第五十四話
リフォームはされているとはいっても、あちこちやはり古い部分はあるようで。階段を上ると時々ギギッと音を立てた。
「階段落ちたりしないだろうな」
「大丈夫だよ、そういうところはキチンと確認してもらってるから」
ギギッと音を立てながら二階へと上がると、獅狩たちが飛び出して来たらしい部屋はすぐに分かった。
何しろそこしかドアが開いていないからだ。
三人で静かに近づいてドアを開けると、やはりドアも軋んだ音を立てたが中へ入っても特に何もない。
「幽霊どころか何もいないぞ。この白い布がかかったのって家具か?」
「うん、どの部屋に置くか決まっていないものをここに置いているんだけどね」
獅狩と勇気が驚いたらしきものといえば、倒れている絵ぐらいだろうか?
「これに驚いたかな」
都雅も気づいたようで倒れた絵を壁に立てかけようとした時だった。
その絵の後ろからサッと影が……。
ぎょっとして動きが止まるが、都雅から笑い声が聞こえたので幽霊ではないらしい。
「都雅?」
「ほら、これ」
都雅が両手でそっと持ち上げたものを見せてくれた。
「あ? 何だこれ」
「ハムスター?」
ジャンガリアンハムスターだった。
「あいつら、これに驚いたのかよ」
呆れていると、小さく鳴き声が聞こえた。
「あれ? 鳴いた?」
「ちょっと待って、僕には言葉に聞こえたよ」
流歌が都雅からハムスターを受け取って耳を寄せる。
「ん? え? ……ああ、そうなの? …………なるほど」
ハムスターと会話をする少年。
小学生ならまだしも高校生だから怪しく見える。
うん、まあ。大治郎みたいな仕事をする動物ってことだよな。
何度か頷いていた流歌は、ようやく聞き終わったのか顔を上げて困った顔をした。
「どうした?」
「意気込んで仕事に来たものの普通の猫に追いかけられて、ここに逃げ込んだみたい」
そりゃ、ハムスターが外にでたら襲われるだろうよ。
呆れていると、窓をコツコツと叩く音がして黒い服を来た青年がこちらを覗き込んでいた。
「もしかして死神か?」
「あ、はい。すみません。その子僕の相棒でして……」
その死神の説明によると、大治郎みたいに外で活動するのではなく、家に送り込んで対象を観察もしくは監視する仕事をするのが小動物系の彼ららしい。
「僕が観察対象の家に送るはずだったのに、気づいたらケージからいなくなってて」
勢い余って自分で出てきたらしい。
はた迷惑なやつだなぁ。
「すみません、本当に。あの、渡してもらえますか」
渡すのは構わないが、このままだと獅狩たちがおびえたままになってしまう。
「ちょっとだけ貸してくれないか?」
「え?」
「すぐ返すからさ」
「え? あの、でも」
俺はその後の言葉を聞かずに流歌からハムスターを受け取ると一階へとダッシュした。
「ああああ、返して!」
後ろから声がしたが、今はそれどころじゃない。
ハムスターからも抗議の声が聞こえたような気がしたけど、ここは無視。
一階に戻って獅狩たちがいるところへ行くと、幽霊だと思ったものの正体がハムスターとわかってホッとしたのか、俺の手の中で丸まっているやつの背中を撫で始めた。
「わぁ。可愛い」
「なんだ。ハムスターだったのかぁ」
勇気も覗き込んで撫でたそうにしている。
「このハムスターどこから来たんだろう」
このままだと獅狩が飼うとか言い出しそうだ。
「流歌が心当たりあるから、返してくれるってさ」
言い訳をしておく。
都雅がまだ二階で良かった。獅狩のためなら強奪しかねない。
「そっか、そうだよね。残念だなー。飼い主がいなかったら飼いたかった!」
危なかった。セーフセーフ。
「そ、それじゃ流歌に渡してくるな」
「うん」
「要君」
勇気が困った顔をしながら俺を引き止める。
やべえ、勇気は耳が良いんだった。
「とにかく渡してくるから、話は後でな」
「う、うん」
獅狩には聞こえていないようだった。良かった。
慌てて二階に戻ろうとすると、階段を下りてくる二人と途中で会ったので結局一階に降りる。
流歌は俺からハムスターを受け取ると玄関から外へと出て行った。
まぁ、確かに返すふりをするなら外に出るしかないわけで。
「あのハムスター、牛の背中に乗って来たらしいよ」
「……はぁ?」
「死神がいる界から牛の背に乗って」
「ちょ、ちょっとまて。牛までいるのか!? 大治郎みたいな仕事をしてるやつ」
「凄いよね。どんな仕事するんだろう」
まるで干支の話を再現したかのような話に驚いたが、本当に牛ってどんな仕事するんだよ。
「これから先、びっくりする動物に話しかけられるかもしれないね?」
ちっとも嬉しくないんだが。
ありえる話に頭が痛くなりそうだった。
しばらくまた間が開くかと思いますm(_ _)m