第四十五話
「春休みに入ったら、勇気は学校へ潜入だろ。俺は勉強…うぅん、つまらない」
「そういう問題じゃないでしょ」
都雅が苦笑して俺にクッションを軽く投げてきた。
「そんなに、つまらないなら楽しいことしようか?」
「楽しいこと!?何だそれ!」
俺がわくわくしてクッションを投げ返すと、すぐに都雅も投げ返してきて、にっこりと悪魔の微笑み。
「学校の勉強」
俺はクッションを抱きしめたままベッドへと倒れこんだ。
「勉強が、楽しいことかよ」
「楽しいでしょ。問題解けると」
なるほど、頭の良いやつはこうしてできるわけだ。
俺がベッドの上で唸っていると、勇気が隣で小さく笑った。
「どうした?」
「だって、要くん。犬みたいに唸るんだもん」
「俺は昔から勉強は嫌いなんだよ」
「昔からっていつから?」
「え…」
俺は思い起こせる昔を、思い出そうと記憶をたどったが出てこなかった。出てこないどころか、ひとつも何も思い出せない。
「……あれ? これって記憶喪失?」
「え? だって以前20代だって言ってなかった?」
「おうよ」
「20何歳?」
「………」
確か後半だった…はず。と思ったがそれも確かではなかった。名前とあやふやな年齢しか覚えていないのだ。
「この町に来たことがないのは確かなはずだけど、実際何処に住んでたかは覚えてない…」
俺がそういうと、都雅の目が細められた。
「それは、コレクターに記憶を奪われたのかもしれないね」
「……、記憶をコレクションするって言ってたもんね」
おいおい、それじゃぁ俺の記憶は戻らないのかよ。
がっくりと肩を落としていると、めずらしく勇気が声を張り上げた。
「でもさ!取り返せばいいんでしょう? 身体も記憶も取り戻そうよ!ね!」
「……おう!」
俺は起き上がって、勇気の頭に手を載せて髪の毛をグシャグシャとかきまわした。