで空を飛ぶ、というのが伝承だったはずだが。
少なくとも麻紀の知る競馬に、ペガサスは出ていない。
競馬については全く知らないけれど、間違いなくペガサスはいない。
「上空まで一気に飛んで、そこから滑空してくるんだ……どんだけ逃げても、後半はあいつの方が速い。最後尾から一気に抜かれて、二馬身差をつけられて負けた……」
「……そう、なんですか」
「睦月賞の前哨戦での、宵闇賞でも、俺はあいつの二着だった。それでも諦めずに挑んだ三冠レース……全部、俺はあいつの後塵を受けるだけだった」
「……」
どうしよう。
全く共感できない。
というか競馬についてさっぱり分からないため、何を言っていいか分からない。
「あいつは――タマモジュウジは、無敗の三冠馬として俺たちの上に君臨したんだ。そして俺は、挑んだGⅠレースで全てあいつの二着におさまった」
「……そうですか」
「どうすればあいつに勝てるのか、必死に俺も練習した。必死に走って、無馬記念では上がり三ハロンで三十二秒五を記録したほどだ」
「……はぁ」
「でも、無馬記念でも、俺はあいつの二着だった。クビ差で、追いつけなかったんだ。当時、俺が何て呼ばれてたか知ってるか? 『安定の二着』だぜ? こんな屈辱ねぇよっ!」
「……」
やはり勝負の世界に生きている、ということで、二着というのは悔しいのだろう。
オグリの空にしたグラスに、更に酒を注ぐ。
もう半分自棄酒なのだろう。その飲むペースが、更に早まってゆくのが分かった。
「なぁ……俺は、どうすれば勝てる? どうすれば、あいつの背中を見ずにすむ?」
「そう、言われても……」
どうすればいいのか。
そんなものが麻紀に分かるはずもない。そもそも競馬が分からないのだし。
だけれど、何かしら意見をしなければならない空気だ。
例えば……。
「ええと……角で攻撃するとか?」
「直接的な妨害行為はできねぇんだ。そういうのは反則になる」
「飛ばないように、囲むとか……?」
「進路妨害も反則だ。それに、他の馬も協力してくれねぇよ。囲むってことは、そいつらは勝てなくなるんだからな」
「……あー、そっかぁ」
飛ぶにあたって、少なからず助走のようなものが必要ならば、それをさせないようにすればいい。そう思ったのだが、どうやら駄目らしい。
そもそも普通の競馬のルールすら知らないのだから、妖怪競馬のルールなど尚更分かるはずもない。
うーん、と悩む。
「このままじゃ、俺は勝ち鞍なしだ……。そのくせ、二着ばっかりだから賞金ばっか増えやがる……」
「賞金が増えるのって、駄目なんですか?」
「ああ。GⅠならともかく、GⅢなんかに出ようとすると、賞金が邪魔になるんだ。賞金の額に応じてハンデをつけられる。斥量だな」
「へぇー……」
斥量というのはいまいち分からないが、駄目らしい。めんどくさいものだ。
麻紀からすれば、賞金が貰えるならば二着でもいいじゃないか、と思うのだけれど。
「今の俺の戦績は、十二戦二勝だ。二着十回……全部、タマモジュウジの二着だ」
「ええと……その、タマモジュウジっていう馬が出ないレースに出るとか……?」
「そんなもん、あいつに負けを認めるみたいなもんじゃねぇか!」
うわぁ、面倒くさい。
素直にそう思ってしまう。他のレースに出るなど、プライドが許さないのだろう。
もう十分負けていると思うのだが、それでは駄目なのだろうか。
「その……飛ぶのは、反則じゃないんですか?」
「反則じゃねぇから困ってんだよ。もののけ中央競馬場のルールは、『持ちえる全力をもってレースを行う』だ。ペガサスは飛んでもいいし、俺は知らねぇが穴を掘って地中を進むような奴がいれば、それでもいい。だから、最近のGⅠを勝ってんのは大抵ペガサスだ。その中でも、タマモジュウジは頭一つ抜けてるくらいに強いけどな……」
「うーん……」
問題は、どうやって飛んでいる相手に勝つか、だ。
空を飛ぶ、ということは障害物がないということだ。レース中に他の馬が邪魔になることもなければ、小石に躓くようなこともない。雨の後でぬかるんだ地面でも問題ない。
無理だろ、と理性はあっさり判断する。
「その、今は何かレースに出てるんですか?」
「……四月に、小坂杯に。五月に、春の閻魔賞に出た」
「それは……」
「両方とも二着だ。閻魔賞では、ハナ差で差し切られた……」
「うーん……」
そこで、ふと思う。
旭杯二歳ステークスとやらでは、二馬身差。
無馬記念とやらでは、クビ差。
春の閻魔賞とやらでは、ハナ差。
二馬身差というのは確か、馬の体が二つ分、という意味だ。そしてクビ差は、まさに首だけ前に出ている状態。ハナ差というのは、本当に接戦で鼻先だけが先行している状態だ。
つまり、じわじわとオグリが、その差を縮めているのだ。
ということは、何か外的要因が働いたり、オグリに何らかの要素が増えることによって、逆転することができるのではないか。
「……んーと、例えば」
「ん?」
「オグリさんも飛ぶとか?」
「……お前な」
しかしそんな麻紀の提案を、呆れたような声音でオグリが返す。
「俺の背中に翼が見えるか?」
「……いえ」
「当たり前だ。俺はユニコーンだぜ? 飛べるわけがねぇよ」
「そうですか……」
割と飛びそうにない妖怪でも飛んでいるから、もしかするとオグリも飛べるのではないか、と思ったけれど無理らしい。
だが。
「その……飛ぶのではなく、跳ぶことはできるんじゃ?」
「跳ぶ? どういうこった?」
「ただ走るだけより、一歩一歩を大きくするとか。そうすれば、一歩で距離を増やせ……」
「そうかぁーーーっ!」
それはこれまでにないほど、大きい声で。
オグリが立ち上がって、そう叫んでいた。四つ足だけど。
「嬢ちゃん、あんた競馬知ってんのか!?」
「……いえ、全く?」
「だったらどうして、『大跳び』なんて知ってんだよ! 一歩一歩を大きくして、トップスピードを長く保つ走り方だ!」
「……そうなんですか?」
全くの素人が言ったというのに、オグリは異常に興奮していた。
どうやら何かしら、掴む切っ掛けになったのかもしれない。
と、そこで。
「お客様、申し訳ありませんが、お時間五分前になります」
「お? ああ、すまん。そうか、もうそんなに経ったのか」
「延長されますか?」
「いや、いい。今日は帰ってから練習するわ!」
「はい、承知いたしました」
事務的な店長の言葉に、興奮しながらオグリがそう言って。
そして、改めて麻紀へと向き直り。
「ありがとよ、嬢ちゃん! あんたのおかげで、俺は高みに行けそうだ!」
「……はぁ。それは良かったです」
「こりゃ急がねぇと! おい店長! 会計済ませてくれ!」
まるで玩具を与えられた子供のように、嬉しそうにオグリは金を払って。
玄関口まで見送った麻紀へと、大きく右の前足を振りながら。
「あんたなら、いつでも俺の背中に乗せてやるぜ!」
そう言い残して、帰っていった。
よく分からないけれど、悩みが解決したようで良かった。そう胸を撫で下ろす。
次に来てくれたときには、もう少し競馬のことを知っておかなきゃいけない。そう、家に帰ってから勉強することを追加する。
引き続きの指名はないため、そのまま待機席に戻ろうとして。
「良かったですね」
そう、店長に声をかけられた。
「……はい?」
「競走馬のお客様はよく来られるのですが、今日のお客様はマキさんのことが気に入ったみたいですね」
「そうなんですか?」
「ええ」
ふふっ、と店長が微笑む。
先程まで馬を相手にしていたからか、ただでさえ男前な店長がさらにイケメンに見えた。
「ユニコーンの伝承、知りませんか?」
「あ、はい。知らないです」
「ユニコーンは、清らかな乙女でなければ背中に乗せないんですよ」
清らかな乙女。
こんな生業をしている女は、そんな称号とは無縁のはずだが。
それほどまでに、麻紀のことを気に入ってくれたというのか。
「……嬉しいですね」
「でしょう? あのお客様、以前も来られたことが何度かありますが、背中に乗せると言ったのはマキさんが初めてですよ」
「そっかぁ」
良かった、と麻紀も微笑む。
どうやら麻紀の接客が、お気に召したらしい。これからも指名してくれるといいなぁ、と考えていると。
「もしくは」
「はい?」
「マキさんが処女だって見抜いたのかもしれませんねぇ」
……。
店長、一言多い。
後日。
「俺、こないだの高田記念で、ついに一着になったんだ! タマモジュウジが二着だぜ!? ついにあいつに、俺の背中を見せることができたんだ! これで俺もGⅠホースだぜ!」
「わぁ、良かったですねー」
「ああ! これも嬢ちゃんのおかげだぜ! 今日は嬉しいから、ピンドンでも入れてやるかぁ!」
「ありがとうございます!」
上機嫌なオグリハットは、そう言いながらボーイに注文する。
ピンドン――ドンペリニヨン・ロゼはかなり高いため、注文する客などあまりいないのだが、今日はどうやら懐も緩いようだ。この調子で色々注文してくれれば、その注文額の一割は麻紀の懐に入るため、非常にありがたい。来月の給料明細が楽しみである。
もっとも、そんなピンドンをオグリと二人で飲まなければならないため、かなりきついのだが。割とアルコール度数は高いのだ。
結果、一時間でぼったくりピンドンを三本注文し、他にも色々と注文してくれた。結果的に麻紀には飲みきれず、途中から別のキャストを呼んで飲んでもらった。
麻紀のために注文してくれたピンドンを、他のキャストに与えるというのも失礼かと思えたけれど、飲めないのだから仕方ない。
それでもオグリは終始上機嫌で、適度にほろ酔いで帰っていった。
やはり「いつでも俺の背中に乗せてやるぜ!」と言い残して。
そして。
「それじゃマキさん、五番テーブルに無指名のお客様がおりますのでお願いします」
「はーい」
オグリが帰っても、まだ麻紀の仕事は終わりではない。
やや痛くなってきた頭を押さえながら、五番テーブルへ。
「こんばんわ、マキです! よろしくお願いします!」
「……ああ」
そこに座っていたのは、馬だった。
あれおかしいな、さっき見送ったはずなのに。少しだけ酔った頭はなかなか働かないが、改めて見ると明らかに違う。
額にある角の代わりに、その背中に生えた大きな翼。
「……なぁ、聞いてくれよ」
「はい?」
「俺、この前のレースで初めて……負けたんだ」
あ、タマモジュウジだ。
そう思いながら、天を仰ぐ。
これ、無限ループだわ……と。