第六話
「点滴、いつ終わります?」
「検査が終わる頃には外せると思うわ。朝食は出ないけど、お昼から重湯が出るとおもうから」
「重湯?」
「それかヨーグルトかな? ちょっとわからないけど急に胃に入れたりしちゃダメなのよ。少しずつ元の食事に戻るから我慢してね」
看護士はニッコリと笑って病室を出て行った。
腹が減っているわけではないけど、ダメだと言われると逆らいたくなる性分。
「…でも今、固形物食べたら絶対吐くよな…」
というわけで断念して、重湯で我慢することにした。
何とか喉を通って胃に納まる。
さっきより吐き気は治まってきたから、激しく動かない限りは大丈夫だろうと、素人判断。
壁にかかっていた時計を見ると、もうすぐ八時になるところだった。
どうせ検査はまだだろうから、眠っておこう。
そう思って俺が目を閉じた途端に、ノックの音がして、医者と船迫のお母様が入ってきた。
「要くん!」
仕方なく目を開けると、医者がものすごく慌てた様子で椅子に腰掛けた。
さすがに、さっき会った時より顔色悪い感じかも。
「お父さんの名前は分かるかい?」
俺は無言で返す。
だって青空のやつ何も言わなかったじゃないか。
船迫 要っていう名前以外、ほとんど聞いてないぞ。
「生年月日は?」
高校一年生だったっけ。
「住所は?」
んなもん知るか。
そういえば、青空が置いていった地図があるけど、今ここで開くわけにはいかないしなぁ。
「記憶喪失ですか!?」
ママって呼ばなくてもいいかな…。ガラじゃないんだって。
誰が何と言おうと、お袋だよなぁ。せめてお母さんか…。
兎に角、ここではお袋ということにする。が、そう喚いた。