第三十三話
「……なんだか…馬鹿でかいな」
「住居として使っているのは半分くらいだよ」
都雅の家は二階建ての一軒家の隣にもう一個平屋の家がくっ付いているような形をしていた。
表札には“八潮路 右文”と書かれてある。
「八潮路…う…ぶん?」
俺の呟きに都雅が小さく笑った。
「なんだよ…」
「ごめん。それは“うもん”と読むんだ」
「うもん?」
「そう。ゆうぶんという古語からきているんだってさ」
「ふうん…」
などとやりとりしていると、お袋が小さくため息をついた。
「あの、右文…なのね?」
というので、俺は首を傾げる。
「あの? と言うと?」
「えー? 要くん、もしかして八潮路 右文知らないの?」
「何だよ…勇気は知ってるのか?」
「もちろんだよ」
誇らしげに胸を張る勇気に何となく腹を立てて、俺は勇気の鼻を軽くつまんだ。
「じゃあ、教えろよ」
「て、はなひてよー」
都雅が勇気の答えを待たずにドアを開けて車を降りた。
「家に入れば分かるよ」
「お、おう」
俺は勇気の鼻を掴んでいた手を離した。
「もう…要くんは乱暴なんだから…」
「何だと?」
「わー。ごめんなさいごめんなさい…」
勇気が慌てて車を降りる。俺も急いで降りて勇気を捕まえると、わき腹をくすぐった。
「わー、くすぐったいよ! やめてってばー!」
ケラケラと勇気が笑うと、車の中からお袋の小さい笑い声が聞こえた。
「お袋?」
「ごめんなさいね…そんなに楽しそうな要を見たのは久しぶりなものだから…」
そう言ってくすくす笑う。
「それじゃ、電話して頂戴ね。迎えにくるから」
お袋は軽く手を俺に向かって振ると、車を発進させた。
その車が角を曲がるのを見送って、俺たちは都雅の家に入った。