第四話
「ここ、個室じゃないか…うわぁ金持ち…」
「変な感動しないでください。それより、彼の身体を借りるための注意事項です。まず、彼は高校一年生ですから未成年だってこと忘れないで下さいね。タバコやお酒はだめですよ」
「えーっ…だめ?」
いつまで我慢できることか。
「だめです。それから、高校に通ってもらうことになるかもしれません」
「ちょっと、待てよ」
「彼は高校生です」
「分かってるけど、俺の身体を捜さなきゃならないだろう?」
「もちろんです。でも、高校生の彼が昼間からうろうろしていたらどうなります? これも条件のうちです」
「遠くにあったら見つからないじゃないか!」
青空はパソコンの画面を俺に見せる。
「いいですか、ここが唯一感知できた気の最後の場所です。ここまでなら気を辿ることができます。この気の範囲を考えると非常に近くにあると思われるんです」
「ここ、学校じゃないか」
「はい、丁度彼が通っている学園の中庭です」
「分かったよ…でも学校以外は好きにさせてもらうからな」
「彼の自宅にはなるべく帰ってください」
そう言って青空はベッドの脇にあるテーブルに折りたたんだ紙を置く。
「これは彼の行動範囲の地図です。忘れずに持って行ってくださいね」
「青空、太陽が昇るよ」
「うん、わかってる」
青空は器の身体を横向きに動かした。点滴をしてるためうつ伏せにはできないかららしかった。
「それじゃあ、彼の背中に手を当ててください…シール外しますよ!」
「えっ」
待ってくれという間もなくシールが外された途端に、ガクンと身体が揺れる。
「気持ち悪い…」
耳慣れない声が聞こえてきて、俺は瞼を開けた。
どうやら上手くいったらしい。
吐きそうになって身体を仰向けに戻そうとした時、看護士と目が合った。
「せっ先生!」
バタバタと足音を立てて看護士(女)は走っていった。
病院って走っちゃダメなんじゃなかったっけ? あれ学校か…?
カーテンが開いていたため、窓から太陽の光りが見えた。あいにく建物の影で太陽自体は見えなかったけど。
点滴が邪魔で、思うように動けない。それに何だか体中の力が出なかった。フワフワしてる。そのうえグルグルで時々グワングワンだ。
「同じじゃないか…」
飛んでる方が良かったような…なんて考えていると、数人の足音が近づいてきた。
「君の目の錯覚じゃないだろうね」
「違います、確かに目を開けていました!」
数人が走り寄ってきて、俺の顔を覗き込む。
「ああっ、気付いたんだね!」
大きな声を上げるので、頭がガンガン痛くなる。吐き気も強くなってきた。
「言い忘れてたけど、拒否反応で頭痛と吐き気がするから」
声の方に視線をやると、青空が大治郎の尻尾につかまったまま空中に浮かんで窓の外にいた。
「あ…」
おぞら…と言おうとすると、口の前に人差し指を持ってくる。
「あなた以外には見えていないし聞こえていないですよ……明日になれば治ると思います。それじゃあ」
そのまま上に上がって行くのかと思ったら、風船が萎んで行くように下へ下へとゆっくり降りていった。