第七話
「一時的なものだと思われるのですが…」
俺が要の身体に入っている限りは、ずっとです。
何だか可笑しくなってきて、顔がにやけてくる。
俺は身体を横にして肩を震わせた。笑っているのを誤魔化すためだったけど、医者とお袋はそう思わなかったらしく、憐れんだ様子で医者が俺の肩を優しく叩いた。
「大丈夫。すぐ思い出せるさ。君が思いつめる必要はないんだよ」
涙出そう。
お袋の心中を察すると笑い事じゃないんだろうけど、事情を知っている俺にしてみれば滑稽な話だ。
あんたの可愛い息子の中身は、まったくの別人ですって言ったら、どんな顔するんだろう。
まぁ、まず信じないよな。
不謹慎な奴だろうけど、そもそも本物は自分で出て行ったんだから、文句は本人に言って欲しい。
何とか笑いを押さえ、俺は仰向けになって重々しく頷いて見せた。
「お母さんも、無理やり思い出させるようなことは慎んでください」
「はい、分かりました」
ハンカチを持ったまま、お袋がそう言って頷く。
検査がそれから二日ぐらい続いて、退院できたのは一週間後。
もちろん記憶が戻るわけがなく(何てったって中身はこの俺だからね)、通院することとなったが、何とか病院を出ることはできた。
この一週間で俺が知ったことと言えば、要は一人っ子だってこと、親父の仕事は医者だってこと。それから要も医者を目指していること。
気づいたことと言えば、お袋以外誰も見舞いに来ないことかな?
俺は誰もいない時に、青空からもらった地図を眺めた。
自宅から学校の位置、塾の場所など描かれている。
「塾? そんなトコに行ってられるかよ」