第四十三話
「この糸は沢山の集合が縒られたものなので、その全てが切られない限り、糸が切られたことにはならないのです。一本だけでも繋がっていれば、生きている。切れた場合は魂に巻きついて次第に色をなくしていきます。三刀屋さんを見る限り、糸は巻きついていないので、まだ繋がっています。その繋がっている糸を伝って見つけられた者が、解してばらばらにしたのでしょう」
「解されて見えないのに、巻きついていないの分かるの?」
都雅がすかさず言うと、青空は都雅に向かって頷いた。
「糸は自分で縒る性質を持っています。解されても自分でもとに戻るはずなのですが、今回の場合は多分何かで一本一本を抑えているのでしょう」
「そこに、コレクターが関わってくるのだろうね。沢山のコレクターがその一本一本を掴まえているのではないかな?」
ラゴ様が自分の金色の髪を、まるで気の糸のように指でつまみ上げる。
「そうすると、細すぎて見えなくなります。譬えると蜘蛛の糸のような感じでしょうか」
俺たち三人は頷いた。
蜘蛛の糸と言われれば、何となく分かる。
「それじゃ、俺の魂についた気をこう…糸を手繰るようにしていけば、見つかるんじゃないのか?」
俺はラゴ様の髪を引っ張ってそう言った。いや、引っ張ったつもりだったけど、ラゴ様の頭は微動だにしなかった。
「あれ?」
ラゴ様は小さく笑う。
俺の指には何も挟まってはいなかった。
「あれれ…」
「そこに色々複雑な問題が絡んでくるのだよ」
「複雑な問題って?」
「まず解されてしまうと、殆どの者には見えないし。見えても止まっているわけではないので見失いやすい。さらに本人以外では触れられないものなのだ」
都雅が眉を寄せて首を傾げた。
「矛盾が発生してない? 本人しか触れられないのに、何故解されたりコレクターが押さえていられたりするの」
「たった一つだけ例外があるのだよ」
ラゴ様は右手の人差し指を俺たちに見せるように突き出した。
「例外?」
「そう。血だ」
「血…?」
「血って…俺の?」
「そうです。三刀屋さん本人の血で掴む事が出来るのです。ですが、我々は器を傷つける事は出来ません」
「ああ…それで人間と協力せざるを得ないってことなんだ…」
都雅が呟くと、青空は目を閉じながら頷いた。
「今回は人間も器を必要としているため、速やかに協定が結ばれたのでしょう」
「待ってください。本人は掴む事が出来るなら、要くんが自分で掴みながら探せるんじゃないですか?」
勇気がパッと明るい顔になって言ったが、ラゴ様も青空も、ついでに大治郎も首を横に振った。
「大事な事を忘れている。残念ながら、彼は糸が見えない」
「見えていないため、触れている事に気づかないのです」
二人の言葉に、俺と勇気はがっくりと肩を落とした。
「それじゃあさ。俺だと見つけられるかもしれないって言った理由は?」
「第六感…です」
「だいろっかん…? って何?」
「人間が感じる感覚、視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚の五感があります。そのどれでもない。所謂、勘というものです」
勘に頼れと?
半分呆れて、俺は口を開けっ放しだった。
「勘をバカにしてはいけない。多くの雑多な情報を排除すれば、自分の器が近くにあるかどうか分かるはずだ」
「雑多な情報…?」
「あの〜」
大治郎がラゴ様の腕の中で、遮るように言ったので全員が大治郎に注目した。
「どうしたの? 大治郎」
「ひとつ。おもいついだんだけど」
「うん」
「そこの坊や使えないかなぁ?」
「坊や?」
大治郎の視線は勇気の方を向いていた。
「…ぼ、僕?」
「かなり耳が良いんだよね。もしかしたら…、聞こえるかもしれないよ」
ラゴ様と青空は顔を見合わせる。
「本当?」
「だってかなり騒がしかった上に、離れた場所で囁いたおいらの声を、聞き取ったくらいだからさ」
「何だと?」
「それは…可能性があるかもしれませんね」
「ちょっと、二人と一匹で話を進めないでくれないか」
俺が声をかけると、はっとしたようにこちらを向いた。
「何が聞こえるっていうのか説明してくれ」
「すいません…えっと」
「その説明は私がしよう。前に魂は音を奏でると言ったのを覚えているかな?」
「ああ、ええ。はい」
「そう。魂は音を奏でる。それはもちろん魂玉に入った時なのだが、それに共鳴するように、微弱ながら器も音を出しているのだよ。微かに聞こえるのだ。耳鳴りの音に近いがね」
「……は?」
「同じ音は一つとしてないといわれている。つまり、その音を聞き、覚えることができれば、見つける確立が高くなるというわけだね」
頭がグルグルしてきたぞ。
意味がわからねぇ。