第三十二話
「そうだったっけ…」
全員が車の方を見ていると、都雅が小さく唸る。
「どうしたの? 都雅くん」
「………いや、オレの家で良ければ、場所を提供するけど」
「え?」
「ここから近いのはオレの家だろうから」
青空と俺は顔を見合わせて、頷いた。
「それじゃあ、お願いしてもよろしいですか?」
「いいよ」
「それでは、先に八潮路さんの家に向かってください。僕らもすぐに行きますので」
「分かった」
小走りで車に戻ると、お袋がほっとしたように微笑んだ。心配していたようだった。
「ごめん、これから都雅の家に遊びに行く事になったんだけど…」
後部座席のドアを開けて、都雅たちの鞄を取って渡しながら言うと、お袋の顔色が変わる。
「ええ?」
「すぐ近くだから歩いていくよ。それじゃ」
ドアを閉めて行こうとすると引き止められた。
「待ちなさい、要」
「何?」
「乗りなさい」
険しい顔でお袋がパワーウィンドを開けて顔を出す。
「友達の家に遊びに行くくらい良いだろう?」
「ダメだと言っているんじゃありません。乗りなさいと言ってるの。あなたは退院したばかりなのよ? お願いだから、心配させないで頂戴。お友達の家まで送るから」
俺はちょっと驚いて目を瞬かせた。もっとヒステリックに反対すると思っていたからだ。
「……分かった」
勇気と都雅と顔を見合わせて頷くと、車に乗り込む。
「送る前にお友達を紹介してもらえるかしら?」
「あ、ええと……」
勇気が俺の目を見て小さく頷いた。
そういえば、お袋は勇気のことは知っているんだっけな。
「えっと、鳶沢のことは知ってるよね。鳶沢 勇気くん。それでこっちは八潮路 都雅くん。同じクラスだよ」
都雅はバックミラーに映ったお袋に軽く会釈して見せた。
「それで、どちらのお宅に伺うのかしら?」
「都雅…くんの家に」
「そう…それじゃ、道案内をよろしくね」
都雅はコクンと頷く。
「まず左折を」
「左折ね」
ウインカーを上げて左折する。
次の信号を右に曲がって少し狭い道路を入った後、まっすぐ行くと広い道路に繋がっていて、その道を右折。T字路の角に都雅の家はあった。