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大治郎2

「うん。暇なんだって…仕事山ほどあるのに…」

 確かにラゴ様が来てくれれば百人力どころか数万倍助かるけど…。

「助っ人が来てくれた時点で交代するらしいけど、その間の仕事は計都さんがやることになると思う」

計都さんっていうのはラゴ様の弟君のことだ。

「目の下にクマを作っている計都さんが見えるようだよ…」

「助っ人が早く来てくれることを願うしかないね」

 オイラと青空は同時に深く溜息をついた。

「あのキラキラのまま来るのかい?」

「ラゴ様に、変装してくださいって頼んでも聞いてくださらないと思うよ…精々服装が変わるくらいだろうね」

 ラゴ様はやたらとキラキラ光る長い金髪(膝の裏あたりまでの長さがあるんだよ)をお持ちで、そりゃー目立つことこの上ない。

「一応メッセージを送っては見るけど」

 普段の青空たちは普通の人たちには見えないから良いけれど、人前に姿を現すとなると色々と面倒が起こりそうな予感がオイラの中に湧き上がってきて、自分でも眉間に皺がよるのが分かった。

「ところで助っ人ってどのくらいで来るんだい?」

 青空は首を傾げて、さぁ…と呟いた。

「何も教えてくださらなかった…」

 いつもそんな感じで「サプライズ!」というのが常だからなあ…。

 二人で一緒にため息をついていると、店の方から船迫要たちがワイワイ出てくる声が聞こえた。

「あ、来たみたいだよ」

「そうだね、説明してすぐ戻らないと」

「あ、青空」

自転車置き場にオイラたちがいるのを発見して4人が近づいてくる。手には何か袋を持っているところをみると買い物はすんだみたいだった。

「大治郎に首輪買ってきたんだ」

 船迫 要が袋から猫用の首輪を取り出した。

 首輪…あんまり付けたくないなぁって思ったけど、任務中だから仕方ないか。

「タグは切ってもらったの! すぐ付けられるよ」

 獅狩っていう女の子がそう言って、俺は青空につけてもらった。

 薄い青(薄いとは言っても水色ほど薄くない)に雲の飾りがついた首輪だった。

 もっとも付けてしまえば、オイラには見えない。多少の締め付け感は仕方ないとして、諦めよう。

「ありがとうございます。あの・・・かかったお金は払いますので」

「日頃のお礼だと思って受け取ってくれると嬉しいんだけれど」

 都雅が要と目を合わせてそう言う。

「どこかで休もうか。大治郎がいるからベンチにする?」

 都雅が言うのでキョロキョロと辺りを見回してみたけれど、ベンチはなかった。

「公園に戻ったら、また子供に囲まれそうだし…」

「あ、それじゃ猫カフェに行こうか」

「猫カフェ?」

「うん、猫がいっぱいいるカフェなの。色々ルールがあってワクチン摂取済みじゃないとダメとか…えーと大治郎は大丈夫?」

「あ、大丈夫です」

 青空がニッコリと微笑む。そりゃね、オイラは普通の猫じゃないから病気にはかからないし。

「それじゃ、行こうか」

 近くっていうからどんだけ近いのかと思ったら大手スーパーのテナントに入っていて(入口はスーパーとは別)そのスーパーっていうのが、今いる場所から歩いて2分だったので、本当に近かった。

 オイラは青空に抱えられてそこまで移動する。

 ドアベルがチリンチリンと鳴りながらドアが開いて、全員で入ってみると確かに色んな種類の猫がいた。オイラみたいな黒猫は見当たらないけど。

「すみません、このこも一緒に良いですか?」

 獅狩がそう言うと、お店の人が来て飼い主(ここでは一応青空)に紙に色々記入させていた。

 青空はサラサラと書き込んで、笑顔で紙とペンを返した。

 案内された席は窓際で、オイラはてっきりファミレスみたいに(ファミレスに入ったことはない、外から見ただけ)四角いテーブルがあるのかと思ったら、丸いテーブルに椅子が何脚かおいてあって、人数によって椅子を追加するみたいだった。

 青空たちは飲み物を注文して、オイラは飲みたいのを我慢して青空の膝に座っていた。まさかジュースが飲みたいなんて声に出しては言えない。

 青空は急いでいるはずだったけど、それをまったく表情に出さずにいる。

「獅狩、向こうで猫と遊んでこようか」

「うん! さっきから気になってる猫いるんだ~!」

 都雅が目配せをして獅狩と一緒に猫がいる広いスペースに移動していった。

「後で八潮路さんに感謝を伝えてください」

 青空が控えめな声で言うと要が小さく頷いた。

「実は、僕はこれから任務で遠くへ行かなくてはいけないので、助っ人を呼ぶことになりました」

「助っ人?」

「はい」

「どんなやつ?」

「それが…あ!」

 青空が窓の方に視線をやって驚いたので、オイラも首を少しだけ上げてみると、キラキラしたものが目に入った。

 逆光になってるので、後光にみえるのが逆に恐ろしい。

 チリンチリンとドアベルが鳴ってラゴ様が入ってきた。

「やぁ、お待たせ青空。急いで戻りなさい。春空が待っている」

「あ、はい。あのそれじゃコーヒー代…」

「私が出す。説明も私がするから行きなさい」

「はい。それではまたご連絡します。失礼します! 大治郎、頼んだよ」

 最後の方はオイラに小声で言って、青空は帰って行った。そしてオイラはラゴ様の膝の上だ。

「さて、諸君。久しぶりだね」

 青空のメッセージが届く前に来たのか、もしくは届いていたのに読まなかったのか、いやラゴ様のことだから読んでいての、この格好かもしれない。

 相変わらず牧師のような格好をしていた。

 予想通り目立ちまくりだ。

 都雅が獅狩を連れて戻ってきた。

「やぁ、八潮路くん久しぶりだね。そちらの可愛らしい女性はどなたかな?」

 都雅が困った顔をしていると、獅狩がハキハキと自分で答えた。

「初めまして、私、九網獅狩と言います。九つの網でくもう、獅子の獅と狩人の狩でしかるで九網獅狩です。よろしくお願いします」

「これはこれはご丁寧に。私のことはどうぞラゴと読んでください、お嬢さん」

 聞いたことないようなセリフを言うので、オイラたち全員でぽかーんとしていると、ラゴ様がにやっと笑った。

「実は、近いうちに私の親戚が引っ越してくるのでね、彼らに色々とお願いをしにきたのだよ」

 近い年齢なのでね、と付け加えた後に店の人にコーヒーを頼み、青空の残してった冷めたコーヒーも飲み干すし。

「へー、ということは都雅たちと同じ学園に通うんですか?」

「そうなるだろうね。とても気さくな子なんでね、すぐに仲良くなれると思うよ」

「そっか、それじゃ男の子なんだ」

 獅狩もあっさり馴染んでる…すごい。

 とはいえ、深いところを説明すると巻き込んじゃうので、やはりそこは秘密にしないといけない。

 ってことラゴ様わかってるのかなぁ…やっぱりオイラだけだと心配だ。

「ラゴ様の言ってる親戚ってのが助っ人なの?」

 勇気がオイラに小声で聞いてくる。

「実際、親戚ではないと思うけど、助っ人のことだと思うよ」

 要に、勇気がオイラの言葉を伝えてくれるみたいだ。

「お嬢さんもぜひ仲良くしてくれると嬉しいのだが」

「あ、獅狩でいいです。ラゴさん」

 獅狩の隣で都雅が険しい顔をした。

「失礼! 呼び方が気に入らなかったかな? ではレディ?」

「え、いえ、あの、名前で…」

「レディ獅狩」

「え、あの、ええと…獅狩って呼んでいただければ良いんですけど」

「ふむ、レディも気に入らない? それではマドモァゼルでは?」

 さすがの獅狩もポカンと口を開けている。

「他の呼び方だと…何が良いかな?」

 思案中のラゴ様を見てオイラはこっそりとため息をついた。

「えと…お嬢さんでいいです…」

「おや? そうですか」

 獅狩が折れる形でそうなったけど、ラゴ様は絶対都雅の顔を見て楽しんでたと思うな…。眉間に皺寄ってるよ都雅。

「彼の家は丘の上の方にあってね。自転車通学になると思うのだよ」

 丘のある方角を指しながら、ここからは見えないがねと付け加える。

「はぁ」

 獅狩が少々気の抜けた返事をして、思い出したように自分の席にあった紅茶を飲んだ(もちろん冷めている)

 ラゴ様が頼んだコーヒーが到着して、アツアツのを一口飲むと、優雅に脚を組んだ。

「そいつの名前は?」

 要が呆れながら訪ねてくる。

「ふむ、そうだね。名前を言っておかなくては始まらないか」

 もう一口飲んで、少し間を置いた後にやっと口を開いて名前を言った。

「姓はよたく。余暇の余に金沢の沢で余沢。名はルカ。上流の流に歌で流歌。余沢流歌と言うのだよ」


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