第三十一話
隣の勇気と都雅を見ると、置いてきぼりにされたような顔をしている。そして俺の方を見ると苦笑いしてみせた。俺も苦笑して返していると、青空が「何てことだ」と小さく呟く。
「青空…えっと…悪いんだけど…説明してくれない?」
「ああ…そうでした。申し訳ありません。こちらはラゴ様。僕の…何と言えばいいでしょう…その…養父…でしょうか」
「養父?」
「私は父親になったつもりはないんだけどね…せめて師匠にして欲しいのだが」
ラゴは微笑みながら青空にそう言った。
「申し訳ありません……ええと、それで僕が今の職業につくまで面倒を見てくださった方です」
「ちょっと待て。そもそも青空たちの職業って何だよ」
俺たちの足元で、のんびり毛づくろいをしていた大治郎が驚いたように跳ね上がって、俺を見上げる。
「あれ? 言ってなかったっけ?」
「聞いていない」
「おやおや…どうやら最初から説明しなくてはならないようだね。青空」
「はい…申し訳ありませんでした。話す機会がなくて…まず、僕は現在探索部に所属しています」
「探索部?」
「はい。お気づきの事と思いますが、僕らは黄泉の国つまり死んだ魂が集う国で働いています。色々な仕事があるのですが、いわゆる死神とあなた方が呼んでいる仕事もその一部です。大まかなものを言いますと、僕が所属する探索部、それから"らいごうぶ"。あとは"ほうりべ"ですね。この三つと…それらを統括する玉繭。それからこの部に所属していないコレクター、それから"じゅう"の二つ」
都雅の隣で、勇気が黄泉の国?と小さな声で驚いている。
「探索は分かるとして…『らいごうぶ』とか『ほうりべ』って何だよ」
「来る…の来に迎えるで来迎です。あなた方が死神と呼んでいる仕事です。つまり死者を迎えに行くんですよ。ほうりべは祝う部です。大抵の場合はほうりと呼びますが。この仕事は魂を清めて生まれ変わる手伝いをする部署です」
「あの〜、統括する部が何で『玉繭』って言うんですか?」
勇気が恐る恐ると言った感じで尋ねると、青空が困ったような顔をした。
「それを説明すると、長い歴史の話になってしまうので、もう少し時間ができたらお話しすると約束します」
ラゴ様がうんうんと頷いた。
青空の隣でラゴ様が動くと金の髪がキラキラ光って、集中力のない俺はついそっちを見てしまう。俺と目があったラゴ様はにっこりと微笑んで見せた。
「青空」
「はい? 何でしょうか、ラゴ様」
「どうやらここではゆっくり話ができないようだ」
ラゴ様は俺を見ながら言ったので、俺は何だか慌てて(ラゴ様みたいなのは苦手なんだよな)首を横に振る。
「あ、いや。えっと」
「そう言えば、要くんのお母さんも待っているし、あんまり長く話さない方がいいかもしれないよ?」
勇気が車の方を見ながらそう言った。