第四十九話
中等部は数日通っただけで終わってしまい、一貫教育のわりに卒業式がきちんとしていたことに驚いている間に、あっという間に春休みに入った。
高等部の制服は少しデザインと色が違うらしく、新しく作ってもらうらしい。
勉強しなくても良いってのは、やっぱり嬉しい。
さっそく新しい携帯を買って、登録したのは勇気と都雅のアドレス。それから家と親のアドレスもろもろだ。
勇気が近所を案内してくれるというので、皆で遊びがてら行くことになった。
「もう一人連れて行ってもかまわないかな」
「良いけど…誰だ?」
「後のお楽しみ」
勇気が高等部に偵察に行くのは、新学期の直前ということになっていたので、まだ時間があった。
見上げると、電柱にカラス。
数羽いたので、どれがオニか分らなかったけど。
待ち合わせの公園に行くと、几帳面な勇気が一番先に来ていた。
「早いな、勇気」
「あ、要くん! こんにちは」
「よぉ。晴れて良かったな」
「うん!」
二人でブランコに座り、都雅を待つ。
「ブランコなんて、すっげぇ久しぶりだ。勇気はたまに来るのか?」
「うん。ここの公園じゃないけどね。妹たちと一緒に行くことが多いかな」
「妹いるのか!」
勇気は少し意地悪そうに俺に笑う。
「うん、小学生だけど」
表情で色々読まれていたらしい。少し恥ずかしかった。
「それにしても都雅が最後とは意外だな」
「そうだね。要くんが最後かなーっておも…あっ、いやその、遅刻とかそういう意味じゃなくて! まだこの辺の地理に疎いからって思っただけだよ、ほんと」
大慌てで勇気が言ったので、俺は小さく吹き出して笑った。
「お袋にも言われてさ、近くまで送ってもらったんだ」
「あ、そうだったんだ」
「お友達を待たせちゃだめよってさ。最近は、今の俺にもだいぶ慣れたみたいだな」
「そっか。元気になった要くんを見て安心したのかもね」
眠ったまま目を覚まさなかった船迫 要。
目覚めた後、記憶をなくしたと嘘をつかなきゃならない、要の体を借りてる俺(三刀屋鋼樹)。
せめて心配かけないように、親の前では元気にふるまうようにしている。
「あ、都雅くん来たよ」
勇気の声で公園の入り口を見ると、都雅が女の子を連れて歩いてくるところが見えた。
そして、俺と勇気はポカンと口を開けて眺める事になったのだ。
いつもの顔じゃない。
いつもの歩き方じゃない。
いつもの都雅じゃない!
俺たちに見せる微笑み方と明らかに違う!
女の子の歩く速度に合わせてゆっくり歩き、柔らかく微笑みながら会話をしている。
特に手をつないでいるわけでもないのに、分かるほどだった。
「やぁ、二人とも。なにぼけっとしてるの?」
「い、いや。その。ああーと。こんちわ」
「こんにちは」
女の子の方が、俺ににっこり笑いながら返してくれた。
「ええと、どちらさん?」
「こちらは、僕の心を捉えて離さない稀有な女性、九網獅狩嬢。獅狩、こっちが昨日話した船迫 要と鳶沢勇気だよ」
「初めまして、九網獅狩です。都雅がお世話になってます」
「はぁ、いやどうも」
「鳶沢です、どうぞよろしく!」
特別に美人ってわけでもない。
まぁ、そこそこ可愛いかな。
以前から同い年だとは聞いていたけど。意外っちゃ―意外な組み合わせに見えた。都雅だと大人っぽい女と歩いていそうなイメージがあったから。
おかっぱ頭だけど、栗色の髪でそんなに重く見えない。
「何だよ都雅。彼女いるのを自慢しに来たのかよ」
俺がそういうと、彼女がいたずらっぽく笑った。
「違いますよ。私に友達を見せたかっただけ」
驚いて都雅を見ると、都雅には珍しくそっぽを向いていた。
否定しないところをみると当たっていたのか。
「初めて学校で友達ができたっていうから、どんな変人かと思ったんだけど。普通の人で良かったー」
「獅狩、それはちょっとひどい」
いつもの強気な都雅がでない。
困ったような照れくさそうな顔をして立っている。
「いや、俺、かなり普通じゃないんだけどさ」
俺が言うと、彼女は微笑んだ。
「いいのいいの。どうぞこれからも都雅をよろしくお願いいたします」
深々と頭を下げられて、俺と勇気も「こちらこそ」と言いながら頭を下げることになってしまった。
「獅狩…そこまでしなくても」
「マナちゃんからも、頼まれて来たんだからねー」
都雅の母親マナちゃん(そう呼ぶように言われる)も、やっぱり色々考えるんだなぁと、ちょっとジーンとした。
「っていうわけで、都雅の友達は私の友達! 私もよろしく! 友達だからタメ口で良いよね」
あっさり、くだけるし!
「い、良いけど…」
「それじゃ、私のアドレス教えとくね」
さっと都雅の表情が変わる。焦っているようだった。
「獅狩、それは…」
「友達だから、良いじゃない。ええとー勇気君?」
「え、僕?」
「うん、固まってるけど大丈夫? はい、携帯だしてー」
半ば茫然としたまま、携帯をだすと赤外線でアドレスを送る。俺の携帯にも同じようにして、にっこりと満足そうに微笑んだ。
「はいはい、二人の友達ゲットー!」
三人の男が固まったまま動かないのをよそに、獅狩はピョンピョンと辺りを跳ねまわった。
「テ、テンション高いな…」
「いつもは、ここまで高くないんだけどね…」
都雅は苦笑しながら、跳ねている獅狩を見つめていた。