第四十六話
「うわぁ、やめてよ!」
「いいじゃん、いいじゃん。はははは、サンキューな勇気」
「え? うわぁあ、やめてよ!要くん!」
向かいにいた都雅が首をかしげているのが目に入って、俺が手を止めると、その隙に勇気に逃げられる。
「どうした、都雅」
「いや、随分と簡単に言うなと思って」
勇気の肩がビクッと震えた。一瞬にして顔がこわばる。
「勇気は俺を元気付けようとして言ってくれてんだからさ。今のところはいいんじゃねぇの?これから色々問題はでてくるだろうけど。俺がこのまま意気消沈してるよりはマシだろが」
そういうと、都雅はにっこりと笑った。
少しドキッとする笑い方だった。
「なるほどね、了解。そういう言い方もあるってことか」
「……もしかして今まで誰かを元気付けたことない…とか」
「ん〜、どうだろうね」
「……それで、良く彼女できたな」
「懐の広い彼女なんでね」
ふふふと意味ありげに都雅は笑った。
「あ!やっぱ、年上だろ!」
「残念、はずれ」
「え〜?」
「勇気は知ってるのか?」
ビクッとなった勇気だったが、都雅が笑っているのでホッとしたようだった。すぐに頬を緩めて微笑む。
「えっとね、詳しくは知らないんだけど、一緒に歩いているところを見たことあるよ。あれは多分、近くの公立の制服だと思う」
「ほぉ…ってことは年下?」
俺がにやりと笑って見せると、都雅は苦笑して肩をすくめる。
「極端なものの考え方は、後々困ることになるよ。ちなみに、同級生…ん、学校が違うから同い年の方が正解かな?」
「へぇ…同い年ね。意外。でもさ、俺のことに巻き込まれたら会えないんじゃないか?」
都雅は少し口の端をあげて笑う。
「まぁね。でも、説明するから。友達を救うためだってね」
「へぇ。文句いわないのか」
「さっき言ったろう?懐の深い女の子なんだよ」
「ほほぅ、興味がありますな」
俺がそう言って、都雅の顔を見ると一瞬、目が光ったように見えた。
「いずれ会えるよ。でもね船迫 要くん。手を出そうと思わないことだよ」
と、にっこり…。
俺と勇気絶句。
こえぇぇ。
今の微笑みは今までの中で一番怖い微笑み。
絶対、何もしませんと心に誓った俺だった(たぶん勇気も、そう思ったに違いない)。