第四十二話
「自宅待機しかない」
がっくり…。
俺は立ち上がると「ぐあーっ」と叫びながら、都雅のベッドにダイブした。
大治郎がつぶされないようにとピョンと飛んだ。
身体が何度か跳ねた後、俺は身体から力を抜く。
「俺にすることは無いのかよ」
「そうだ。校舎は勇気に行ってもらおう。先輩から変わった事なんかを教えてもらえるだろう?」
都雅がそう言ったので、俺は身体を起こした。
「んで、その間。俺達は何してるんだよ?」
都雅はにこっと笑う。
「勉強」
「……は?」
「べ・ん・きょ・う」
「いや…スタッカートつけて言わなくても分かるけど…えっ…。学校の?」
「違う違う。コレクターや魂の事について…だよ。勇気には後で説明する事にして、分担した方が良いと思う。本当はオレも別な事をした方が良いとは思うけど、要をほっとくと何をするか分からないし」
まぁ…短時間で俺のことをよくわかっていらっしゃる。
「二人で憶えたほうが、勇気に補足しやすいだろ?」
「確かに」
俺が頷くと、都雅は勇気の方を振り向く。
「一人で校舎に行く事になるけど。構わない?」
「……う、うん。大丈夫だよ」
右手の拳をギュッと握って、勇気は二度頷いた。
「そうしてもらえると助かるなぁ。おいらと同じような仕事をしている仲間が、帰って来ないんじゃ迂闊に入れないって青空が言うからさ」
「ぼ、僕が入っても大丈夫だよね」
「おっ、心配かい? やっぱりここはおいらの出番かな」
ベッドを俺に占領されて、床に降りていた大治郎がそう言うと、青空が大治郎の首の後ろ辺りを持ち上げる。
「大治郎。だめだって言ったろう?」
「えー。おいらは行ってみたいんだけど…なぁ」
上目遣いで青空に言った大治郎は、厳しい顔の青空を見て視線を逸らした。
「青空は怒ると怖いから…やめる」
俺は思わず吹き出してしまい、それにつられたかの様に都雅や勇気も笑った。
「大治郎はすぐに危険な場所に行きたがるんだから」
「義侠心だよ義侠心」
「違うでしょう。そういうのを無謀って言うんだよ」
青空は大治郎の顔を自分の方に向けると、怖い顔をして見せた。
「……分かってるよ…分かってるってば。ちょっと…言ってみただけじゃないかぁ」
「青空。もうそれくらいで許してあげなさい」
そう言ってラゴ様は大治郎を抱き上げた。
仕方なさそうに手を離した青空は、ため息をつく。
「へへへ…ありがとうございます、ラゴ様」
「大治郎も少しは自重しなさい」
ラゴ様の膝の上でしゅーんとうつむいた大治郎は、猫らしくニャーンと鳴いた。
「他に質問はありますか?」
青空が俺たちの顔をそれぞれ見ながら言うと、勇気が学校でもないのに小さく手を上げた。
「あの、『気』のこと教えてもらえませんか」
「そうだった。俺もそれ聞きたい」
「分かりました」
『気』が身体と魂をつなぐ糸のようなものだと言う事は憶えている。でも、見えなくなったのに俺が死んでいない理由が分からない。
「我々が器と呼ぶ人間の肉体と魂とを繋ぐ細い金色の糸のことです。その糸が切れた時、初めて死んだということになります。この糸は細いとはいえ簡単に切れるものではありません。ただし、寿命が来た時と器が機能を停止した場合は自然に切れます。切れると言うか、離れるのです。器と糸がまるで同じ磁極になったかのように弾かれて離れます」
「寿命がきていない時の糸はハサミを使えば切れる…などという代物ではないのだよ」
ラゴ様は左手の人差し指と中指をハサミに見立てて、動かして見せた。
「切られていないのに、見えないとなると…多分、解されてしまったのだと思います。」
「ほぐされた?」