第三十六話
「入って」
「あぁ」
十二畳くらいの部屋だった。
その中に大き目のベッド(後で聞いたら特注品だそうだ。背が高いので、既製品だと足がでるんだと言ってた)と、勉強机。その勉強机は俺の記憶の中にある机と違って、茶色じゃなかった。隣にあるラックと同じ材質で出来ているらしい。上の部分は淡いブルーで、支柱は薄いグレー。部屋全体がブルーを基調としているようだ。本棚までブルーだ。
「好きなとこに座って」
都雅はそう言ってクッションを俺たちに渡す。
「サンキュー。それにしても、お前の両親って変わってるな。親父さん、いつもあんな感じ?」
都雅は首を横に振って笑う。
「あれは営業用だね」
「営業用…?」
「そう。勇気がファンだって言うのを聞いていたんじゃないかな? 画家としての外観を作ってるんだって。今、下に行ったら面白いと思うよ」
俺と勇気は顔を見合わせた。
「面白い…とは?」
「見に行く?」
「行ってもいいのか?」
「勇気は? 行きたい?」
「ちょっと…見てみたい」
都雅は苦笑して、頷いた。
「静かに下りてね」
俺たちは都雅の部屋を出て階段を静かに息を殺しながら、ゆっくりと下りた。
下から微かに声が聞こえてくる。
都雅の親父さんとマナちゃんの笑い声だった。
「右文さん、はい、御味見〜」
「ん…うん。美味しい」
「本当? うれしい〜」
「これは洗っちゃってもいいのか?」
「うん、いいよ〜」
そっと影から覗くと、右文さんはマナちゃんとお揃いのフリルが沢山付いた白いエプロンをしていた。
満面の笑みでボールや菜箸を洗っている。
そして、視線に気づいたのか俺たちを見つけて慌ててしまい、お皿を一枚割ってしまった。
「とっ、都雅っ」
「ごめんごめん」
「右文さん、怪我しちゃうわ。ほら、もう良いから。ご飯をよそってくださいな?」
「う、うむ」
「僕も手伝います」
勇気が目をキラキラさせて駆け寄って行った。